発足したばかりの「トキウム防衛隊」の司令室。瑛太隊員が「今日から任務開始だ!」と入室すると、隊員たちが山のような請求書の処理に追われている。そのとき、怪獣が出現。「出動だ!」と瑛太隊員が呼びかけるが、「それどころじゃないの!」「ペーパーレス化が先では?」と“総口撃”を受ける……。TOKIUM(トキウム、東京・千代田)の「TOKIUMインボイス」のCMだ。
同社は、筑波大学の学生を中心に2012年に設立。家計簿アプリや経費精算システムの開発で急成長した。そして20年、請求書の受け取りから電子化、原本管理まで代行する請求書受領システム「TOKIUMインボイス」の提供を開始。22年の電子帳簿法改正や、23年開始のインボイス制度にも適応する。
「新型コロナウイルス禍でリモートワークが増えても、請求書はまだ紙が多く、経理の方は出社が必要。また、インボイス制度で請求書の仕様が定められ、受け取る側も“適格請求書”になっているかを精査しなくてはいけなくなります。そのチェックを含めて、請求書に関するあらゆる課題を解決したいと開発したのが、『TOKIUMインボイス』です。法改正の影響で市場全体が盛り上がりを見せるなか、まずは認知を上げ、信頼度や指名検索数も上げたいと、初のテレビCMを企画しました」(TOKIUMビジネス本部 マーケティング部の鎌倉知紗氏)
埋没しないよう「オフィスを出て、スーツも着ない」
企画を担当したのは、リクルート「SUUMO」や大正製薬「リポビタン」シリーズなどのCMを手掛けるBORDER inc.のクリエイティブディレクター・横澤宏一郎氏だ。
「最近は、オフィスでの困り事を描いて、『そんなときはこれ!』とポーズを取るようなSaaS(Software as a Service)系企業の広告が多い。まずはそこに埋没しないよう、オフィスを出て、スーツも着ないものにしたいと思いました。
そのころに見たのが、三木聡監督の映画『大怪獣のあとしまつ』。怪獣の死体処理に防衛隊が奮闘するという発想が面白く、こんな舞台裏にも請求書業務はあるはずだよな、と(笑)。防衛隊ならスーツを着なくていいし、ユニフォーム姿は、バナー広告やホームページでも目を引く。ユニフォームをグリーンにしたら、TOKIUMさんのコーポレートカラーも打ち出せると思いました」(横澤氏)
こうして「トキウム防衛隊」を発想。請求書が溜まって、本来業務に支障をきたすというストーリーを考えた。隊員役には、永山瑛太と「東京03」の3人、スターダストプロモーション所属のアイドルグループ「AMEFURASSH I(アメフラッシ)」の愛来(あいら)を起用した。

「特撮モノの隊員構成は、リーダー格の主役に、バイプレーヤー的なベテランがいて、ヒロインがいるという形が最小ユニット。まずはそこに当てはまる演技派の方を考えました。
瑛太さんは、男前なのでヒーロー役が似合って、熱くてちょっと空回りしてしまうキャラクターにもハマる。東京03のみなさんは演技がうまい上に、『あ、東京03だ!』となるので、普通に役者さんを入れるよりもフックになるなと。トリオやコンビの方にお願いできると、予算的にもありがたいという裏の事情もありました(笑)。愛来さんは、オーディションで選びました。女性隊員は、一瞬で目を引くヒロインであるべきだと思ったので、オーディションに参加した人の中で、ひときわ“華”があった愛来さんを推したんです」(横澤氏)
監督には、高齢者の鉄棒が話題になったクレディセゾンのCM「ザ・大車輪」(04年)や木村拓哉が出演したニコンのCM(07年)を担当し、最近では滝藤賢一、竹財輝之助による転職サイト「Green」のCMを横澤氏と手掛けている丹羽慎治氏を起用した。
「コントっぽい企画は、CMを見た人に『この会社に頼んで大丈夫?』と思われかねない。クオリティーが求められるんです。丹羽さんは化粧品のCMもバリバリやっている人なので、クオリティー高く仕立ててもらえると思いました」(横澤氏)
成功事例に乗らず攻める
撮影は、スタジオにセットを建てて行った。美術や衣装で意識したのは、懐かしさと未来感のバランスだ。
「サービス自体は現代的なものですが、世界観が新しすぎると、導入を決裁する中高年層に、『自分たちが好きな特撮モノじゃない』と違和感をもたれてしまう。新しすぎず、古くさすぎない、微妙なさじ加減にこだわりました」(横澤氏)
もう1つ意識したのは、隊員の人間関係だ。鎌倉氏は「上下関係を作らないようにした」という。
「請求書処理は面倒だし、それ自体で売り上げが上がるわけではないので、みんな後回しにしがち。だから『全員で立ち向かうもの』というイメージにしたかったんです。最後の『何で、まだなの』という瑛太隊員のセリフも、上司から怒られる姿をターゲットに想起させてはいけないので、ニュアンスにこだわりました」(鎌倉氏)
22年7月から、冒頭の「発足」篇と、続く「出動」篇を放送すると、指名検索率が上昇。「8月の売り上げは、目標としていた水準までCMで後押しできた実感がある」と鎌倉氏は語る。

成功要因としては、同種のCMに埋もれない異色の設定やコミカルな展開、訴求ポイントを絞ったことも大きそうだ。「あらゆる会計ソフトと連携可能」「安心のセキュリティ」など同サービスには“売り”が多いが、説明は「請求書の受け取りを代行。完全ペーパーレス」のみに留めた。
「初のテレビCMということもあって訴求したいことが多く、社内では紛糾しました(笑)。でも競合と違うのは、受け取りから代行すること。初心に返って、頑張って調整しました。企画段階では、SaaS系の成功フォーマットに乗って正攻法でいくのか、乗らないで異色のものにするのか、最後まで悩みました。ただ、弊社は後発。費用がかかるCMだからこそ、よりインパクトのある企画で攻めました」(鎌倉氏)
TOKIUMの得意先は、日本テレビや吉本興業、トリドールなどの「企業」がメイン。「BtoB」(Business to Business)のCMという点で意識したのは、どんなことなのだろうか。
「社内で議論に時間を費やしたのは、ターゲットをどうするか。例えば、転職サイトのCMに『こんな優秀な人材、どこで見つけたんだ』というセリフがありますが、それは明らかに社長などの決裁者を狙い撃ちしたものですよね。でも弊社のサービスは、まだ新しい市場のものなので、現場の人たちが『請求書』『システム』などのワードで検索して、上司に提案するケースも多いんです。決裁者にも、現場の人たちにも伝わるものにしたいと、わがままなお願いを横澤さんにしました」(横澤氏)
横澤氏は、「BtoBのCMでも、ターゲットは広く考えた方がいい」と話す。
「BtoBの広告はターゲットが狭いので、YouTubeやタクシー広告で決め打ちすればいい、テレビCMはやる必要がない——となりそうですが、『B』は、分解すると、個人の『C』(Customer)なんです。例えば僕がCMを担当した日野自動車の2トントラックは、個人で買うものではないのでBtoBの商品。でも『法人』なんて人はいないし、トラックを購入するのは個人商店も多いので、根本はCなんです。だから、幅広い人に『あのCM、いいね』と思われた方がいい。運転手の方にも、『あ、ヒノノニトンだ!』なんて子どもたちに言われた方が喜ばれる(笑)。そういった効果もあるので、テレビCMをやるなら、ターゲットは広めに持っていたほうがいいと思っています」(横澤氏)
フォーマットがしっかりと固まっているだけに、「トキウム防衛隊」の続編があるかどうかが気になるところだが、既に構想はある様子。
「次はぜひ司令室の外でロケしたいと考えていたところ、永山さんからも『次はロケしたいですね』と話があったんです。まだ言えませんが、さらに具体的なアイデアの提案もありました」(横澤氏)
「予算の問題があるので、そのアイデアを実現できるかどうかはまだ分かりませんが(笑)。でも、この企画を選んだポイントの1つは、シリーズを続けやすいから。ぜひ続けて、目標のシェア1位を達成したいです」(鎌倉氏)
BORDER inc. クリエイティブディレクター
TOKIUM ビジネス本部 マーケティング部