三井住友銀行のCMに出演する吉高由里子と内村光良、三井住友カードの小栗旬、飯塚悟志(東京03)、中条あやみ……。2社のCMタレントが総出演して話題となったのが、SMBCグループ共通ポイント「Vポイント」のCMだ。どうやってこのCMが実現したのか。
「Vポイントは世界中のVisa加盟店で、1ポイント1円で使える。本気で言ってる?…の表情」というお題に、吉高由里子が静かな笑みを見せる。「Vポイントは、つみたてNISAでも貯まる。資産運用にご褒美が付いているってことなのか!…の表情」とのお題に、内村光良が大きく目を見開く……。三井住友銀行の吉高と内村、さらに三井住友カードの小栗旬、飯塚悟志、中条あやみと、2社のCMタレントが総出演して話題となったのが、「Vポイント」のCMだ。
「Vポイントは、SMBCグループ共通ポイント。クレジットカードを使ったり、銀行で各種サービスをご利用いただいたりするとたまります。特徴は、使える場所が多いこと。Visaのネットワークを基盤にしているので、国内だけでなく、世界中で使える汎用性の高さが売りとなっています。2020年6月にローンチしてから、約2年。さらに多くの方にご利用いただきたく、プロモーションに力を入れたいと思いました」(三井住友カードの青葉渉氏)
クリエイティブディレクターを務めたのは、永山瑛太出演の住友生命「1UP」や、西島秀俊、阿部サダヲらが出演した日清ラ王「食べたい男」など、数々のヒットCMを放ってきたTUGBOATの麻生哲朗氏。三井住友カードは、18年の小栗旬主演企業CM(「Have a good Cashless.」シリーズ)から手掛けている。
「三井住友カードからお話をいただいたんですが、これはカードだけでなく、SMBCグループで一緒にムーブメントをつくったほうがいいという話になり、今回は銀行と組むことに。2社のキャストの方々が垣根を越えて同じテーマに挑むと、既視感のないCMになると思いました。その一方で、Vポイントが“使えるポイント”であることも理解してほしい。そこで、スペックもきちんと伝えられる新しい構造を考えました」(麻生氏)
こうして「1ポイント1円で使える」「ポイント交換もできる」などの特長を盛り込み、「表情」に特化したワンカットCMを企画した。
「Vポイントは有用性が高いサービスですが、視聴者にとっては大事件ではなく、『ひそやかなお得』『たまってると、ちょっとうれしい』というような、ささやかな心の揺れを起こせる種類の情報。そんな心の揺れを見逃さなかったぞ、というトーンを狙って、表情を盗み見るかのような、ワンカットCMにしようと思ったんです」(麻生氏)
監督には、『帝一の國』などの映画監督としても活躍する永井聡氏、カメラマンには人気写真家の瀧本幹也氏を起用。「Have a good Cashless.」の第1弾からタッグを組んできた2人とともに撮影に挑んだ。
「OK!」と言えない撮影現場
顔にクローズアップしているため背景はほとんど見えないが、生活感にこだわり、スタジオではなく、ロケを敢行。望遠レンズを使用して背景をぼかすことで、表情を際立たせた。表情は、さまざまな注文を出しながら引き出していったという。
「視聴者には、テロップ通りの表情だと納得してもらってもいいし、『え、その表情?』と違和感を持ってもらっても面白い。撮影ではいろいろな表情を撮って、編集段階で組み合わせを考えられるようにしました。『こんな表情を、と言われたら、どうしますか?』と聞いてやってもらったり、明るい表情から気分が落ちるパターン、落ちたところから上がっていくパターンなど、変化を付けてもらったり。何十回もテイクを重ねて、テロップに合いそうな表情が出てくるまで、じっと待つという撮影でした。飯塚(悟志)さんが『手応えがない』と言ってましたけど、出演者の方々からすると、どこが使われるのか分からない状態(笑)。手探りの現場に付き合ってもらえて、本当にありがたかったです」(麻生氏)
撮影後の編集段階では、「このテロップに、この表情を組み合わせても面白いかもしれない」と試行錯誤を繰り返したという。例えば飯塚が15秒間、無表情のままの「Vポイント、の表情(飯塚篇)」も、実際には表情を変えているカットもたくさん撮影したそうだ。「でも、いざ編集してみると、何もしてないというのが一番面白かった」(麻生氏)
ナレーションには三井住友カードの「家族ポイント」のCMに出演している鈴木京香を起用。テロップだけでなく、音声でもVポイントの利点を訴求した。
「出演者の方々が、立派なお題に、真面目に取り組んでいる風に見えたほうが、絶対に面白くなる。ナレーションはふざけず、聞き取りやすく、“格”があった方がいいと思ったので、企画段階から鈴木京香さんがいいなと思っていました。
テロップは、撮影前にある程度決めてはいたんですが、実際に映像に当てはめてみると、15秒の間に読み切れなかったり、さらっと読めすぎて、表情が出てきたときにあまり面白くなかったりしたので、言葉の調整に時間をかけました。黙読だと読み切れないかもしれないけれど、鈴木さんの声を聞きながら目で確認するように読んでもらえれば、これぐらいの分量はいけるかな、というような計算もしながら詰めていきました」(麻生氏)
完成した「Vポイント、の表情」5篇に、小栗がポイントについて悩む「それなら、Vポイント」篇も制作。この狙いについて麻生氏は「今回のキャンペーンの本丸は『Vポイント、の表情』篇です。でも突然、みんながVポイントのスペックを語り出しても、視聴者はびっくりするでしょう。そこで三井住友カードの“顔”的存在である小栗さんに出演いただき、“扉”になる一篇を作りました」と語る。この6篇を7月8日から放送すると、「過去最高の反響」(青葉氏)を得たという。
ザッピングされない構造と大人感
成功要因は、テロップと表情の絶妙なマッチング、そして豪華キャスト総出演による「横断型CM」が目を引いたことが大きいだろう。2社のタッグについて、三井住友銀行の島崎貴次氏は「我々の間で、多少ミッションが違った」と明かす。
「銀行としては、『ポイントが貯まる』をどんどん言いたい。カードは、どちらかというと『使える』を押し出したい。その調整については、話し合いながら、本数のバランスを取ったりしました」(島崎氏)
また、カットが矢継ぎ早に変わるにぎやかなCMが多いなか、落ち着いたワンカットCMで異彩を放ったことも成功要因と言えそうだ。
「『CMは6秒で面白くなかったら飛ばされる』と言われますが、視聴者は『つまらない』と確認したから飛ばすわけです。じーっとテロップを読んで、最後に『どんな表情をするのかな?』と待つ今回の構造だったら、面白いか面白くないか確認できないまま15秒たつので、絶対に飛ばされない。それがワンカットCMにした、もう1つの理由でした」(麻生氏)
麻生氏が手掛ける三井住友カードのシリーズには、独特の“大人感”がある。それもまた、他社CMとの差別化にもつながっている。
「SMBCの仕事で大事にしているのは“格”や“格式”。ナレーションを鈴木京香さんにお願いしたのも、映像や音楽でこだわっているのも、格です。企業としては、気さくな人柄に見える部分があってもいいと思うんですけど、とはいえ、お金の話じゃないですか。一緒にお金のことを考えたり、資産を託したりする相手として考えると、幼く見えたり、信用できない人に見えてはいけない。今後も、大人っぽさは大事にしていきたいと思っています」(麻生氏)
今回の一連のCMを放送後、「アプリでポイントを確認する人が、約3倍に増えた」と島崎氏は喜ぶ。今後は、グループ内で、さらなるコラボもありそうだ。
TUGBOAT クリエイティブディレクター
三井住友銀行 リテールマーケティング部副部長
三井住友カード マーケティング本部 グループ長