クライアントと会議中の剛田部長は、終始「おっしゃる通りです」と笑顔。実は次のアポイントまで移動時間が少なく、「あの通りでタクシーを捕まえて……」とシミュレーションに忙しい。上の空に気づいたクライアントが、「話、聞いてないでしょ?」とツッコむと、「おっしゃる通りです」とまた笑顔。あきれた部下が、スマートフォンでタクシー配車を予約する……。竹野内豊主演で2年目に入った、タクシーアプリ「GO」のCMだ。

タクシーアプリ「GO」のCMは、竹野内豊主演で2年目に入った
タクシーアプリ「GO」のCMは、竹野内豊主演で2年目に入った
「GOする!15分後/移動時間のない日」篇。会議中の剛田部長は、「次のアポまで時間ないんだよなぁ」と、タクシーを拾う脳内シミュレーションに忙しい。クライアントに話を振られても「おっしゃる通りです」とやり過ごし、「話、聞いてないでしょ?」とツッコまれる始末。あきれた部下が、アプリでタクシーを予約。「会議に集中してください」と怒られ、「おっしゃる通りです」と反省する……
「GOする!15分後/移動時間のない日」篇。会議中の剛田部長は、「次のアポまで時間ないんだよなぁ」と、タクシーを拾う脳内シミュレーションに忙しい。クライアントに話を振られても「おっしゃる通りです」とやり過ごし、「話、聞いてないでしょ?」とツッコまれる始末。あきれた部下が、アプリでタクシーを予約。「会議に集中してください」と怒られ、「おっしゃる通りです」と反省する……

 2020年9月に「JapanTaxi」と「MOV」という2つのアプリが統合して誕生した同アプリ。近くにいるタクシーを呼べたり、アプリ内決済「GO Pay」で支払いができたりする。全国にサービスを拡大中だ。

 「ユーザーは20~30代を中心とした若い方が多いのですが、タクシーのヘビーユーザーはもっと上の世代。流し(のタクシー)や電話(予約)に慣れた50代前後の方にも『GO』を認知していただき、どう便利なのかをしっかりお伝えする必要があると思いました」(Mobility Technologiesの江川絢也氏)

 ローンチ時から広告にかかわるのは、dof代表のクリエイティブディレクター・齋藤太郎氏だ。

 「まずこだわったのは、『GO』のロゴをラッピングしたタクシーを街中に走らせること。私が16年前にサントリー『角ハイボール』の広告を担当したとき、まずサントリーさんがロゴ入りのジョッキやポスターを飲食店さんへ配り、それらが行き渡った段階でCMを流したんです。それは、お店にないもののCMを打っても、視聴者に伝わりにくいから。同様に、『最近街でよく見かける、あのタクシーが使えるのか』と実感してもらえるタイミングで、CMが流れるよう設計しました」(齋藤氏)

テレビCMを放送する前に「GO」のロゴをラッピングしたタクシーを街中に走らせた
テレビCMを放送する前に「GO」のロゴをラッピングしたタクシーを街中に走らせた

 企画は、「共感」と「便益」の2つを軸に考えたという。

 「私は今年50歳で、ターゲットと同世代です。『アプリも使えないの?』と冷ややかな目で見ている自分の部下との掛け合いをイメージしながら、共感してもらえる企画を考えていきました(笑)。ストーリーは、『時間がない』『荷物が多い』『雨が降っている』といった移動についての困った状況を描き、『どうする?GOする!』というコピーが入って、『GO』の便益を伝える形に。シンプルな構造で、分かりやすく訴求することにこだわりました」(齋藤氏)

 雨の日に流しのタクシーを捕まえようとするも、傘と荷物で手が塞がっていて挙げられない(「GOする!雨の日」篇)。タクシーを見つけて手を挙げると、その前に手を挙げる人が現れて奪い合いになる(「GOする!取り合い」篇)といったストーリーを考案。主人公として考えたのは、広告代理店勤務の「剛田部長」というキャラクターだ。21年に50代に入った竹野内豊を起用した。

 「剛田部長は、CMではちょっとおちゃめでおっちょこちょい。でも『GO』のブランディングのことを考えると、グラフィック広告などでは、みんなが憧れるようなカッコイイ方にお願いしたい。そう考えて浮かんだのが、竹野内さんでした。まずお手紙を書いて出演交渉を始めたのですが、最初は『GO』をご存じなかったみたいで……。でも次にお会いしたときは、街でラッピングされたタクシーをご覧になったらしく、『いっぱい走ってますね!』と前向きになってくださいました」(齋藤氏)

 後輩社員役は「アプリが使える30歳前後の方で、なおかつ数コマの表情だけでも感情が伝えられる」(齋藤氏)と若手演技派の前原滉を起用。21年6月から「雨の日」篇と「取り合い」篇を放送すると、ダウンロード数や認知度が急上昇した。

 「タクシーをよく利用される方でなくても、『GO』というと、『ああ、竹野内さんの……』と反応していただけるくらい認知度が上がりました。SNSでも、ネガティブなコメントがほとんどなかった。非常に高いCM効果があったと思っています」(江川氏)

視聴者をもてなして訴求

 そして22年は、タクシー利用者の半数を占める女性の共感も得たいと、部下役に元E-girlsの女優・石井杏奈を起用。メーターを見ながら現金を足していく部長と、スマートに電子決済をする部下を描いた「GOする! GO Pay/着いたらすぐに」篇と、暑い日に涼しい車内の快適さを描いた「GOする! 日差しの強い日」篇、そして冒頭の「GOする! 15分後/移動時間のない日」篇の3篇を企画した。

「GOする!GO Pay/着いたらすぐに」篇(各15秒、30秒)。タクシーで移動中の剛田部長と部下。部下が「時間、ギリギリですね」と焦ると、部長が「現金おつり無しが一番早いな」とメーターを見ながら財布からお金を出していく。しかしどんどん料金が上がり……。そこで部下が手に取ったのは、スマホ。「GO Pay」で瞬時に支払い手続きをすると、部長は「便利だね~」と感心しきり
「GOする!GO Pay/着いたらすぐに」篇(各15秒、30秒)。タクシーで移動中の剛田部長と部下。部下が「時間、ギリギリですね」と焦ると、部長が「現金おつり無しが一番早いな」とメーターを見ながら財布からお金を出していく。しかしどんどん料金が上がり……。そこで部下が手に取ったのは、スマホ。「GO Pay」で瞬時に支払い手続きをすると、部長は「便利だね~」と感心しきり

 「リアルとリモートの会議が混在する今、つい移動時間を考慮に入れ忘れがちだと思うんです。しかも『あそこでタクシーを拾えるだろう』と思っていたのに拾えなくて、遅刻したりすることも(笑)。そうならないよう、会議前や会議中に時間指定しておけば、終了後にすぐに移動できる『AI予約』というサービスを、『移動時間のない日』篇で訴求しました。

 『着いたらすぐに』篇では、『もう上がらないで!』とメーターと財布を見ながらモヤモヤすることなく、素早く支払えるGO Payの利便性を。2人が日陰を探して歩いてタクシーに乗る『日差しの強い日』篇では、暑い日には無理せずタクシーに乗ることを訴えかけました」(齋藤氏)

「GOする!日差しの強い日」篇/暑い夏の日。日陰だけを選んで歩く部下を見て、「頭いいな~」とマネをする部長。建物の陰、木陰、さらには人の影を渡って移動していくが、ついには陰がなくなってピンチに。そこでスマホを取り出した部下が、アプリでタクシーを呼ぶ。乗車後、2人は「涼しいー!」と生き返る
「GOする!日差しの強い日」篇/暑い夏の日。日陰だけを選んで歩く部下を見て、「頭いいな~」とマネをする部長。建物の陰、木陰、さらには人の影を渡って移動していくが、ついには陰がなくなってピンチに。そこでスマホを取り出した部下が、アプリでタクシーを呼ぶ。乗車後、2人は「涼しいー!」と生き返る

 タクシー業界の繁忙期は、梅雨と盛夏と年末。初年度同様、2年目も梅雨の前から放送を開始しようと、春に撮影を行った。

 「本当はいつも、天候に左右されないスタジオで全カットを撮りたいんです。でも、タクシーという大きくて動くものを撮らなくてはいけないので、どうしてもロケが必要。だから雨の心配をしながら外で撮影し、車内のシーンはスタジオで撮って合成する。かと思えばスタジオで雨を降らせなきゃいけない場面があったりと、撮影は毎回大変です(笑)」(齋藤氏)

 テーマが各篇で違うため、その都度、カメラワークや音楽などを変えているという。

 「例えば『移動時間のない日』篇のタクシーを拾う脳内シミュレーションのシーンでは、斜め下から撮って背景をぼかすことで“印象シーン”であることを伝えたり。『日差しの強い日』篇では、2人が日陰を選んで歩くシーンに縦笛の音を入れて、キュートな感じを演出したりしています。『着いたらすぐに』篇では、メーター、表情、メーターとテンポ良くカットを切り替えることで緊張感を出すよう工夫しました」(齋藤氏)

 各篇で変化を付けながらも、「全体では同じシリーズに見えるように心を配っている」(齋藤氏)という。

 22年5月から新作3篇を放送すると、「共感できる」「面白い!」と今年も好評。高い好感度を獲得し、8月度銘柄別CM好感度ランキングでは総合6位に入った(CM総合研究所調べ)。「21年のCM放送前と比較すると、ダウンロード数は2.3倍に。『タクシーアプリといえば?』と聞いた純粋想起率は、約3倍にまで伸びました」(江川氏)。

 成功要因としては、ラッピングタクシーで素地をつくったことに加え、娯楽性豊かにアプリの便益を訴求できた点が大きいだろう。監督に起用したのは、アコム「むじんくん」(1994年)や、オダギリジョーを起用した「ライフカード」(2006年)などをヒットさせた関口現氏。そのテンポ感や掛け合いの妙は、どこか懐かしさも感じさせる。

 「関口監督は会話のキャッチボールを描くのが上手で、情報量が多くても、15秒や30秒が窮屈に感じられない。今回の企画は関口監督以外では考えられないと思いました。

 懐かしさは、意識していますね。最近のCMは、言いたいことだけ拡声器で連呼して去っていくようなものが多い。視聴者を『おもてなし』するようなエンターテインメント性は大事だと考えています。竹野内さんが剛田部長をこだわって演じてくださっていますし、関口監督も各篇にしっかり向き合って演技を引き出してくれている。実力のあるプロフェッショナルの方々の仕事に助けられています」(齋藤氏)

 一連のCMは、Mobility Technologiesの関連会社が運営するタクシー車内のサイネージメディアでも放送している。

 「助手席の後ろにあるタブレット広告は、普段からよくタクシーを使われる方がメインターゲット。GOの広告が一番届きやすい場なので、テレビでは流していないCMも流したりして、有効活用しています。サイネージメディアとしては、決裁権を持つビジネスパーソンが見ることが多いので、企業向けの商材を扱うBtoBの会社さんからご好評をいただいています」(江川氏)

 今後は、「より幅広いユーザーを対象としたモビリティーサービスを目指す」と江川氏。タクシーの相乗りが合法化され、自動運転車両の実用化も視野に入る未来に、剛田部長がどう「GO!」するのか注目だ。

江川 絢也 氏
Mobility Technologies 執行役員 GO事業本部長
リクルート、ヤフーでウェブサービスの企画開発に携わった後、ディー・エヌ・エー(DeNA)オートモーティブ事業本部に参画。タクシーアプリ「MOV」の開発・普及に携わる。2020年4月事業統合によりMobility Technologiesが発足。以来、現職

齋藤 太郎 氏
dof 代表取締役 クリエイティブディレクター
10年間の電通勤務を経て、2005年にdof を設立。サントリー「角ハイボール」のブランディングに立ち上げから携わり現在もかかわる。主な仕事に資生堂のコーポレートスローガン「一瞬も一生も美しく」、明石家さんま出演のAI翻訳機「ポケトーク」のCMなどがある
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