身分違いの恋に突然の記憶喪失。何かの韓国ドラマで見たようなあるあるネタを詰め込んで、ネットでバズったウェブCMが韓国焼酎「チャミスル」のCMだ。6分半という長尺にした第2弾は完全視聴率が20%、ツイッターの再生回数は900万。ウェブ先行からテレビCMにも派生した。その企画秘話を制作者に聞く。

眞露のCM「恋するチャミスル」シリーズ
眞露のCM「恋するチャミスル」シリーズ
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 地味な会社員と、常務の御曹司。“ガチ恋フラグ”が立った2人の前に、社長令嬢のフィアンセが現れて邪魔をする。その後、御曹司が突然、記憶喪失に。これを好機と御曹司の母親が“格差恋愛”をブロックしようとするが、運命の糸で結ばれた2人はやがて再会。お酒を酌み交わしながら、また恋が輝き始める……。韓国焼酎「チャミスル」のCM&ウェブCM「恋するチャミスル2」のストーリーだ。

 「チャミスルは、日常生活で人と人の架け橋になるような、韓国の文化の一部です。日本の売り上げは、19年に比べて20年は約2倍に。21年は8倍に伸びました。韓国ドラマやK-POP人気が浸透し、韓国文化に興味を持つ人が増えたからではないかと思います」(眞露マーケティング部門長の朴商佖氏)

 そこで20年から、女優・佐久間由衣を起用したテレビCMを放送開始。内容は、佐久間が女子会でチャミスルを飲んで楽しむというものだった。そして21年末からのCMでは「メインの購買層である20~30代の女性に向けて、オンライン(ウェブ)CMを投下したいと考えた」(朴氏)と言う。

「あるある」にテロップや言語ミックスをプラス

 このCMのコンペで企画が選ばれたのは、xpd(イクスピーディー、東京・渋谷)の若手クリエイティブディレクター・丹羽貴紫氏だ。

 「オンラインCMは、すぐにスキップボタンを押されてしまうので、いかに興味を持ってもらって、退屈させないかが大事。そこで題材に選んだのが、韓国ドラマでした。今まさに関心度が高いコンテンツですし、劇中にチャミスルがよく出てくるので、商品にも着地させやすい。“韓ドラ沼”にハマっている人たちは、その良さを分かち合いたいという気持ちが強いので、よく見るシーンの“あるある”を軸にしたら、SNSで盛り上がってもらえるのではないかと考えました」(丹羽氏)

21もの“韓ドラあるある”を詰め込んだ『恋するチャミスル2』。6分半の動画から、ダイジェストのテレビCMを制作した。「企画の性質上気をつけたのは、韓国文化をバカにしているニュアンスにならないようにすること。愛があるいじりで、尊さと笑いが両立する印象になるよう、チーム全員で気を配りました」(丹羽氏)
21もの“韓ドラあるある”を詰め込んだ『恋するチャミスル2』。6分半の動画から、ダイジェストのテレビCMを制作した。「企画の性質上気をつけたのは、韓国文化をバカにしているニュアンスにならないようにすること。愛があるいじりで、尊さと笑いが両立する印象になるよう、チーム全員で気を配りました」(丹羽氏)
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 こうして、酒に酔った女性を男性がおんぶして帰る、女性の涙を男性が親指で拭うなど、第1弾では15の「韓ドラあるある」を組み合わせてストーリーを考案。それぞれに「おんぶタクシー」「親指ワイパー」といったテロップを付けた。セリフは、「チンチャ(ほんと)何なの!」「心配させてミヤネ(ごめん)」など、日本語と韓国語をミックス。

 「『あるある』のシーンを描くだけだと、『確かにあるよね』という共感を得られるだけで、なかなか笑えないんです。『親指ワイパー』のように、『このシーンを、そう例えたか!』というコピーを付けたり、『うっとりマン』『アボジ(父)・ザ・ストロング』といったプロレス風の言葉でギャップを作ったりして、面白みを出しました。

 言語のミックスは、監督を務めた韓国出身のジョンウンヒさん(AOI Pro.所属)のアイデアです。ただ、最初はあまり面白くない気がして、ダメだったら編集で日本語に吹き替えようと思っていたんです。だけど、いざ吹き替えをしてみたら、『笑ってください』と言わんばかりになって、何かつまらない。逆にミックスは、ルー大柴さんの『ルー語』みたいな感じになるし、韓ドラを好き過ぎる人がお友達同士で日本語と韓国語を織り交ぜて話すフレーズ感に似ていて面白いんです。最初から却下せず、監督の案を残しておいて良かったと思いました(笑)」

 キャスティングは佐久間に加え、「男性の消費者も増やしたい」(朴氏)と、新たに若手俳優の小関裕太を起用。3分54秒の『恋する!チャミスル』を21年12月からYouTubeで公開すると、わずか5日間で200万回再生を突破した。

 「本社から、『韓国でも話題になっている』と連絡が来て、YouTubeの地域分析を見ると、韓国からのアクセスが全体の3%近くも。もちろん日本での反響はとても大きくて、SNSの書き込みも、『眞露、よく作ってくれた』と褒めるようなものばかり。大きなやりがいを感じました」(朴氏)

6分半の長尺でも完全視聴が増加

 好評を受けて、続編の製作が決定。「今回はオンラインをメインに、15秒や30秒に編集したテレビCMも放送して、より幅広い層に訴求したいと思いました」(朴氏)

 「第2弾は『つまらなくなった』と言われがちなので、量も内容もCMの枠を超えて、思い切りやろうと考えました。そこでベースにしたのが、第1弾の視聴者からも待ち望む声が多かった“御曹司と平社員の恋”という、韓ドラ王道中の王道の設定。あるあるの数も20以上に増やして、見応えを作りたいと思いました」(丹羽氏)

音楽は監督の意見で、「韓国ドラマ風の音楽を日本で作るより、韓国に直接頼んだ方が早い」と韓国の音楽制作会社に依頼したという
音楽は監督の意見で、「韓国ドラマ風の音楽を日本で作るより、韓国に直接頼んだ方が早い」と韓国の音楽制作会社に依頼したという
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 第1弾に続き意識したのは、「尊さと笑いの両立」(丹羽氏)と言う。

 「今回も監督をお願いしたのはジョンウンヒさん。彼女がもともと韓ドラ好きだったので、情熱的に“尊い”映像を撮ってくれました。逆に僕は、半歩引いた冷静な目線で、『これって、客観的に見ると面白いよね』というテロップを考えていって。バランスの取れたコンビでした。ちなみに第2弾の『うっかりシンデレラ』や『ライジングハンサム』は、なかなか言葉が浮かんでこなくて……。編集室にこもって、ひねり出しました(笑)」(丹羽氏)

 22年4月18日から6分30秒のウェブCMを公開、翌19日からテレビCMを放送すると、1カ月で約350万回の再生数を記録した。

 成功要因としては、“韓ドラ沼民”も納得の「あるある」を21個も連発したことや、ユーモア満点のテロップ、そして6分半という長尺をOKにした点も大きいだろう。

 「もともと3分程度を予定していましたが、仮編集したら6分半に(笑)。そこから3分に詰めた編集を試してもらったんですけど、矢継ぎ早過ぎてつまらなかったんです。オンラインCMとしては長くても、自信を持って一番面白いと思う尺で出した方が良いと思いました」(丹羽氏)

 これに対し朴氏は、「6分半と聞いたときは、だまされたと思いました」と笑う。「でも、試写を見たら面白くて、終わったときに拍手が起きたんです。だからもう、尺については何も言いませんでした」(朴氏)。

 長尺化したものの、第1弾よりも第2弾のほうが、「完全視聴率」が高かったという。

 「YouTubeの解析を見ると、第1弾を最後まで完全視聴した人は15%でしたが、第2弾は20%に。ツイッターの再生回数も300万から900万に跳ね上がって、売り上げも好調です。今年は19年比で10倍の売り上げを目指しています」(朴氏)

 テレビCMのおまけ的に作られることが多かったウェブCM。その主従を逆転させた本作は、丹羽氏にとって「初のケース」という。

 「僕がこれまで主戦場にしてきたのは、ウェブのほう。以前は『テレビCMを作ったから、ウェブでもバズらせてほしい』なんて言われることが多かったです。でもテレビCMとウェブCMではそれぞれ戦い方が違います。そもそもテレビとウェブは隔絶しているわけでもなくつながっていますし、二元論で語ることは間違っていると思います。どちらが優位なのかという話にも意味がない。必ずしもテレビCMがコミュニケーションの中心である必要はないですし、どちらもそれぞれ適切な形に落とし込んであげることが必要だと考えています。

 今回はテレビCMがあっても、ウェブが主戦場というエポックなケース。第2弾ではテレビCMを打っても、眞露さんは戦略がブレなかった。だから素晴らしい成果につながったと思います」(丹羽氏)

 ネット上には「ぜひ続けてほしい」「第3弾も待ってます」といった声が数多く見られる。ウェブ起点のCMの成功例として、広告史に刻まれそうだ。

丹羽 貴紫 氏
xpdクリエイティブディレクター
1992年生まれ。2015年、面白法人カヤック入社。18年、アニメの”あるあるネタ”を盛り込んだ花王の動画『魔法少女リーゼ プリティア』がツイッター上で2万回以上のRTを獲得。19年は「リカちゃんコーディネートメーカー」がSNSで人気に。TYOを経て、現職

朴 商佖 氏
眞露マーケティング部 部門長
2003年、韓国のHITEビール入社。HITEJINROアメリカ法人勤務、フィリピン法人長を経て、20年より現職。
「丹羽さんに『こうしたほうがいいのでは』と話しても、退けられることが多かった(笑)。でも、若い消費者向けの広告は、やはり若い人に作ってもらったほうが効果がある、と今回感じました」