昔ながらの定食屋。客の青年が「今月、もうギガなくて困りました」と店員に話すと、隣の女性が「そこはpovo~」と立ち上がる。そして「ギガを使い切ったら、足せばいい」と急接近。さらに「ポーボ!」とコール&レスポンスを求めたり、なぜか鍵盤ハーモニカを吹いたりと好き放題。最後は「auの回線だよ」とアピールする……。女優・広瀬アリスが“povo姉”にふんして話題のKDDI「povo2.0」のCMだ。
「“ギガ”をトッピングするかのように、0円から自由に組み立てられるオンライン専用ブランドが『povo』です。21年の開始時からオリジナルキャラクターが踊るCMや、霜降り明星さんや空気階段さんたちを起用したCMで認知を上げてきましたが、新発想のサービスを理解してもらうのは、なかなか難しい。次はよりpovoの良さや内容を知っていただくCMが必要だと思いました」(KDDIコミュニケーションデザイン部 部長の合澤智子氏)
今回、新たに起用されたクリエイティブディレクターは、博報堂出身、「螢光TOKYO」の前田康二氏だ。
「まず考えたのは、povoがまだまだ知られていない中で、とにかく記憶に残る強いCMの型(フレーム)をつくること。そのとき重要なのは、愛される主人公です。ターゲットの若者の前に、伝道師の主人公が現れてpovoをお薦めするという、非常に分かりやすいフレームにしました」(前田氏)
そのとき浮かんだのが、広瀬アリスだ。「女優として勢いがあって、トークも面白い。気取りがない彼女が、隣のお姉さん的な伝道師を演じてくれたら人気者になれる」(前田氏)と感じたという。
こうして、ギガ不足を心配する青年の前にpovo姉が現れるという冒頭の「povo姉の使い切ったら」篇を企画。さらに、povo姉がピザの配達員になりすまして青年のアパートにやってくる「povo姉のお届け」篇も考えた。この第2弾は、「週末だけギガを使い放題にするなど、アクティブにpovoを使うヒントを伝えたい」というKDDI側の要望に応えた企画だ。
「普段はギガが気になるからあまり動画を見ないけど、休みの日くらいは家でNetflixをいっぱい見たいとか、キャンプのときにみんなで映画を見たいという人が、いっぱいいるんですよね。それで、青年が休日に動画三昧するときに、povo姉が現れて、ピッタリな使い放題プランをお薦めしてくれたらどうだろうと。またそのときにピザの配達員の格好をしたpovo姉が、ピザをお届けするようにギガをお届けしたら、不条理で印象に残るのではないかと思いました」(前田氏)
黄色パーカーとキャラで印象付け
両作に登場する青年役には、デビュー作『蜜蜂と遠雷』(19年)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、21年のドラマ『ドラゴン桜』で大ブレイクした、鈴鹿央士を起用した。
「イマドキのイケメンのイメージとはちょっと違って、かわいらしいお顔をされている、いそうでいないキャラクター。しかも、演技がすごくうまい方なんですよね。povoを使っている人は、コストコンシャスというか、『無駄なことはしたくない』という知性のある人が多い。そんなターゲットに近い役柄にもはまると思いました」(前田氏)
撮影にあたって前田氏が力を入れたというのは、povo姉の衣装やキャラ付けだ。
「この企画は、現代のリアルな世界が舞台。KDDIさんの『三太郎』や『UQUEEN』と違って、時代設定や衣装では印象に残りにくいかもしれないので、povo姉にはブランドカラーの派手な黄色いパーカーを着てもらって、まずは目立つようにしました。
そして、アリスさんは他のCMではスタイルの良さを生かしたスーツスタイルが多い印象があったので、ダボッとしたパーカーで、しかもフードをかぶっていたら新鮮に見えるんじゃないかと。povo姉の性格は、ドSだけど、脱力系でゆるカワイイところもあるという不思議な、でも愛されるキャラ付けを目指しました」(前田氏)
完成した第1弾を22年1月27日から、第2弾を3月9日から放送すると、2月度と3月度の銘柄別CM好感度ランキングで1位に輝いた(au名義にて)。
昭和な場で「エモ」さと親しみやすさを
成功要因としては、クセのある伝道師「povo姉」を生み出したことや、鈴鹿央士との掛け合いの面白さが効いているだろう。何より広瀬の“自由すぎる”怪演にインパクトがあった。
「『ポーボ!』と連呼したり、鍵盤ハーモニカを弾いたりする場面では、現場の人たちも大爆笑。想像を超えるぶっとんだ演技を見せてくれて、天才だなと思いました。その一方で、合澤さんからは『povo姉の、実はかわいい一面も押さえたい』という要望があって。2つのバランスを意識しました」(前田氏)
さらに、定食屋や木造アパートなど、幅広い世代が親しみを持てる場所を舞台に選んだことも、好感度に影響していそうだ。
「最初は、クールなシェアオフィスで考えていたんです。でも今は、昭和的な喫茶店や定食屋が若者の間で流行っているので、そっちの方が『エモ』くなるんじゃないかと。撮影では、セットのヴィンテージ感にこだわりながら、本棚にマンガをたくさん置いたり、旅行記念のペナントを壁に飾ったりと、リアルな生活感を出すことにも力を入れました」(前田氏)
合澤氏は、今回の反響に大きな手応えを感じている。
「新しいフレームを立ち上げるということで放送前はドキドキでしたが、特に若い人から『センスがいい』という声をいただけてうれしかったです。数字の面でも、ホームページアクセス数や検索数が、想定以上に増えました。4月にKDDIが2年ぶりに『ベスト・アドバタイザー』(※)に選ばれたのですが、それもpovo姉様様だと思っています(笑)。
最近の端末はSIMを2枚入れられるので、メイン回線は違うブランドで、2枚目にpovoを入れるという人が結構出てきているんです。それこそ、動画三昧するために週末だけpovoのトッピングでたくさん使うというような使い方をされている。海外では当たり前のように使われている『デュアルSIM』が広がっていく可能性もあるのではないかと感じました」(合澤氏)
三太郎シリーズが始まった15年から21年まで、7年連続で年間銘柄別CM好感度ランキング1位を獲得しているKDDI(au名義にて)。「三太郎」「高杉くん」、「UQUEEN」に続く「povo姉」という「第4の矢」を得て、また快進撃が続きそうだ。
「今後もさまざまなシチュエーションで、povoの良さを表現してもらえたらと思っています」(合澤氏)
螢光TOKYO クリエイティブディレクター
KDDIコミュニケーションデザイン部 部長