夜明け前のビルの屋上に座り、静かに語り出す木村拓哉。「がむしゃらに走ってもいい。上手にできなくたっていい。時々、立ち止まってもいい。だって、僕らはみんな強くない」。そう言ってリポビタンDを手に取って立ち上がり、「それでも、前へ踏み出せるときが、きっと来るから」と、朝陽に向かって歩き出す……。大正製薬「リポビタン」シリーズのブランドCM「一歩を、一緒に。みんな強くない」篇だ。
1962年に発売された栄養ドリンク「リポビタンD」を軸に商品展開してきた同ブランド。“リポD”のCMといえば、断崖絶壁や激流で危機にある俳優2人が、「ファイト イッパーツ!」と叫ぶシリーズが有名だ。
「リポビタンはもともと、夢や目標に向かって頑張っている人を支えたいというブランド。そのメッセージを『ファイト イッパーツ!』という掛け声に乗せてお届けしてきましたが、今は、みんなが明確な夢や目標を持っているとは限らないですし、自分にムチを打ってがむしゃらに頑張ることが正義という時代でもない。それぞれの歩幅に合った頑張り方に寄り添い、背中を押すようなCMにしたいと思いました」(大正製薬の森下雄貴氏)
そうして企画・制作のパートナーに選んだのは、リクルート「スーモ」、日野自動車「ヒノノニトン」などをヒットさせてきた人気のクリエイティブディレクター・横澤宏一郎氏だ。
「まず森下さんから、『価値観が多様化した今、前向きに頑張るすべての人の背中を押したい』という趣旨のお手紙をいただきました。その内容に沿って、『広告では、こんなメッセージにしてはどうですか』とご提案し、森下さんから『もう少し、こうした方がいいんじゃないですか』とフィードバックをいただく。そうやって何十回もキャッチボールしながら、メッセージを研ぎ澄ませていきました」(横澤氏)
そして生まれたのが、冒頭の「一歩を、一緒に。みんな強くない」篇の言葉たちだ。
「『ファイト イッパーツ!』のように、がむしゃらに頑張ってもいいし、それがうまくできなくてもいい。そもそも頑張る手前で、立ち止まっている人もいるかもしれない。時には弱音を吐きたくなるようなこともあるかもしれない。だからこそ、誰かに寄り添ってほしくなる。それがリポビタンなんだという文脈に落とし込みました」(横澤氏)
さらに大正製薬から、「夢に向かって頑張っている人だけじゃなく、環境的に頑張らなきゃいけない人もいるのではないか。そういう人たちも応援したい」という要望があった。そこで、もう一篇を企画。「自分のため、家族のため、会社のため。何のためにがんばるのか、時々答えが分からなくなる……」と前置きをした上で、「でも、僕らは悩んで強くなる。だから前へ踏み出すんだ」と締めくくる、よりポジティブな印象の「一歩を、一緒に。悩んで強くなる」篇を考案した。
これらのメッセージを、誰に発してもらうか。30年以上に渡り芸能界のトップを走ってきた、木村拓哉の名前が挙がった。
「リポビタンは『頑張るすべての人を支えたい』というブランドなので、ターゲットが幅広い。老若男女幅広い層に人気と影響力がある方で、視聴者が共感できるような生き方をされている方は誰だろうと考えて、木村さんが適任じゃないかとご提案させていただきました。出演が決まってからは、木村さん側ともやり取りを重ねて、彼自身がより感情を乗せて話せる言葉にしていきました」(横澤氏)
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