「♪Nウォームはあたたかい~」というジングルとともに、さえないサラリーマンの日常を描くニトリの「Nウォーム」のCMが、好感度ランキングの上位常連になっている。前回に続く本記事では、シリーズの誕生秘話やインナー効果などを探っていく。

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求められた「ニトリスタイル」と異なる企画

 1972年に北海道で設立されたニトリ(当時は「似鳥家具店」)は、家具や雑貨の原材料の調達や製造、販売まで自社で行うSPA(製造小売業)のノウハウを採り入れて成長。2000年に50だった店舗数は、21年には国内外で600店舗を超えている。

 ニトリのCMといえば、商品をしっかり見せて機能を訴求し、最後に「お、ねだん以上。ニトリ」というジングルで締めくくるスタイルが定番だ。11年に発売された寝具「Nウォーム」シリーズも、当初はこのパターンを踏襲していたが、認知を大きく上げたいと、15年に方向性の見直しを行った。そのタイミングで競合プレゼンに参加したのが、博報堂プロダクツの太田樹氏だ。

 太田氏は1995年に21インコーポレーションに入社し、2004年に博報堂フォトクリエイティブ(現・博報堂プロダクツ)に入社。企画演出部に所属。ディレクター(監督)として丸亀製麺、パナソニックホームズ、大東建託などのCMを演出してきた。またキヤノンやレクサス、USJ15周年パレードなどのCMでは企画も担当。バンダイナムコ「VIDESTA」のウェブCMや日産自動車のモーターショー用映像などではプランナー、ディレクター、クリエイティブディレクター(CD)を兼ねるという多才ぶりを見せる。

 「もともとはディレクターですが、ここ数年でクリエイティブディレクションも担当するようになりました。ニトリさんのお仕事では、企画、演出、編集までやって、CDも務めるスタイル。担当分野が多いですが、そのぶん関係者が少ないので、気は楽です(笑)。

 それにニトリさんは、撮影前にカメラアングルや秒数までしっかり組み立てて本番に臨むクライアント。通常のようにCDが広告代理店にいて、ディレクターが別にいるよりも、1人でやっているほうが、うまく話をまとめていけるという良さもあります」(太田氏)

 15年、ニトリのオリエンテーションで印象的だったのは「実験的なことをしたい」「これまでのスタイルを壊したい」といった趣旨の言葉だったという。

 「視聴者の記憶に残したいのは、『Nウォームはあたたかい』というワンメッセージ。そのために、これまでのニトリスタイルを忘れて企画してくださいというオリエンでした。厳密に言うと、今まで通りのスタイルと、それを変えたものを両方提案してほしいというオーダーだったので、ニトリさんのほうでも、どちらにするかギリギリまで考えようと思われていたんだと思います」(太田氏)

 そうして太田氏のチームが提案したのが、さえない毎日を過ごすサラリーマンが、身も心もNウォームにあたためてもらうという企画だった。

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