※日経エンタテインメント! 2021年2月号の記事を再構成

主人公は、ごく普通のサラリーマン。あるときは重役がいるのに居眠りして椅子から転げ落ち、またあるときは自動ドアと勘違いしてビルのガラスに激突。家でリモート会議中には、飼い猫を追いかけてズボンがパジャマだとバレてしまう。どんなにヒヤッとする瞬間があっても、夜にはあったか寝具で幸せな眠りに就く……。「♪Nウォームはあたたかい~」というジングルでおなじみの、ニトリ「Nウォーム」のCMだ。

サラリーマン役は、北野武、井筒和幸らの映画に出演してきたバイプレーヤーの清水伸。絶妙な“椅子落ち”や“ガラス激突”などで笑わせる。「共感が大事なので、ご近所にいそうな方で、情けない状態がチャーミングに見える方がいいなと。その上で、睡眠シーンで気持ち良さそうな表情ができる方を選びました」(太田氏)
サラリーマン役は、北野武、井筒和幸らの映画に出演してきたバイプレーヤーの清水伸。絶妙な“椅子落ち”や“ガラス激突”などで笑わせる。「共感が大事なので、ご近所にいそうな方で、情けない状態がチャーミングに見える方がいいなと。その上で、睡眠シーンで気持ち良さそうな表情ができる方を選びました」(太田氏)
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 Nウォームは、2011年に発売された「吸湿発熱」の寝具シリーズ。当初はその機能をストレートに訴求したCMを放送していたが、15年に認知向上を狙い、複数の広告会社からCM企画を募った。この競合プレゼンで勝ち残ったのが、博報堂プロダクツの太田樹氏だ。

 「ニトリさんの戦略は明快で、『Nウォームはあたたかい』というワンメッセージを記憶に残したいということでした。まず考えたのは、極寒の場所でNウォームをかぶって寝ているという、実証広告的なアイデア。寒い場所はどこがいいのかとチームで探っているときに目に入ったのが、後輩のプランナーが書いたメモでした」

 ベッドの端と端で眠る夫婦に掛かった毛布。その絵に「夫婦関係は冷え切っているが、Nウォームはあたたかい」と添えてあった。

 「それを見て、寒い状態を暖めるだけでなく、心を温める寝具として描いたらどうだろうと。残念なことがあっても懸命に毎日を生きている人たちに、『1日の終わりを幸せな眠りで締めくくりましょう』という応援歌のような企画にしたいと思いました」

 残業を気づかれず、後輩に電気を消されてしまう。コンビニでビールを手にするも、財布の中身を見て、元に戻す。帰宅すると妻や娘はゲームに夢中で、相手をしてもらえない……。この3つのネタを連発した企画が採用され、15年10月から放送。以降、冬は「Nウォーム」、夏は「Nクール」を訴求するシリーズとして定着した。

 20年の新作は、冒頭の「居眠り」「自動ドア」「リモート」の3ネタで構成。いずれも太田氏の実体験を基に企画したものだという。

ネタ出しは社内公募でも

 「クライアントの前でいびきをかいて寝てしまったり、ガラスにぶつかってメガネを何度も壊したり。リモート会議で下がパンツだとバレたことも、3回ほどあります(笑)。最初はリモート会議中に猫が飛んできて、あたふたする企画だったんですよ。そこに最近の体験を加えることで、もう1個面白みを足せると思いました」

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