発売90周年を迎えた2018年にリブランディングに成功した「キリンレモン」。20年のCM戦略は、その成功を踏まえた上でのさらなるステップアップだった。同CMを取り上げる記事の3回目は、「晴れわたろう。」篇での上白石萌歌の起用理由や撮影・編集時のこだわり、第2弾「〈無糖〉でた。」篇の裏側について紹介していく。
発売90周年のタイミングで行われた2018~19年の「キリンレモントリビュート」で、10~30代の新たな顧客をつかんだキリンレモン。さらなる飛躍を目指して、キリンは若年層を逃がさないようにしつつ、炭酸飲料のボリュームゾーンである40~50代にも受け入れられるCMを作りたいと考えた。「トリビュート」を成功に導いた博報堂のクリエイティブディレクター・井手康喬氏たちはどんな手段を選んだのか。そこに出てきたのが、「晴れ」というキーワードだった。
「キリンさんとの話し合いの中で出てきたのが、『晴れ』という言葉。『キリンレモンを人に例えると、いつも晴れている、明るい人だ』ということだったんです。だったら、見た瞬間に気持ちが晴れるような、青空をバックに歌うCMにしたらどうかと」(井手氏)
井手氏は、食品や飲料のCMは、画面にシズル(商品らしい質感)がにじみ出ていないとダメだと考えている。
「キリンレモンならシュワッと爽やかで、夏にゴクゴク飲みたくなるような感じがあったほうが分かりやすい。そこで20年は、直感的にシズルが伝わるCMを目指しました」(井手氏)
「午後の紅茶」に続き上白石萌歌を起用
「晴れ感」を表現できるタレントとして、キリン側から浮上したのが上白石萌歌だった。
姉の上白石萌音も女優として活躍する上白石萌歌は、「東宝シンデレラ」オーディション出身の20歳。『義母と娘のブルース』などのヒットドラマで活躍する一方、出演したキリン「午後の紅茶」のCMシリーズ「あいたいって、あたためたいだ。」(16~18年)で、過去のヒット曲を歌い上げ話題になった。
「『午後の紅茶』のCMの評判がとても良く、子どもから大人まで、幅広い世代に受け入れられている印象がありました。そして過去の出演作を見ると笑顔が軽やかで、『晴れ感』や『元気が出る』だけでなく『透明感』というキリンレモンの魅力を、うそ偽りなく表現してもらえそうだなと。また上白石さんは歌手としても活動されているので、歌で表現できるという点でもふさわしいのではないかと考えたんです」(キリンビバレッジの脇山正大氏)
このキャスティング提案に、井手氏も賛同。上白石の起用が決定する。
監督は「トリビュート」に続き、志賀匠氏にオファーした。志賀氏はユニクロやマンダム「GATSBY」などのCMを演出している人気ディレクターで、「光の表現が上手で、若い人のピュアなキラキラした感じも表現できる」(井手氏)ことが起用理由となった。
音楽は、音楽プロデューサーの山田勝也氏が担当。山田氏は、『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』などの映画音楽を手掛けたアーティストの高木正勝氏に参加を依頼した。
「山田さんには18年から一緒にやってもらっていて、キリンレモンのシズルを知り尽くしています。その山田さんから『今回は洗練された中にオーガニックな楽器の音色を潜ませられる人がいい。それができるのは高木さんだ』と薦められました」(井手氏)
こうしてキャスト、スタッフがそろい、19年12月に『晴れわたろう。』篇が撮影された。
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