女優・上白石萌歌がおなじみのメロディーを歌うCMが好感度ランキング上位に入るヒットになったキリンビバレッジの「キリンレモン」。企画の狙いを聞いた前回に続き、今回は背景にある、2018年から続く広告戦略をひもとく。

女優・上白石萌歌がおなじみのメロディーを歌う「キリンレモン」のCM。耳に残るあの曲は1961年に生まれたものだ
女優・上白石萌歌がおなじみのメロディーを歌う「キリンレモン」のCM。耳に残るあの曲は1961年に生まれたものだ
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 キリンレモンは、1928年に発売された、キリン初の清涼飲料だ。当時は色つきの炭酸飲料が多かったが、「子どもから大人までお客様の健康を願って」着色料を使用しない透明な炭酸飲料として開発されたという。天然のレモンフレーバーを使うなど原料にこだわったキリンレモンの当時の価格は1本25銭ほど。喫茶店のコーヒーが10銭くらいだったというから、キリンレモンは高価な飲み物だったのだ。

 最新のCMでも歌われている、「♪キリン、レモン~」と跳ねるような旋律が印象的なCMソング『キリンレモンのうた』が生まれたのは61年のこと。数々のCMソングで知られる作曲家で放送作家の三木鶏郎氏が作曲を手掛けた。この曲を生かしながら、人気タレントたちを起用したCMも話題となり、キリンレモンは清涼飲料としての地位を確立していく。

 そして発売から90年を迎えた2018年。キリンレモンは大規模な商品リニューアルを行う。

 健康志向の強い現代人に合わせて甘さを抑え、フレーバーには国産の瀬戸内レモンエキスを採用。ボトルにはキリングループのシンボルといえるマーク「聖獣麒麟」を大胆にあしらい、洗練されたデザインに変更した。このパッケージは初代のキリンレモンがモチーフだという。

 商品リニューアルに合わせて、テレビCMとウェブで展開したのが、「KIRIN LEMON Tribute(キリンレモントリビュート)」だ。ブレーク寸前のアーティストたちが『キリンレモンのうた』をカバー。そのミュージックビデオがネットを中心に話題となり、YouTube、ツイッター、インスタグラムの再生回数は5300万回を突破した。

 この「トリビュート」を手掛けたのが、現在もCMを担当している、博報堂のクリエイティブディレクター・井手康喬氏だ。

第一に考える「ブランドファースト」

 井手氏は大学で経済学を学んだ後、2004年に博報堂入社。キャリアのスタートは「ストラテジックプラナー」だった。

 「マーケティング調査をして、ブランド戦略やコミュニケーション戦略を考える仕事をしていました。ただ、戦略をせっかく考えても、クリエイターに途中でバトンを渡してしまうので、最後まで魂を込められない。自分で直接、クリエイティブまでやりたいと思うようになりました」(井手氏)

 こうして08年にコピーライターへ転身。11年には、グーグル「未来へのキオク」新聞広告で毎日広告デザイン賞最高賞(広告主参加作品の部)を受賞。12年には東武タウンソラマチの「Tokyo Solamachi」のネーミングを手掛けた。そして18年には、東日本大震災の津波の高さを銀座ソニービルに示したYahoo! 防災啓発広告「ちょうどこの高さ。」でTCC新人賞を受賞する。

 井手が心掛けているのは「ブランドのことを第一に考える『ブランドファースト』の考え方」だという。

 「CMにはかかわる人が大勢います。売り上げを上げたいクライアントさんがいて、アカウント(顧客)を守りたい営業がいて、賞を取りたいクリエイターがいる(笑)。その全員をハッピーにできるのが、ブランドが輝くことなんです。ブランドが光れば売り上げも上がるし、賞も取れる。『どうしたらブランドが愛されるか』を一番に考えると、いろんなことがうまくいくんです」(井手氏)

 ブランドが愛されるための秘訣は何か。

 「クライアントさんには伝えたいメッセージがあり、僕らにはそれを届ける義務がある。でもそこで言いたいことを押しつけるだけでは見る人に嫌われるので、見る人の文脈に合うように、補助線を付けてあげる。クライアントさんと受け手の間を取り持つ、『誠実な二枚舌』を意識しています」(井手氏)

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