オープンハウスは以前から、ハートウォーミング路線のライバル企業とは異なるコミカルなテイストのCMを展開してきた。長瀬智也や清野菜名、柄本明を“小学生”役で起用した「夢見る小学生」シリーズはCMの銘柄別好感度ランキングで20年1月後期に9位、2月前期に8位にランクイン。
東京のような都市部には、駅近などの好立地ながら、狭小・変形などの理由で分譲しにくい土地が多数ある。そのような土地を買い取り、地形に合った家を設計、施工することでリーズナブルに戸建てを提供、成長してきたベンチャー企業が、オープンハウスだ。
競合となる住宅関連で代表的なCMの1つといえば、「積水ハウス」だろう。1970年代から小林亜星作曲の『積水ハウスの歌』を使用。戸建てに住む家族の幸せな日常の風景を、約半世紀にわたって描いてきた。
同様に長い歴史を持つのが、三井住友不動産リアルティの「三井のリハウス」だ。87年から、思春期の少女目線で新居に住み替える家族を描いたこのシリーズでは、宮沢りえ、池脇千鶴、蒼井優、川口春奈ら数々の人気女優を輩出しきた。現在はシニア世代に目を向け、俳優の山下真司が娘夫婦の生活圏に“リハウス”して孫とふれ合う姿を描いている。
積水化学工業「セキスイハイム」のCMも長寿化している。2003年から、オリジナルキャラクター「ハイムさん」を演じているのは阿部寛。ハイムさんと家路に就く人が「♪帰りた~い、帰りた~い、あったかい我が家が待っている」と踊る妖精たちに囲まれる、というのが定番のストーリーだ。
13年、このようなハートウォーミングなCMに一石を投じるように始まったのが、オープンハウス「犬のジョン」シリーズだった。犬のジョンにふんした織田裕二が、戸建てに憧れる飼い主にオープンハウスのことを伝えようとするコミカルな姿が話題を呼び、13年度のCM好感度ランキング「住宅・建設業類」で5位に入る好成績を収めた。
このヒットの立役者の1人が、CMディレクターの小島淳平氏だ。
小島氏は葵プロモーション(現・AOI Pro.)などを経て、04年にTHE DIRECTORS GUILDを設立。ワイモバイル「ふてにゃんシリーズ」や、キリン「氷結」、味の素冷凍食品「ザ★チャーハン」(小栗旬)、明治「チョコレート効果」(新垣結衣)などを演出してきた。20年は松本人志を起用したソフトバンク「勝手にHERO’S」を手掛けるなど、幅広いCMをヒットさせている。
通常はクリエイティブディレクターやプランナーがディレクターに声を掛けるものだが、小島氏から逆指名を受ける形でオープンハウスCMに参加し、現在までコンビを組むのが、博報堂のプランナーの吉兼啓介氏だ。
吉兼氏は、09年に博報堂入社。仕事で知り合った小島氏に「プランナーがいないから、入ってくれない?」と誘われ、「犬のジョン」の2年目から参加した。近作は、小栗旬と山田孝之を起用した富士通コネクテッドテクノロジーズのスマートフォン「arrows」の「割れない刑事」、深田恭子がラムちゃんに、寺田心がテンちゃんにふんした東京ガス「電気代にうる星やつら」、佐田真由美が2児のママを演じる「日清 ご褒美ラ王」など。好感度トップ10に入る人気作を連発しているが、ヒットの法則はあるのだろうか。
「うーん、頑張る、としか言えないです(笑)。僕には特に作家性があるわけじゃなく、クライアントの課題に着実に向き合いたいというタイプ。だから『割れない刑事』も『ご褒美ラ王』も、作家が隠れているというか、同じプランナーが作っていると思われない。そういうスタンスでありたいという意識はあります。
ただ、ひとことで言えるCMを作ることは、意識しているかもしれないです。SNSではみんな、短い言葉で表現するじゃないですか。ツイッターなら140字以内でつぶやく。そのときに、どんなCMかひとことで言えると、明らかに強いし拡散しやすいと思うんです」(吉兼氏)
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