リクルート「ホットペッパー」のアフレコCMが、12年ぶりに復活して高い好感度を記録した。前々回は復活の裏側、前回は過去のアフレコCMの歴史を振り返ったが、今回はその特殊な制作方法やユニークなウェブでの施策などを紹介していく。

「急いでます」篇の一コマ。2020年2月28日からは、映像は同じでセリフが違う新バージョンがオンエア
「急いでます」篇の一コマ。2020年2月28日からは、映像は同じでセリフが違う新バージョンがオンエア

 2019年、クリエイティブディレクターの山崎隆明氏(ワトソン・クリック)は、12年ぶりにアフレコCMの企画コンテを提出した。リクルートライフスタイルの村山翔子氏は、それを見たときの感想を、こう振り返る。

 「普通の企画コンテには、数コマの絵とセリフがセットで書かれているんです。でも山崎さんにいただいたコンテにはセリフが一切なく、『あれ?』みたいな(笑)。もちろん、今回私たちが訴求したいポイントはお伝えしていたので、最終的にはそれが反映されたセリフを入れていただけるとは思いました。とはいえ、事前に内容が分からないので、『これはどうなるんだろう?』と思いました」(村山氏)

 洋画風の映像をまず撮影し、編集しながらセリフを考えていくというのが、山崎氏の制作スタイル。初めて組んだ村山氏は困惑したが、「社内では山崎氏への信頼と期待が大きく、企画にGOが出ました」と話す。映像は、週1回の定例会議で詰めていった。

 「今の時代においてアフレコCMを復活させるのに、どういう映像だったら昔のCMに負けないかを考え続けました。アフレコCMのポイントは、映像とセリフのギャップ。このギャップを大きく出せる設定をいくつか考え、クライアントのみなさんと何度も打ち合わせしながら、作っていきました」(山崎氏)

 ネット上でも話題になった今回の映像。パートナーの演出はサントリー「BOSS」の「宇宙人ジョーンズ」やトヨタ自動車の実写版「ドラえもん」などで知られ、このアフレコシリーズを第1弾から手掛けてきたCMディレクターの八木敏幸氏だ。過去作同様、海外ロケが敢行された。

 「こだわったのは、いかにクオリティーの高い本格的な映像を撮るかという1点。そのために、カメラマンは現地(米国)の大御所を起用し、スタイリストも一流の方にお願いしました。役者は、現地オーディションで。米国のコーディネーターにある程度キャスティングしてもらって、オーディション映像を日本で見ながら決めました」(山崎氏)

 役者を決め、ロケ地も決定。車の美術や衣装を作り込んでクランクインした。

 「役者の2人には、『ここは砂の惑星です。あなたたちは地球人ではありません。こういうセリフをしゃべってください』と、こちらが考えた、シチュエーションとズレのないセリフを英訳して渡しました。『ただ、このセリフは使いません。後から日本人が全く関係のないアフレコをします。でも、真剣にやってね』とお願いしました(笑)」(山崎氏)

 そうしてロケ車に八木監督と山崎氏が乗り込み、車と並走しながら撮影。最終的なセリフが決まっていないので、手探りだった。

 「毎回撮影は大変です。おのおののカットを何秒使うか分からないので、『このアングルで撮ろう』と決めたら長回しでいろんな表情を撮っていくんです。フラットな表情が続いたら、『ここでいきなり笑って!』と言ったり、『もっと険しい表情で!』と言ったり。『ダミーの英語のセリフをもう少し口を開けるセリフに変えよう』とか、過去の経験値を生かして臨機応変にいろんな可能性を追求する撮影でした。

 例えば赤い鼻をぎゅーっとつまんでもらったのも、何となくそれによって何か状況をずらすことができるんじゃないかと思ったから。役者2人もそんな撮影を楽しんでくれていました」(山崎氏)

 こうして丸1日かけて撮影終了。出来上がった映像を見て、村山氏は「圧倒的クオリティーで、ハリウッド映画のよう」と興奮したという。

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