CM好感度ランキング1位(2019年11月前期作品別)に輝いた雪印メグミルク「6Pチーズ」のCM「とろッピ~」篇。今回は、本作に至る2016年からの広告展開やクリエイターの試行錯誤について聞いた。

雪印メグミルク「6Pチーズ『とろッピ~』」篇。ダンスの振り付けにFoorinの『パプリカ』などを手掛ける辻本知彦氏を起用したことも時代にマッチした要因。「YouTubeで公開しているCMの再生回数は通常は2万回くらい。今回は一気に15万回を超えて驚きました」(水田氏)
雪印メグミルク「6Pチーズ『とろッピ~』」篇。ダンスの振り付けにFoorinの『パプリカ』などを手掛ける辻本知彦氏を起用したことも時代にマッチした要因。「YouTubeで公開しているCMの再生回数は通常は2万回くらい。今回は一気に15万回を超えて驚きました」(水田氏)

 農林水産省生産局の発表によると、チーズの国内総消費量は2013年度から増加を続け、18年度は過去最高の35万2930トンとなっている(19年7月発表)。この波に背中を押されるように、30代~40代の子育て世代にファンを増やそうと広告に力を入れてきたのが「6Pチーズ」だ。同商品は、1954年発売の定番品に加え、スモーク味、カマンベール入り、塩分を25%カットしたものも発売しており、子どもには「おやつ」として、大人には「おつまみ」として楽しめるよう幅広いシリーズを展開する。

 「新商品なら認知を上げるためのCMを考えますが、6Pチーズは既に多くの人が知っている認知率100%近い商品。単純にイメージを若返らせるだけではなく、『こういう食べ方もある』と提案した方が買ってもらえるのではないかと考え、16年に『ママとつくロッピー』という広告展開を始めました」(博報堂クリエイティブディレクター・丸田昌哉氏)

 「ママとつくロッピー」は、6Pチーズとさまざまな食材を組み合わせ、親子でかわいいキャラクターを作ろうというもの。例えば、ハムを組み合わせた『ハムハムスター』や、めんたいこをのせた『めんたいコアラ』、キャビアを使った『キャビアウーマン』などのメニューを考案してきた(現在は「ママとつくロッピー レシピ図鑑」としてウェブで紹介している)。

 「16年当時は、まだキャラ弁がはやっていたんです。その流れに乗って、親子で作る過程さえも楽しもうと、182個のレシピをウェブムービーなどで提案しました。そして17年、雪印メグミルクさんから『今度は、よりおいしそうなメニューを考えてほしい』と説明いただいて作ったのが、フライパンで焼いたり、バーベキューのときに火であぶったりするだけでおいしく作れる『焼きロッピー』です。さらに19年は『焼きロッピーよりももっと簡単でおいしいレシピを』と言われ、試行錯誤しました」(博報堂コピーライター・石下佳奈子氏)

丸田昌哉氏(左)と石下佳奈子氏(右)
丸田昌哉氏(左)と石下佳奈子氏(右)

 そうして「いっそ、フライパンなどの器具を一切使わないものしよう」と考え、目を付けたのが電子レンジだ。石下氏の脳裏にまず浮かんだのは、「レンチンでとろッピ~」という言葉と秒数。「今までの経験から、レンジでチンして15秒以内にとろっととろける気がしたんです」(石下氏)。これを受け、博報堂チームが社内の電子レンジ前に集まった。

 「もしレンジで10秒でできたら、インパクトもあるし、15秒CMにも収まる――そう思っていたら、10秒ぴったりでいい感じになったんですよ(笑)。1000Wを選ぶととろっとろになりすぎるけど、600Wではちょうど良かった。その後、すぐにほかのメーカーさんの似たチーズで試してみたら、同じ10秒でもふにゃふにゃになって。雪印メグミルクさんの6Pチーズでしかできないのが、600Wの電子レンジで10秒加熱する『とろッピ~』というメニューだったんです」(丸田氏)

 そうして雪印メグミルクサイドとも話し合い、風味が良く、チーズとの相性もいいのりにのせてレンチンするメニューになった。それを訴求するCMとして、博報堂チームは複数の企画を提案。その中の1つが、10秒間でチーズがとろける様子と、待ちきれずに踊り続ける女の子を描いたものだった。この案を見た雪印メグミルクの水田雅也氏は「10秒レシピをしっかり見せられて、チーズがとろけるところでうまそうだと感じられる。子どもが踊ってしまうところや、最後に家族で食べて笑顔になるカットも良かった」と採用に至る。問題は、どんな子どもに踊ってもらうか。丸田氏はまず年齢を考えたという。

 「今までいろんな子どもを撮影してきたんですけど、4~5歳の子が特にかわいくて、こちらが言うことも理解してくれるんです。でもその年齢の有名子役で、踊れる子がいない。それでオーディションを2回やって、『まだ、いい子がいるんじゃないか』とさらにもう1回やって。1回に30人以上来てもらって、100人近くは会いましたね。その中で一番良かったのが本保佳音ちゃんでした」(丸田氏)

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