飛行機内でのユーモラスな一場面を描いた「#音楽さえあればいい『飛行機』編」で、CM好感度ランキングに初めてトップ10入りを果たしたSpotify(スポティファイ)。この記事では、クリエイティブディレクターとして本作を手掛けた電通の鈴木晋太郎氏のこだわり、成功要因などを掘り下げる。

ウェブ限定で「#音楽さえあればいい『部屋』編」を制作。こちらも大きな話題を集めた
ウェブ限定で「#音楽さえあればいい『部屋』編」を制作。こちらも大きな話題を集めた

こだわったのは、「一発勝負」のアナログ撮影

 鈴木氏が「音楽愛とユーモアを両立できる企画として提案した」と言う「飛行機編」。実は電通チームの実体験をもとにした企画だという。

 「音楽を聴いている場合じゃないピンチの状況を僕と4人の企画チーム全員で考えた時、実体験をもとに、リクライニングシートを倒されるというアイデアを出した人がいたんです。でも、倒されるだけなら、すぐに起こせば取り返しがつくので、ついでに飲み物をこぼすと面白いかなと。飲み物はホットだと危ないけど、水だと透明で分かりづらいからオレンジジュースにしよう、と話し合いながら詰めていきました」(鈴木氏)。

 撮影にあたり起用したのは、CMディレクターの大野大樹氏。大野氏はAOI Pro.出身で、現在はCluB_Aに所属。錦織圭が超絶プレイを披露した日清食品「カップヌードル」の「SAMURAI-K」や、同じくカップヌードルの長尺CM「7 SAMURAI」、吹石一恵が出演したユニクロの「ブラトップ」、吉高由里子が出演する「ソフラン アロマリッチ」などを手掛け、最近ではトヨタ自動車「トヨタイムズ」、日本たばこ産業(JT)の「想うた」シリーズなどを監督している。

 「大野さんとは『想うた』を一緒にやらせてもらっているんですけど、演出がすごく丁寧で、映像の仕上がりが上質なんです。今回はワンシチュエーションの企画なので、画作りが大切だと思い、大野さんが適任だと考えてお願いしました」(鈴木氏)。

 撮影現場でこだわったのは、リアリティーだ。

 「『共感性羞恥』と言って、人が失敗している場面を見ると、自分も失敗した気分になって恥ずかしくなることがあるそうです。そういうリアリティーを狙いたいと思ったので、本番は一発勝負でシートを倒して、役者さんにジュースをかぶってもらっています。シャツの替えは5枚用意していたんですけど、それ以上失敗するとシャツを洗って乾かさなきゃいけないので、前日に入念にリハーサルをして撮影に臨みました」(鈴木氏)。

斜め後ろに座ってカメオ出演しているのは、CMソングに『Ca Va?』を提供した日本人アーティストのビッケブランカ。Spotifyいち押し新進アーティストの1人で、CMを機に楽曲の再生回数が増えたという
斜め後ろに座ってカメオ出演しているのは、CMソングに『Ca Va?』を提供した日本人アーティストのビッケブランカ。Spotifyいち押し新進アーティストの1人で、CMを機に楽曲の再生回数が増えたという

ウェブで拡散させるために60秒バージョンを制作

 シートが倒れて流れるダンサブルな楽曲は、ビッケブランカの『Ca Va?』。2016年のメジャーデビュー以来、Spotifyが注目してきた日本人アーティストの1人だ。

 「誰もが知っている大物アーティストの楽曲を使うのではなく、新しいアーティストと組んで一緒にCMを作りたいと思いました。そう考えていろんなデモ音源を聴いているなかで、一番合うんじゃないかと思ったのがビッケブランカさんの『Ca Va?』。ビッケさんはSpotifyが注目の新人アーティストをプレイリストやライブなどでいち早く音楽ファンに紹介する『Early Noise』プログラムに選出されて以来、ブランドと縁の深い方でしたし、『Ca Va?』は転調の大きな曲なので、今回のCMに合うんじゃないかと思ったんです」(スポティファイジャパンの井原舞氏)。

 「サバ~?」という印象的なフレーズが繰り返される新曲『Ca Va?』を、CMに合わせて本人が若干リアレンジ。さらに後部座席の乗客の1人としてカメオ出演している。

 「『後ろの席にビッケさんがいたら面白いよね』という話をしていたら、本当に出ていただけることになって。スケジュール調整は大変でしたけど、SNSで『ビッケもいた!』みたいなコメントをけっこう見ましたし、出ていただけて良かったです」(井原氏)。

 また、SNSでの拡散を意識して作られたのが、60秒バージョンだ。テレビ用の15秒バージョン、30秒バージョンと内容は同じだが、60秒ではスローモーションが多用されるなどドラマチックにおかしさが強調されている。また音楽が流れる時間が長いため、ミュージックビデオのような楽しみ方もできる。

 「経験上、1分くらいの長尺の方が、ウェブでシェアされて再生回数が増えるという感覚があって。だから撮影段階で寄りや引きのアザーカットを大量に撮っておいて、編集段階で60秒バージョンを作ってご提案したんです」(鈴木氏)。

 井原氏は予定外の提案に驚きつつ、これを快諾。鈴木氏の狙い通り、60秒バージョンの再生回数は好調で、公開から2カ月で200万再生を突破。ちなみに15秒バージョンは312万、30秒は2.8万となっており、ウェブでは短尺か、長尺で見応えのあるものが好まれる傾向が見て取れる(いずれもSpotify公式YouTubeチャンネルでの再生回数。8月7日時点)。

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