飛行機の中、トラブルに遭っても音楽を聴き続ける男性を描いたSpotify(スポティファイ)のCM「#音楽さえあればいい『飛行機』編」が、銘柄別CM好感度トップ10の8位にランクインした(6月度)。今回は競合をどのように意識して企画を作ったのか、クリエイターの鈴木晋太郎氏に聞く。
ストリーミング音楽配信サービスの中での差別化
2019年4月にICT総研が実施したWebアンケート調査によると、4170人の回答者のうち、定額制音楽配信有料サービスの利用者は601人(14.4%)、無料サービス利用者は523人(12.5%)だった。合計すると1124人、27.0%にあたる人が有料、もしくは無料の定額制音楽配信サービスを利用していることになる。ちなみに、1年前の調査と比較すると、有料で3.7%、無料で1.1%の利用率上昇。有料が無料の利用率を上回るのは今回が初ということから、今が有料サービスにとってシェア獲得の勝負時であることが分かる。
続いて回答者のうち、各サービスの利用者数を見てみると、トップは「Amazon Prime Music」(436人)で、2位は「Apple Music」(318人)、3位は「LINE MUSIC」(238人)、そして4位が「Spotify」(236人)となっている。
Amazon Prime Musicは、Amazonのプライム会員(月額500円)であれば利用できることから、エントリーしやすく値ごろ感がある。Apple Musicは月額980円とAmazonより高めだが、日本市場ではiPhoneユーザーの多さが強みだ。またLINE MUSICは、対話アプリ「LINE」の利用者が親しみやすく、月額500円という低価格もウリ。これらトップ3の牙城に斬り込もうとしているのが、後発で日本市場に参入した世界最大手の1つ、Spotifyだ。特徴は、月額980円のプレミアムプランと、広告が入るが無料でSpotify上のすべての曲を楽しめるフリープランを用意していること。この「フリーミアム戦略」が世界シェア獲得に大きく貢献した(料金はいずれも消費税改正前)。
次に競合のテレビCMを俯瞰(ふかん)してみたい。Amazon Prime Musicは目立ったCM展開はなかったが、18年に「新しい地図」(草彅剛、稲垣吾郎、香取慎吾)を起用し、「僕たちの曲、全部聴き放題」と訴求してインパクトを与えた。
Apple Musicは、17年にSuchmosやONE OK ROCK、18年に欅坂46やOfficial髭男dismなど、その時々のブレイクアーティストを起用。LINE MUSICは、15年に小松菜奈や桜井日奈子、18年に浜辺美波や白石聖を起用するなど美少女起用CMが多い印象だ。ちなみにランキング7位のAWAは、BOφWYや浜崎あゆみなどコンテンツを訴求するCMを放送してきた。
「差別化を図るためには、Spotifyの特性、ブランドの価値をオーディエンスに理解してもらわないといけないと思いました。Spotifyのユーザーには、私たちが『Music Enthusiasts』(音楽愛好家)と呼ぶ、音楽無しにはいられない熱心な音楽ファンが多い。もちろん社内にも音楽好きが非常に多く、我々自身がMusic Enthusiastの集まりといえます。また、Spotifyにはブランドを特徴付ける5つの価値(Brand Value) があり、その中に「Playful(遊び心にあふれた)」という要素があります。これらを踏まえ、今回は熱心な音楽ファンの方々に共感いただけるシチュエーションを、ユーモアを持って描いて親しみの持てるCMにしたいと思いました」(Spotify Japanの井原舞氏)。
音楽ファンの共感とユーモアを両立させたCMを作る。このお題に挑んだのが、電通のCMプランナーでコピーライター、今回はクリエイティブディレクターを兼任した鈴木晋太郎氏だ。
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