木村拓哉を起用した新シリーズが話題を呼び、2019年3月前期作品別CM好感度ランキング(CM総合研究所発表)で6位に入った、サントリービール「金麦」のCM。前回は新シリーズ誕生の背景や狙い、成功要因などを紹介した。今回はアルコール業類のCM概況と、金麦CMを手掛けるクリエイターを紹介する。

CM総合研究所が発表するCM好感度ランキングでは、3月前期の作品別CM好感度ランキングで6位、銘柄別でも10位に入っている。また、同期の好感要因「商品にひかれた」銘柄別ランキングでも4位だった
CM総合研究所が発表するCM好感度ランキングでは、3月前期の作品別CM好感度ランキングで6位、銘柄別でも10位に入っている。また、同期の好感要因「商品にひかれた」銘柄別ランキングでも4位だった

 まずはアルコール業類のCM概況を、「18年度アルコール業類のCM好感度トップ10」(CM総合研究所発表)をもとに見てみよう。

18年度「アルコール業類」CM好感度トップ10
18年度「アルコール業類」CM好感度トップ10

 1位の「一番搾り」を筆頭に、2位「氷結」、3位「本麒麟」とキリンビールがトップ3を独占している。さらに7位に「淡麗グリーンラベル」、8位に「のどごし<生>」もランクインさせ、トップ10中5本がキリンのCMとなっている。

 対してサントリーは3本。4位に稲垣吾郎と香取慎吾の起用で話題になった「オールフリー」が入り、6位に天海祐希と沢村一樹が雑誌編集長を演じて対決した「-196℃ ストロングゼロ」がランクイン。そして9位に入ったのが「金麦」だ。ちなみに金麦の16年度の好感度は6位、17年度は5位だった。

 好感度低下の要因として考えられるのが、顧客のライフスタイルの変化だ。金麦が発売された07年は、共働き世帯と専業主婦世帯との数がほぼ同数だったが、現在は女性の有職率が75%となり、共働き世帯が専業主婦世帯の2倍程度に増えている(総務省「労働力調査」に基づく)。そのため、檀れいが「夫の帰りを待つ専業主婦」を演じるCMはリアリティーが薄れ、視聴者の共感を得ることが難しくなってきた。

 そこでサントリーが行ったのが「13年目の大刷新」だ。中身もパッケージもリニューアルし、広告の刷新を託されたのが、クロロスの黒須美彦氏だ。金麦ブランドの立ち上げから一貫してクリエイティブディレクションを手掛けてきた、広告業界歴45年になる大ベテランだ。

クロロスの黒須美彦氏
クロロスの黒須美彦氏

 黒須氏は慶応義塾大学工学部卒業後、1975年に博報堂入社。CMプランナー・クリエイティブディレクターとして、プレイステーション、ローソン、資生堂など数々のCMを成功させた。特に多くの人の記憶に残っているのはNTTドコモの「広末涼子、ポケベルはじめる」だろう。当時ほぼ無名の広末を見い出してスターに押し上げ、「女の子CMの名手」として知られるようになった。

 03年に博報堂を退社、クリエイティブエージェンシー「シンガタ」の設立に参加する。電通を代表するクリエイティブディレクターであった佐々木宏氏と、博報堂を代表する黒須氏の「シンガタ」での合流は広告業界の注目の的となった。

 以降も黒須氏は、キャラクター原案も手掛けたNTTドコモの「ドコモダケ」シリーズや、山口智子や武井咲らの「singing AEON」、中井貴一や時任三郎、柳沢慎吾らが出演した「いい大人の、モバゲー」、「YDK(やればできる子)」のフレーズで浸透した明光義塾のCMなどをヒットさせる。

 ちなみにサントリーではこれまでに「グレフル」「フラバン茶」「角瓶」「それから」などを担当。現在は金麦ブランドの3商品と、チューハイの「-196℃ ストロングゼロ」を手掛けている。

 「一貫して大事にしてきたことは、商品と向きあうこと。宣伝部や社長さんに受けるものを、と考えるのではなく、できるだけ商品を見る。そして『この商品って、こういう感じだよね』という“商品感”をお伝えしたいと考えてきました。

 そのために大切にしてきたのは、普通の生活をして、普通にビールを買って飲んだり、お茶を飲んだりすること。クリエイティブディレクターには『生活経験値』という資質が大事だと思っています」

 その生活経験値が生かされたのが、金麦のブランディングだ。

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