パッケージデザインは定期的にリニューアルを行うことで優位性を保つことができる。競合が変化し、デザイントレンドも変化していく中で、リニューアルを行わなかった場合は「気づいたら、本来目指すべき(競合との相対的なイメージの)ポジションから変わっていた」「古臭いと思われるようになっていた」ということに陥りがちだ。

デザイン要素の中で何を残すべきか
日清食品「カップヌードル」のように50年近くの間、ほとんど変わらないデザインでも愛され続けるケースは非常にまれと言える。
デザインのリニューアルにはリスクが伴う。意図せずデザインクオリティーが低下したり、消費者の好みの変化を捉えきれずニーズのないイメージに変わったりするリスクがあるが、最も回避すべきは「既存顧客が離反してしまう」ことであろう。成熟した市場環境では、新規顧客の獲得は競合のシェアを奪うことに等しい。既存顧客を維持するよりも、スイッチさせることのほうが難しいということは定説となっている。
そのためリニューアルを行う際には、「デザイン要素の中で何を残すべきか」「どこまで変えてもいいか」ということが問題になることが多い。新しくなったということをアピールしたい一方で、既存顧客が当該ブランドを認識しているデザイン要素をなくしてしまう、同じブランドと分からないほど大きく変えてしまうなどすると、前述した既存顧客の離反につながるからだ。回避するためには、「既存顧客が認識しているブランド特有のデザイン要素(ブランド資産)を継承する」ことであるが、この要素を消費者調査などで事前に明らかにするのは容易ではない。私が所属するプラグは、消費者に記憶でデザインを描いてもらったり多次元尺度構成法(MDS)を使って類似度を視覚化したりといったことを行い、デザインリニューアルで残すべき要素を把握している。
そこで今回は、リニューアルされた商品のデザインを消費者がどのように評価したのかという後追いの観点で、デザインリニューアルの事例を見ていきたい。分析にはプラグが2015年より毎年2回実施しているパッケージデザインに関する好意度調査のデータを使った。調査では1商品につき1000人の消費者がパッケージデザインの画像を見て、好きかどうかを5段階で評価し、好意度の理由を自由回答で記入している。
好意度は主たる要素の変更で変わる
ロングセラーブランドのパッケージデザイン好意度が、リニューアルによって上がった事例と下がった事例を見ると、ブランドロゴやベース色、レイアウトなどを継承した場合は好意度が維持または向上しており、それらを変更した場合は好意度が下がる傾向が見られた。
例えば、「三ツ矢サイダー」(アサヒ飲料)は、プラスチック使用量削減のためにラベル幅を小さくしているが、矢羽根マークや緑のラインなどは維持している。「クノール カップスープ コーンクリーム」(味の素)も上部の緑ラインと「Knorr」のロゴ、スプーン上げのシズルなどは変わらない。「濃いシチュー クリーム」(エスビー食品)は、17年のリニューアルでは変更幅が大きいように感じられるが、それ以降のデザインではロゴや左右のレイアウトを維持。「本格焼おにぎり」(ニチレイフーズ)も、ベース色はやや変化があるが、大きなおにぎりのシズルの印象と、燃えるような背景デザインは継承されている。
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