マーケティングリサーチやパッケージデザインを手掛けるプラグがこれまでに実施したパッケージデザインに関する好意度調査の結果を用いて、ここ数年の食品パッケージにおける表現の方向性を、3つに整理した。
デザイン制作の現場において頻繁に使われる言葉の1つに「方向性」がある。「この商品は若い女性がターゲットだから、かわいらしい雰囲気を表現する方向性にしよう」「冬に買ってほしい商品だから、ぬくもりが感じられる方向性にしよう」「濃厚な味が売りの商品だから、とろける感じを強調した方向性にしよう」のように使う。パッケージをデザインする際、いくつかの方向性を考え、それぞれで複数のデザイン案を制作。さらに市場調査や社内評価を繰り返しながらデザインを絞り込んでいくことが多い。
しかし、長年同じ商品カテゴリーを担当していると、そのカテゴリーでどのような方向性のデザインが売れやすいか、肌感覚として身に付いてくる。その影響で、新しい方向性を見いだすことが難しくなるという悩みを、メーカーの開発担当者から聞くことがある。結果として、デザインはマンネリ化し、新商品なのに目新しさが感じられないという状況に陥ってしまう。
この状況を打破するために有効なのが、他のカテゴリーの商品からデザインの方向性を学ぶという方法だ。これまでに試していない方向性から、成功事例と失敗事例を学ぶことで、今までにない新しいデザインを効率よく生み出せる。
プラグがこれまでに実施したパッケージデザインに関する好意度調査の結果を用いて、ここ数年の食品パッケージにおける表現の方向性を、3つに整理した。実際は、食品パッケージには多様なデザインがあり、細かく分類していくと、多くの方向性を見いだすことができるが、今回は、全体の傾向をつかむことを目的に、あえて3つに整理した。
季節、シズル、トーン&マナーを探る
2015~18年にかけて春と秋に実施した8回分の調査対象のうち、食品と飲料カテゴリーに該当する3353商品を用いた。調査では、商品のパッケージを消費者に見せ、そのデザインを好む度合いを5段階で評価してもらい、「好き」「やや好き」と回答した割合を好意度とした。また、好む度合いの理由を自由回答で尋ねている。
分析では、「好き」「やや好き」の理由として自由回答に記述された各単語の出現頻度のデータを使い、クラスター分析[注]によってデザインの方向性を分類した。その結果が、「季節表現」「シズル表現」「トンマナ(トーン&マナー)表現」の3つのクラスターだ。なお、各商品は、複数のクラスターに該当する要素を持っているが、最も類似しているクラスターに分類している。
季節表現は、桜や紅葉や、イチゴやクリなどの旬な食材をモチーフにし、それぞれの季節を象徴するカラーを用いる方向性。季節性を商品に取り入れることで、春なら「めでたさ」や「(桜の)女性らしさ」、秋なら「食欲」や「(紅葉の)美しさ」といった情緒的な訴求が可能なだけでなく、ブランドの鮮度を保ちつつ、新しい顧客創造・体験を創り出せる。
シズル表現は、素材感や風味、食感などの味わいを、食材の写真やイラスト、その味わいにマッチする色合いから、直接的に視覚で訴える方向性。喫食したときの実際の食感や素材の持つ粘度、温度、味覚、香りを想起させ、食欲をかき立てる効果がある。また、素材の良さを伝えやすく、企業やブランドの信頼性にもつなげられる。
トンマナ表現は、そのブランドが消費者に対して約束する価値体験(ブランドプロミス)を表現する方向性。長く愛されてきたロングセラーブランドの定番デザインは、このクラスターに含まれる。昔から変わらないデザインモチーフや色、アイコンなどを継承し、文字情報が少なくシンプルで分かりやすいデザインは、パッケージ全体がブランドアイデンティティー(記号的存在)としての役割を果たす。また、安心や信頼を感じさせる効果もある。一方、美麗な装飾や重厚な色合いから感じられる高級感、かわいらしいキャラクターや明るい色合いから感じられる楽しさやわくわく感などは、買う人それぞれの理想とするライフスタイルの実現をサポートしてくれる期待を抱かせる。
これらのクラスターは、さらに細かい方向性を含んでいる。こうした方向性をデザイン制作チーム内で共有することで、新しい表現にチャレンジしやすくなる。
成功事例を学ぶために、季節表現クラスターに含まれる商品の中から、好意度が相対的に高いものと低いものをピックアップした。
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