ニュース記事にまつわる問題点をいくつか例示したが、「これだからネット広告はモラルが低い」と批判しているのではない。むしろ雑誌など従来メディアが古くからやってきたことを踏襲しているに過ぎない。
下の図にあるように、雑誌の媒体概要や広告資料には次のような文言が躍る。

「編集部が取り上げる記事としてクレジットを入れずに構成」(「オレンジページ」)、「通常の商品タイアップでは、効果・効能を直接表現できませんが、ノンクレジットで展開することで払拭します」(「毎日が発見」)、「連載ページを活用したペイドパブ企画。通常の連載をタイアップに活用できるため、読者に記事と同じ感覚で読んでもらえます」(「NumberWeb」)。
こうした文面を誰もがアクセスできる自社サイト上に資料として置いている時点で、ステマ記事がいかに横行し、感覚が麻痺してしまっているか、その現状が分かるだろう。
では話をニュースサイトに戻してお手本となる事例を挙げておこう。「はてなニュース」の広告企画ページである。
はてなニュースを手本に
はてなニュースのタイアップ広告記事には、「広告」であることを示す表記が3カ所ある。パソコンサイトでは、記事タイトルの右上に「PR」アイコン、記事冒頭のパラグラフを終えたファーストビューの範囲に「(※)この記事は株式会社○○○によるPR記事です)」の表記、そして記事末尾に「[PR]企画・制作:はてな」という具合だ。

スマホサイトでは、最初の「PR」アイコンが記事見出しのすぐ後ろに現れるので、やはりファーストビューで広告記事だと判別できる。記事冒頭パラグラフの後ろと記事末尾はパソコンサイトと同様だ。
はてなニュースの広告表記は基本に忠実なだけではあるが、なるべく目に付かないように配置しているのかと思われる広告表記がまだまだ主流な中にあっては一際光る。同社は昨今のネイティブ広告に関する議論を受けて急に改善したわけではない。今のスタイルになったのは2010年12月。サイボウズの開発現場をレポートした広告記事からずっとこの体裁を貫いている。
いかに広告と悟られずに読ませるかというステルス的な思考から、いかに広告を面白く読んでもらうかへ発想転換を図る必要に、広告主、代理店、ニュース媒体の3者は直面している。
危うい“ブースト”広告

スマホアプリのマーケティング、すなわちダウンロードを促す広告においても問題が表面化している。人気ゲームアプリの有償アイテムをプレゼントする代わりに自社アプリをダウンロードしてもらうアフィリエイト型のリワード広告だ。
むしろYouTuberとして有名なマックスむらいこと村井智建氏が取締役を務めるアプリ紹介サイト「AppBank」でこの広告が乱発され、アップルのアプリダウンロードサービス「App Store」の人気アプリランキングが実態とかけ離れることから、アイテムを入手するためのアプリが6月14日に機能制限に追い込まれたばかり。アイテムを求めるのは中高生が多いため、顧客層とズレがあるアプリをダウンロードさせて件数を伸ばしても、アクティブユーザーの割合が下がってしまう。
それでもダウンロード件数争いが熾烈なニュースアプリ界隈では、このリワード広告に手を出す事業者が現れている。自社アプリのダウンロード促進施策が結果としてランキングの操作につながれば、消費者の利益に反することになる。

なお、日本広告審査機構(JARO)に寄せられた2014年度の苦情件数の業種別トップは「通信」で、ゲームアプリなど情報サービス関連が前年度比6割増だったことが影響した。
JIAA常務理事の長澤秀行氏は、「主にEC(電子商取引)分野が中心だがインターネット広告に対する消費者の不信感は高まっていて、法規制の議論が続いている」と危機感を募らせる。
日本の広告費でテレビCMに次ぐ2位に成長したインターネット広告は、苦情・問い合わせ件数でも第2のメディアに躍り出て久しい。目先の広告効果を追い求めるあまり消費者に忌避されれば、自分の首が締まる。ネイティブ広告に絡んでステマ議論が高まっている現在、自社の姿勢を見直す機会としたい。