ニュースアプリの「スマートニュース」や「Antenna」などにもマイナビ発のニュースは配信される。ニュースアプリの方は掲載本数に制限があるものの、ニュース提供社がひとたび“ニュース記事”として取り上げれば、それは半自動的に契約先のニュースポータルに転載されて、多数のネットユーザーにリーチすることになる。
中でもやはりYahoo!ニュースの存在感は圧倒的だ。マクロミルの協力を得て全国20~40代の男女300人に「よく見るニュースサイト、アプリ(※月1回以上)」について複数回答可で尋ねたところ、84.0%の人がYahoo!ニュースを挙げ、15.7%で2位のGoogleニュース以下を大きく引き離した。
スマートフォン時代のニュースポータルの覇権を握ろうと「グノシー」などニュースアプリ各社がしのぎを削っているが、Yahoo!ニュース専用アプリのダウンロード数には勝っていても、Yahoo!JAPANのスマホサイトやアプリからYahoo!ニュースを見ている人が実際は多いことを物語っている。
それゆえ企業の広告宣伝・広報担当や広告・PR代理店は、Yahoo!ニュース掲載を一つの目標に、記事提供元となっているメディア各社にプレスリリースを送ってニュースネタを提供し、編集部とのパイプづくりに努めてきた。
ヤフーは広告記事を規約で禁止
Yahoo!ニュースに編集記事か広告記事か判然としない記事が増えること、ましてやニュース記事を装った広告記事が紛れ込むようなことがあれば、それはヤフーにとって不本意だ。ヤフーに問い合わせたところ、「ニュース提供社から、広告記事の配信は受け付けていない。ルールについては、記事提供の契約を結ぶ際、契約文面に明記している」(社長室広報)と説明する。
一方、『ウェブニュース一億総バカ時代』(双葉新書)の著者で、広告であることを隠すステルスマーケティング(ステマ)記事作りに関与していることを告白する都内ニュースサイト勤務の三田ゾーマ氏は、一般論として次のように語る。
「広告・PR代理店から、ニュース記事を装った広告記事の作成依頼が頻繁にある。もはや記事制作の発注はニュースポータルへの転載が前提になっていると言っていい」。
現実は相当に深刻だ。何らかのタイミングで広告主の意向に沿った記事がYahoo!トピックスにピックアップされて注目を集め、メディアリテラシーの高い一部の読者が不信感を抱けば、その記事が実際に編集・広告どちらであれ、炎上要因になりうる。
ここ数年来、マーケティング手法として注目を集めている「戦略PR」においても、“売れる空気づくり”の手段として、ニュース記事は欠かせないアプローチである。手っ取り早くムードを喚起しようと、広告クレジットを外したい欲求にかられる場面もあるかもしれない。
「代理店任せにしていて実態を把握していない広告主も多い」(三田氏)ということだが、知らないではすまされなくなってきた。
関連記事から広告企画に
続いて、ニュース記事下に表示される「関連記事」リンクについて言及しておきたい。
6月4日、オリコン運営のトレンド情報サイト「オリコンスタイル」に、特集記事として「肌老化の原因の8割は紫外線! 知られていない危険と予防対策」という広告企画記事が載った。紫外線対策の必要性を訴える記事で、日焼け止めクリームを塗れない目のためにサングラスをかけることを推奨する内容だ。

記事中、テレビのバラエティ番組にも出演実績があるアンチエイジングドクターの日比野佐和子氏が登場し、JINSのサングラスを薦めている。記事末尾には「特別協力:JINS」のクレジットがしっかり入っている。これは何ら問題はない。
オリコンではこの広告企画記事と同時並行で、JINSのサングラス紹介など“広告色”を削ぎ落とした編集記事を作っている。こちらは、広告企画記事にはふんだんに載せていたJINSの商品写真は一枚もなく、記事中にJINSのJの字もない。専門医がサングラスの着用を薦める美容情報記事になっている。オリコンはこの編集記事をニュースポータル各社に配信している。
読み手に対して誠実な運用である。と言いたいところだが、一つ引っ掛かるところがあった。Yahoo!ニュースに転載された記事末尾に載っている「関連記事」を見ると、1番目は「日比野佐和子先生インタビュー『明日からできる眼と目元ケア』」。飛び先は上記JINS商品写真満載の広告企画記事である。
ただしヤフーは、「関連リンクについても、規約で広告記事の掲載は受け付けていない」(社長室広報)と回答している。
ニュース提供各社がなぜニュースポータルに記事を提供するのかといえば、この関連記事からのトラフィック流入が大きく、自社ニュースサイトのPVを下支えしているためだ。ニュース媒体としては広告主の手前、広告企画のPVを増やしたいところだが、ヤフーの規約上は関連リンクからの広告企画記事へのリンクはNGである。
広告記事といっても、リンクしたのは「関連」がある記事であることは間違いなく、それによって読者がどのような不利益を被るのかと言われれば、その恐れはほとんどないだろう。とはいえ、有用な場合に限りこれを容認するとなると、その線引きは難しい。
Yahoo!ニュースには1日に数千本単位の記事が配信されてくる。逐一、関連記事のリンク先が編集記事かそれとも広告企画になっていないか、確認することは事実上不可能だ。
関連記事が広告記事へのリンクで占拠されるようなら、バナー広告と同様、“関連記事ブラインドネス”を招き、ニュース提供社のトラフィックが減ることになるため、広告媒体としての価値低下につながる。青臭い話と一笑に付すのはカンタンだが、守るべき一線は守っていく必要があろう。