ギフト用品の販売を主に手がけるシャディ(東京都港区)は、米国のニューヨーク近代美術館(The Museum of Modern Art、略称MoMA)からライセンスを受け、国内唯一の公式ショップとして運営する「MoMA DESIGN STORE」のリアル店舗とEC(電子商取引)サイト「momastore.jp」のシステムを今年2月に統合。「長期的にはどちらの販売チャネルでも顧客に同じ体験を提供する」(シャディMoMA事業部の伊地知俊介事業部長)ことを狙ったオムニチャネル戦略を推し進めている。

MoMA DESIGN STOREはMoMAのキュレーター(学芸員)によって承認を受けた商品だけを販売するミュージアムショップ。これまで、2004年にオープンしたECサイトと、2007年に東京の表参道に開業したリアル店舗のそれぞれが、別々にシステムを構築して運用してきたため、在庫情報や顧客情報などの一元化が図れていなかった。
この結果、商品を店頭とECサイトとの間でやり取りする際、いちいち2つのシステムに入力する必要があるなど管理業務が煩雑化。加えて、店頭で会員登録した顧客がECサイトで商品を購入した場合に(逆の場合も)ポイントが付与されないなど、長い目で見ればブランドイメージの低下を招きかねない事態になっていた。
そこで昨年春から次世代システム構築の準備を開始。ECサイトの見た目のデザインをほとんど変えないままにシステムを刷新し、今年2月、ECサイトで約3000、リアル店舗で約2000あった取り扱い商品の在庫情報と、ECサイト経由で約10万人、リアル店舗経由で2万人弱が会員として登録していた顧客情報の統合を終えた。
そのうえで、ECサイトやFacebookなどソーシャルメディアからの情報発信をきっかけにリアル店舗へ集客するだけでなく、ECサイトとリアル店舗を連動させてより便利に買い物を楽しんでもらう環境を提供し、「MoMAのブランドイメージの向上」(伊地知氏)を狙った。
例えば、会員登録した顧客がどちらの販売チャネルで購入しても共通のポイントを得られるようにした。また、ECサイトで購入した商品を表参道の店頭でも受け取れるようにして、店頭でのついで買いを促すようにした。
管理業務の効率化で顧客の利便性もアップ
システムを統合し、オムニチャネル戦略を導入してまだ約4カ月しか経過していないためか、「システム刷新前に比べ、リアル店舗、ECサイトとも、まだ目立つほど売り上げは増加していない」(伊地知氏)。その一方で、顧客の利便性向上、ひいては売り上げ増にもつながる管理業務の効率化の効果は生じている。
例えばMoMA DESIGN STOREはこれまで年3~4回、表参道のリアル店舗と同じ雰囲気を保ちつつ、百貨店の催事場などに期間限定で出店してきた。しかし、出店先で商品の単品管理ができないため、売れ残った商品を持ち帰って伝票と照らし合わせ、「棚卸し」をしないと実際の販売額が判明しなかった。期間限定店の出店には、裏でかなりの手間が必要だったのだ。
しかし、新システムではリアル店舗に、接客ツールとしても使えるタブレットPOSを導入したため、期間限定店でも、タブレットPOS1台と無線LAN接続設備だけ用意すれば、その場で商品を単品管理し、販売額や個数もリアルタイムで確認できる。管理業務の効率化で、今後は期間限定店の開催回数の増加も可能になりそうだ。
また、在庫情報や顧客情報を一元化して管理業務の煩雑さを減らした結果、「ECサイトで注文を受けた商品を発送する速度が速まった」(伊地知氏)。以前は顧客がECサイトで注文してから商品が届くまで5日ほどかかっていたが、今ではクレジットカード払いの場合で平均して約2日で届くようになったという。顧客の利便性は上がった格好だ。
今後は業務の効率化をさらに進めるほか、ECサイトで表示する各商品に「店頭在庫あり」のマークを示してリアル店舗への来店を促したり、スマートフォン向け専用アプリを開発して何らかの情報を顧客の特性に合わせてプッシュ通知し、来店を促す──といった施策を順次実施していく考えだ。