出張・経費管理クラウドサービス「Concur Travel & Expense」(以下、Concur)を提供する米コンカー・テクノロジーの日本法人コンカー(東京都千代田区)は、マーケティングオートメーション(MA)ツールなどを活用。マーケティング担当者が2人という体制ながら、2011年の設立から4年で躍進。国内経費精算市場における売上金額では、トップシェアだという。

 Concurは、出張や接待などの経費をスマートフォンの画面から簡単に入力できるサービスだ。グローバルで150カ国以上、3万社が導入。利用者は2700万人以上に上り、処理する経費は6兆円に達するという。コンカーでマーケティング部長を務める柿野拓氏は「グローバルでは大手から中小企業まで幅広く採用されているが、現状、日本では大手企業向けのソリューションとして提供している」と説明する。この戦略にとってMAは欠かせないツールとなっている。

MAで大企業中心に攻める

 柿野氏が、同社初のマーケティング担当者としてコンカーに入社したのは2013年6月である。「当時の当社にはマーケティングの機能がなく、顧客から問い合わせがあったら、個別に訪問営業するスタイルだった。しかし全社でも20人ほどしかいない状況で、単価が安い案件も、高い案件と同じように扱うしかなく、現場は疲弊していた」(柿野氏)。そこで同氏は日本では収益性が高い大企業にターゲットを絞るよう提案。その戦略実行に欠かせないツールとしてMAを活用することにした。

 実は米コンカーはCRM(顧客関係管理)ツールの「Salesforce」、MAツールの「Eloqua」(現Oracle B2B Cross-Channel Marketing Platform)、そしてBI(ビジネスインテリジェンス)ツールの「Tableau」を導入しており、日本でも同じ3つのツールを活用している。

 下の図は、潜在客から見込み客、そして商談成立へと至るプロセスを示したものだ。このプロセスで、会社情報や名刺情報などを持つ潜在客を意味する「Suspect」から、電子メールの送信などのマーケティング施策で受注確率をある程度まで高めて、電話や訪問営業を実施する営業部門に“お客(の情報)を渡せる段階になった”ことを意味する「Marketing Qualified(MQL)」までが、MAツールの適用範囲である。

潜在顧客をナーチャリングし、商談成立へと至るプロセスでMAなどを活用。出所:コンカー

 ちなみに、上記MQL以降、商談成立を意味する「Closed Won」までは、CRMツールの適用範囲となる。そしてこのプロセス全体の状況をBIツールを活用して進捗管理などをしている。ダッシュボードと呼ぶ画面から、例えば、現在MQLの段階にある商談が何件あるか、次のプロセスに移行するまでに平均でどれだけ時間がかかっているかなどを把握することもできる。

 仮に、全体的に商談成立までの時間が想定よりも長くなっているなら、潜在客に送信しているメールの内容などを変更するといった手を打ち、成立までの時間を短縮するといった使い方もしている。

 現在、MAツールで利用しているシナリオは2つ。1つは、会社情報ないし名刺情報を持つだけのSuspect層を、コンカーに興味を持つInquiry層へとナーチャリングするもの。もう1つは、営業をかけたものの商談成立に至らなかった層(コンカーでは「Closed Not Win」と呼ぶ)を、再びMQLの段階へ戻し、改めてナーチャリングするシナリオだという。

 柿野氏は、同社のマーケティング部門の重要な役割を「潜在客を、営業が顧客企業を訪問したら、できるだけ短い時間に商談が成立するようなリード(見込み客)に育てて、(その情報を)営業部門に渡すこと」と考えている。その実現に欠かせないのが、この2つのシナリオというわけである。

テレマーケティングで潜在客を絞り込む

 1つ目のシナリオは、外部委託のテレマーケターが、Suspect層の企業に電話をかけ、経費精算にどのようなシステムを使っているか、経費精算に関して何らかの不満、問題などを感じているか、といった情報を入手する。

 情報を基に、例えば出張費削減に興味を持っている企業には、Concurの導入によるコスト効果などに関するメールを送信したりするなど、カスタマイズ施策を打ち、Concurへの興味を高める。

 こうした施策によって徐々に、商談成立へと近づけていくわけだが、その状況を評価する際に活用しているのがMAツールのスコアリング機能である。これは「資格レベル」と呼んでいる、主に属性情報などを基準に点数化したスコアと、「興味レベル」と呼んでいる、ネット上の行動などを基準に点数化したスコアであり、この2つのスコアで、AからEの5段階に分類している。

MAでリードを選別する際に使うスコアリングのマトリックス。緑の「A」から「C」がMQLと呼ばれるもので、この段階になると顧客の情報がマーケティング部門から営業部門へ送られる。出所:コンカー

 資格レベルのスコアは、潜在客である企業の規模や業種、そして名刺情報、もしくはテレマーケティングで接触できた人の役職、現在の経費システムに満足している様子であるかどうか、といったものから算出している。

 一方の興味レベルのスコアは、送信した電子メールの開封状況や、コンカーのサイトの閲覧状況、そしてコンカーから案内した展示会やセミナーなどへの参加状況などから算出しているという。

 ちなみに、先に触れた「MQL」とは、このスコアリングで、AからCの範囲に入るようになったことを意味する。潜在顧客がMQLの段階になると、その顧客情報がCRMシステムに渡り、営業担当者が活動を始める、という流れである。

 そして、シナリオの2つ目。営業をかけたが商談が成立しなかった層に対しては、例えばライバル企業のシステムを導入している場合は、「コンカーに乗り換えれば、利用金額を○%割り引く」といった内容のキャンペーンメールを送信したり、同内容のリターゲティング広告を出稿したりしているという。

 柿野氏によると、「他社システムを導入したが、これで良かったのかなどと考えるタイミングがある」と言い、上記のキャンペーンは、そうした心理を揺さぶることを狙っている。

 柿野氏は「今後は、商談期間が1年などと長引くケースを、MAを活用して期間短縮するために、3つ目のシナリオを検討している」と明かす。「MAは自分たちが困っているところを自動化することに意味があり、それは顧客にとってもメリットにつながる」と話し、今後もMAの活用を進めていく方針だ。

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