「データを蓄積する箱、データ分析やクラスタリングを行うデータマイニングエンジン、マーケティングのシナリオを作るキャンペーンマネジメントシステム、そしてそのシナリオを実行するツール。この4つが揃って、初めて当社の考えるDMPを活用したマーケティングプラットフォームの完成形と言える」
日産自動車マーケティング本部販売促進部の小暮亮祐氏は、DMP活用の将来像をこう描く。とはいえ、大規模なシステムを構築するのは、コスト面や既存システムとの連携などを鑑みても難しい。そこで、長期的な視点を持ちながら、データのマーケティング活用を徐々に推し進めることを目指している。
最初に取り組んだのが、DMP事業者の持つ外部サイトの利用データと、自社サイトの利用者データを組み合わせて作ったセグメントに対する広告配信だ。昨年11~12月にかけて実施した。これまで日産では、性・年代別やクルマの所有の有無などでターゲティングして広告を配信してきたが、十分な効果を出せなくなりつつあるという。
「製品の開発段階では顧客視点を持っているが、いざ完成すると、どう売るかに躍起になり、顧客視点に欠ける傾向があった。顧客の嗜好に合わせてコミュニケーションするためにも、顧客のことを知らなければならない」(小暮氏)。そこで、外部と自社のデータを活用して、消費者を分析。日産車への関心度や、どの車種に関心があるかでセグメントを作り、それに合ったクリエイティブの広告を配信する手法に取り組んだ。
具体的には、導入したDMP「AudienceOne」を提供するDACが保有する第三者データを活用し、消費者を8つのクラスターに分けた。デモグラフィックデータは推測になるが、家族持ちで、旅行サイトなどをよく閲覧するなど外出好きなら「ファミリーおでかけ」クラスター、スポーツ系サイトや野外活動に関心が高い「スポーツ・アウトドア」クラスターという具合だ。

次に同じく、外部サイトの利用データと自社サイトの利用データから、クルマや日産車への関心度合いを5分類した。左図の「アウトサイダー」と「クール」は日産サイトを訪問していない消費者だ。DACが保有する第三者データを活用して、全くクルマに関心のない人をアウトサイダー、クルマに関する情報サイトの閲覧経験がある人をクールと分類した。
「クールウォーム」「ホットウォーム」「ホット」は日産のサイトの訪問者であり、自社のアクセス解析データで分類した。例えば、「サイトで店舗検索をするような人はかなり日産車に関心が高い」と判断し、ホットと分類した。こうしたクラスターごとに、過去に販売店に来場経験を持つ顧客が日産のサイトで、どのようなページを閲覧しているかを分析。インテリア、スペックといった訴求するポイントを割り出した。
結果を基に、クラスターと日産車の関心度合いに合わせて、車種や訴求ポイントを盛り込んだキャッチコピーを掲載した広告クリエイティブを作成。DMPでセグメントを作り、DSPで配信した。比較のためにクラスターごとに最適化していない広告も配信している。販売店検索ページへの誘導率を、コンバージョンの指標とした。
その結果、CTRとCVR(コンバージョン率)を掛け合わせた数値は、最適化していない広告クリエイティブと比較して1.4倍高くなった。とくに、「自社サイトのデータを基にした広告配信では、大きな効果の改善が見られた」(小暮氏)。
今後は、クラスターごとに自社サイトで表示するコンテンツの最適化にも取り組む。少しずつ成功を重ねながら、理想型となるマーケティングプラットフォームを目指していく。
絞り込んだ顧客にのみ配信、広告コスト10分の1に
DMP活用の初期段階から、直接的な売り上げへの貢献を目指しているのが、ネットワーク機器開発のシスコシステムズだ。
「DMP活用により、広告の無駄打ちが減り、全体的な広告金額は10分の1にまで圧縮できそうだ」。マーケティング本部コマーシャルマーケティングの中東孝夫マーケティングマネージャーはこう自信をのぞかせる。
シスコのようなBtoB(企業間取引)企業の場合、ターゲティング広告を配信しようにも、顧客となり得る見込み客をどう絞り込んでターゲット設定すべきかで悩むマーケターは少なくないだろう。ITの専門媒体に出稿しても、自社製品を導入する購買力を持つ企業に勤めていて、決裁権を持つ人を厳密にターゲティングして広告を見せることは難しい。結果的に広告の無駄打ちが増える。シスコもそんな課題を抱えていた。
シスコの製品を導入する購買力があり、かつ決裁権者に絞って広告を配信する。この課題に対し、中東氏が考えた解決策が、自社の顧客データベースとDMPを連携させること。
まず、名刺情報やWebサイトのホワイトペーパーのダウンロードなどで取得した既存の顧客データベースの中から、資本金、従業員数、役職などで広告配信のターゲットとなる顧客リストを抽出。そのリストをマーケティングオートメーション(MA)ツールの「Unica」に取り込んで、メールを配信する。配信したメールに記載されたURLをクリックした顧客はメールアドレスとクッキーがひも付けられる。このクッキーを持った人が広告配信の対象となるサイトにアクセスした時に、DSPを通じて広告を配信する。

これだけ絞り込んだオーディエンスを買い付けにいくため、CPC(クリック単価)やインプレッション単価は上がる。しかし、「対象者にだけ配信できるようになり、無駄打ちが減ったことで、総額では大幅に減少した」(中東氏)。
売り上げ貢献でも成果が出ている。広告に反応した顧客リストを電話営業部隊に渡したところ、「これまでのターゲティング広告配信で制作したリストより、若干だが効率よく案件を獲得できた。ROI(投下資本利益率)で見ても、積極的に展開できるという手応えは得た」(中東氏)。
さらに、5月からはDMPを活用した広告運用の専任担当者もついた。今後は効果測定指標も、より売り上げに密接な項目を設定していく。シスコは、ほかにも様々なマーケティング施策を実施している。それらの施策でリスト化した見込み客に電話営業をかけ、結果的に獲得できた案件の金額を電話の本数で割ることで、電話1回当たりの収益が算出できる。同条件で施策を評価できる指標で効果を判断して、適正なマーケティング予算の配分を目指す。