「DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)の普及を目指して、1000社以上に無償提供、150社に有償提供したものの、約半数は十分に活用できているとは言いがたい状況だ」
こう明かすのは、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)取締役常務執行役員CMO(最高マーケティング責任者)の徳久昭彦氏だ。同社は博報堂を通じて、DMPを広告主企業に無償提供した。その代わりに、DACのDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)を活用した広告配信の利用を促し、広告配信手数料で稼ぐことを狙った。
だがDMPは、そこに蓄積したデータを何の目的で、どのように活用するのかをマーケターが描けなければ、無用の長物になりかねない。それを防ぐためにサポートすることは広告代理店やDMP事業者の役割だが、一気に手を広げたことで、冒頭のような事態を招いてしまった。
このように、広告主側、代理店側の双方でDMPを活用できる体制や人材が十分整っていないことが、DMPを使いこなせないことの要因の1つになっている。2年程前には参入が相次いだDMPの開発会社は収益化のめどが立たず、昨年から撤退や事業縮小が相次ぐなどDMP市場に異変が起こっている。

一方で、きちんと戦略を持って活用している企業は、成功体験を積み重ねて、活用の手法を深化させている。いずれの企業も広告配信は第一フェーズと捉え、その先にDMPをデータを活用したマーケティングプラットフォームの中枢へと据える未来を描いている。短期的な収益を求めては、DMPの本質を見誤ることになる。そうした中長期的な視点で活用する各社の事例から紹介しよう。
「女子力の高い男子」、反応分析で意外な発見
昨年9月にDMPを導入し、顧客のペルソナ構築、ターゲティング広告の配信、アンケートとの連携と矢継ぎ早に施策を展開しているのが、NECレノボ・ジャパングループだ。
「PC市場におけるNECの認知度は9割だが、若年層では低い。10~20年後には認知度が半分になるのではないかという危機感を持っている。DMPは特に若年層への認知を拡大するための、デジタルマーケティングのインフラ構築という長期的な投資と考えている」
NECレノボグループのマーケティング責任者であるレノボ・ジャパンマーケティング本部の松本達彦部長は、DMP活用に積極的な背景をこう説明する。
同グループが導入したのはIntimate Merger(東京都港区)のDMPだ。1週間で決断したという。急いだのは、今年1月にNECパーソナルコンピュータの製品をデスクトップPCやネットサービスも含めて「LaVie」ブランドに統一。持ち運び可能なデスクトップPCという新カテゴリー製品「Frista」などを発表する大イベントを予定していたからだ。サイト利用者のCookie(クッキー)を蓄積して、今年1月から活用を始めた。
DMP活用の1つのお手本のような取り組みとも言えるのが、3月に実施したFristaのコミュニケーションプラン策定だ。まず、Fristaのディスプレイ広告を、顧客獲得を狙う40代以下を対象に設定して配信。省スペースで使う場所を選ばないFristaの利用シーンを提案するために、リビングルーム、ダイニング、キッチン、ベッドルームでの利用シーンを描く4種類のランディングページ(LP)を用意し、広告からランダムに均等に誘導した。そして詳しい利用法を知りたいユーザーには、各利用シーンの動画ページへと誘導し、最後にFristaの製品ページへと誘導した。

分析の結果、LPから動画ページ、そして動画ページから製品ページへ、両方のクリック率(CTR)がともに高くなったのはベッドルームだった。通常であれば、これでベッドルームの利用を強く打ち出していこうとなるかもしれない。しかしDMPや「Google アナリティクス」で分析したことで、「とても意外な発見もあった」(松本氏)と言う。

それは、キッチンのLPから動画ページへと遷移した人では、同社が重視するターゲットである30代の比率が45%と最も高くなったことだ。さらに男性比率が4シーンの中で最も高く約75%を占めた。キッチンといえば女性という常識を覆す結果となった。
こうした結果などから、4つの利用シーン別に性・年代、職業、年収、ライフスタイルを描いたペルソナを作成した。キッチンに関心を示す層は「レシピを見ながら料理するなど、女子力の高い男子」と定義した。
さらにここで得られた利用シーン別に興味を示した人(ブラウザー)のクッキーを使って、ネット上で類似した行動をする人を集めたセグメントを作り(オーディエンス拡張)、4月にはDSPを通じてターゲティング広告を配信し、Fristaの認知度向上を目指した。LPでの動画視聴後にアンケートを表示し、この使い方をいいと思うか、製品ページを見たいか、それとも興味がないかなど4つの選択肢を表示して、それぞれのユーザーの興味度を測った。
アンケートでセグメント作成
ネット調査を基にしたDMPでのセグメント作成も実施した。オンラインアルバムアプリ「My History」では、マクロミルのネット調査でデジタルカメラの活用法や写真整理、印刷などの実情を尋ねて、ユーザーの悩みなどを把握。LPのコンテンツに反映させると同時に、アンケート回答者から利用するカメラや利用法別にセグメントを作成した。今後、DMPのオーディエンス拡張でセグメント別の広告配信数を拡大して、それぞれに響く広告とLPのクリエイティブを用意する。ちなみに、調査業界のルールに則り、アンケート回答者は広告配信の対象から除く。
さらに、アプリをダウンロードした利用者の利用状況を把握して、有償利用に至ったユーザーのペルソナを作成してDMPに反映。リターゲティング広告などの配信に活用していく方針だ。
松本氏は「DMPは実購買行動から実年齢ではなく、推定年代へアプローチできることが大きなメリット」と表現する。従来は、あることに興味関心を持つ比率が高いのが30代であれば、30代が多く読む雑誌に広告を出すのが定石だった。そうではなく、あることに興味関心を持つ人を推定してその人に広告を見せることができるのがDMPの利点だ。
NECレノボのケースでDMP活用が急速に進む要因は、グループのマーケティング責任者である松本氏が自ら導入を推進している点が大きいだろう。一つひとつの施策の成果は当然見ているが、中長期的なブランディングという視点に立っている。顧客の理解やコンテンツ制作など様々な活用を進めることで、投資対効果を確保している。
記事掲載当初、本文冒頭に記載したDACによるDMP提供社数に誤りがありました。お詫びして訂正します。 [2015/05/25 23:30]