「このクルマの存在を幅広い消費者に訴求する手段の1つとして『Amazon.co.jp』で購入できるようにするというアイデアが出てきた」。ビー・エム・ダブリュー(BMW)の田中誠司・広報部企業広報マネジャーはそう話す。

Amazon.co.jpの「i3」商品ページ

 田中氏が言うこのクルマとは、BMWが2014年4月から販売する電気自動車(EV)「i3」のこと。車両本体価格が499万円からという高級車だが、Amazon内に設けたi3の商品ページにある「カートに入れる」ボタンをクリックし、頭金となる99万円をクレジットカードで決済すれば、実際に購入できる。5年リースの選択も可能だ。今年4月、国内での発売1周年と同時にネット販売を開始した。

 新車のネット販売は、BMWはもちろん、アマゾンにとっても初めての試みとなる。中古車については昨年6月から、中古車販売会社が在庫しているクルマをAmazonに出品するマーケットプレイス方式で購入できるようになった。しかし新車については「米国本社を含めて他に例はない」。アマゾンジャパンハードライン事業本部カー&バイク用品事業部の大西勇一事業部長は話す。

クルマ好きでない人にも人気

 BMWが新車のネット販売を始めた狙いは大きく2つ。1つはクルマに興味関心がない消費者にもi3のユニークな商品特性を訴求し関心を喚起することだ。

 i3は、排気ガスを出さないEVであり、量産車で初めて車体の素材としてカーボンファイバー強化プラスチックを採用し、大幅な軽量化でエコ性能を高めている。カーボンファイバーを製造する米国工場は、操業用電力を100%水力発電で賄うなど製造方法までエコにこだわる。こうした同社の姿勢も話題となり、i3はエコやサスティナビリティー(持続可能性)に関心が深く、これまでにない新しさに価値を認めるアーリーアダプターに人気が高いという。

 実際、i3の購入者の7割は、初めてBMWブランドのクルマを購入した人たちが占める。そんな、必ずしもクルマ好きではない人たちにどうリーチし、i3を訴求するか。そうした問題意識からi3をAmazonで販売するというアイデアが出てきた。

 もう1つの狙いは、購買につながりやすいデジタルマーケティングとはどのようなものかを確かめ、知見を蓄積することである。

 2014年からネット動画の積極活用などデジタルマーケティングに力を注ぐ同社だが、その多くはブランディング目的。メーカーである同社はそもそも購買促進を目的とするマーケティング経験に乏しい。i3のネット販売で、どんな施策が消費者の心を動かし、購買につながりやすいかを見極めることは、同社にとって有益な経験となる。目先は同社が重視するアフターサービスやパーツ販売。将来的にはi3以外の車種のネット販売の可能性を見据えているからだ。

 現在はアマゾンのDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)「アマゾン・アドバタイジング・プラットフォーム(AAP)」を活用し、リマーケティングの知見蓄積を急いでいる。既に、ネットからの注文も入っている模様だ。