トヨタ自動車は7月1日付でグローバル市場向けのマーケティングを統括している戦略子会社をトヨタ本体に統合し、組織面の強化を図る。さらに、2015年度に国内市場に投じるデジタル関連予算を、2014年度に比べて2倍以上に増額する。ネット広告や動画広告といった施策に投じる予算を増やし、マーケティングのデジタル化を一気に加速する。

 広告予算の増額以外にも、トヨタ独自のDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を自社開発する。企業サイト「toyota.co.jp」などの来訪者の閲覧データ、属性データを仔細に分析。クルマへの興味関心を高めたり、購買へとつなげたりする施策の効果測定などを実施し、ターゲティングやコンテンツのレコメンデーションの精度を高めることなどを狙う。トヨタはこのDMPを2015年中にも一部稼働させたい意向で、開発作業を急ピッチで進めている。

他社より遅れているという焦り

レスポンシブWebデザインやレコメンデーションを実装し、リニューアルした「toyota.co.jp」。そのスマートフォン向け画面

 さる5月8日にトヨタは、営業利益が前期比で20%増となり、2兆7505億円と過去最高を更新した2015年3月期決算を発表した。このニュースに触れた人の多くは、「やはりトヨタは強い」という印象を受けたのではないか。実際、自動車販売の主戦場である北米市場などでトヨタ車の販売台数は拡大し、得意とする原価低減も効果を上げている。

 だがそんなトヨタが、デジタルマーケティングの推進を決意した背景には、マーケティングの現場で働く社員らが感じていた、ある弱さがあった。それは競合他社に比べてデジタルマーケティングの実践で、後れを取っているのではないかという焦燥だ。

 トヨタの技術力と販売力は、自他ともに認めるところ。そのトヨタが課題を感じていた領域がマーケティング、わけてもデジタル活用の遅れだった。だからこそトヨタは2015年、デジタルマーケティングにかつてないほどの力を注ごうとしている。

 トヨタがデジタルマーケティングを重視する姿勢を鮮明にしたのは、2014年夏のことだ。代表取締役副社長である前川眞基氏が主宰した、国内の営業関係の幹部らが集まる会議の場で、販売会社などを含めたオールトヨタで、マーケティングのさらなる強化と、デジタル活用を推進していくことが決まった。

 この方向で実施するのが、グローバル市場向けのマーケティングを主幹している子会社トヨタモーターセールス&マーケティング(TMSM)を、7月をもってトヨタ本社に統合するという組織改革だ。TMSMの社員は、先行して本社に設けたマーケティング部というグローバルマーケティングの統括部署に配属となる。

 クルマのモノづくりと、そのクルマをどう消費者に訴求して、興味関心を高め、購買へとつなげていくかというマーケティング。この改革で2つの業務間の壁を低くする。そしてデジタルマーケティングのような新しい知見や独特のスキルが必要な施策でも、迅速に企画・実行できる体制へと変えることを狙う。

 国内市場向けのマーケティング体制にも改革のメスが入る見通しだ。トヨタの国内市場向けのマーケティングは、TMSM子会社であるトヨタマーケティングジャパン(TMJ)が担当している。このTMJについても早ければ年内にも、組織の大掛かりな見直しが実施される可能性が高いという。

 既にその布石として5月1日、TMJでマーケティングとデジタル施策などを統括していたマーケティング戦略局のキーパーソンをトヨタの名古屋本社の国内業務部との兼務とした。併せて、TMJでマーケティング戦略を統括するマーケティング戦略局をなくし、本社の国内業務部に「BR企画グループ」を設けて、マーケティング戦略局の機能を移した。

 つまりマーケティング戦略や営業戦略の企画・立案はトヨタ本体が、その戦略から導かれる個別・具体的な施策はTMJが担うという役割分担が明確になった。

 なお新組織に冠した「BR」とはBusiness Reformの略。「新たなビジネスやプロジェクトを立ち上げた際などに、既存の組織の枠を越え、組織横断的に業務を遂行する組織に付けられる名称」(TMJ部付主幹で、国内業務部BR企画グループ兼務の佐枝巧氏)。この名称からも、この組織が国内マーケティングの司令塔になることを期待されていることが分かる。

3つの切り口でデジタルを実践

 ではトヨタは一連の改革でどのようなマーケティングと、デジタル施策を実践しようとしているのか。佐枝氏によるとポイントとなる施策は大きく3つに分けられる。(1)クルマの購入意欲が既にある消費者に対する施策、(2)すぐにクルマを買うという段階ではない潜在客に対する施策、(3)ビッグデータ分析を応用した新しい施策の3つである。

Instagramを活用したファッション写真投稿企画で、クルマに興味関心が薄い潜在客の掘り起こしを狙った

 第1については、2014年4月にtoyota.co.jpを刷新し、レスポンシブWebデザインの採用でスマートフォンに対応し、さらに来訪者の閲覧データに基づきコンテンツを出し分けるレコメンデーション機能を実装したことなどが該当する。

 第2については、2~3月に実施したInstagramを使った初のキャンペーン「ドライブファッション」セルフィー投稿コンテストなどがその実例となる。ドライブする際に着たいおしゃれなコーディネートなどを自撮りして投稿してもらう企画で、若い女性の興味関心をクルマに向けたいという意図がある。そして独自DMPの開発導入は第3に該当する施策となる。

 個別に見れば先進企業なら既に取り組み済みのものも多いが、トヨタにとっては、その規模の大きさゆえにチャレンジングなものとなる。弱さの克服へ。挑戦は始まったばかりだ。

この記事をいいね!する