EC(電子商取引)サイト事業者による、「ポップアップストア」(期間限定店舗)を活用したマーケティングが国内でも普及の兆しを見せている。主な狙いは、商品を確かめられないからと購買を躊躇するような消費者に、商品に触れる機会と場所を提供するためだ。

 Webサイト上で写真などをアップロードするだけで、1枚からオリジナルのTシャツを購入できるサービス「tmix」を展開する、spice life(東京都渋谷区)は3月に初のポップアップストアを出店したのを皮切りに4月25日~5月6日にかけて、東京・お台場の商業施設「デックス東京ビーチ」に出店。6月には写真撮影施設内への出店も計画している。

 ポップアップストアを相次いで出店する理由を吉川保男社長は2点挙げる。1つは顧客から、印刷するTシャツやプリントの質を直接、確かめたいという声が継続的に寄せられていたこと。もう1つが米国でショールーム型の店舗で成功している事例を目の当たりにしたことだという。

 ECと連携してその場で消費者に注文してもらうことで、「在庫や売り上げの管理などをしなくてよく、店員は接客に集中できる。覚えるスキルが少ないため、教育コストも抑えられる」(吉川氏)。

 また、リアル店舗で強味を発揮するのが、Tシャツのデザインをその場でスタッフがアドバイスしながら体験できる点。「サイトでは、自分で簡単にデザインできる仕組みを用意しているが、そもそもどんなデザインにすべきかが分からない人も多いため、そこが大きなハードルとなっていた」(吉川氏)。

 お台場店にはパソコンを5台用意し、スタッフが付き添ってデザインの過程を手伝った。その結果、デザインの体験をした人の6割がその場で購入に至る成果となった。

spice lifeの本社ショールーム

 3月からは、本社オフィスの一部を予約制のショールームとして、開放している。このショールームはネットから予約した人が訪れる。「ネットで集客して、店舗に送客するO2O(オンラインtoオフライン)であれば、路面店などにこだわらず出店できるため、家賃も抑えられる」(吉川氏)ことから、本格的にショールーム型店舗の出店を検討していく。

EC発オムニチャネル型店舗を標榜

 一方、ポップアップストアを経て、常設店の設置を既に決めている企業もある。アウトレット商品や飲食店のクーポンを中心に取り扱うECサイト「LUXA」を運営するルクサは、11月に東京都内の商業施設内に初の常設店舗を開設する。

 ルクサは元々、クーポンを時間限定で販売する、フラッシュマーケティング型のECサイト。現在は大手メーカーのアウトレット商品などの物販が中心だ。かつて、フラッシュマーケティング市場はグルーポンの上陸によって、一気に広がったものの、わずか数年で縮小した。

 ルクサはそうした市場の変化を捉えて、物販へと切り替えることで、事業を存続してきた。さらに、この先を見据える上で、「店舗は必須になるはずだ。パソコン、スマートフォンに加えて、リアルの接点も持つことが、ブランド作りでは重要だ」と村田聡社長は言う。

 その試金石として、昨年11月に東京・汐留の商業施設内「カレッタ汐留」に期間限定で初となるポップアップストアを開設した。女性がターゲットで商品展示だけではなく、化粧品を体験できるコーナーも設けた。

 評価ポイントは来店者数だが、「期待したほどの成果は上がらなかった」と村田氏は明かす。ただ、メーカーから広告として請け負った商品サンプリングは配布し終えるなど、一定の成果は得られた。来店者の反応も良く、「店舗があることで信頼感につながる様子が見てとれた」(村田氏)ことから、投資の意味も含めて、常設店の開設を決めた。

 常設店はこのポップアップストアを踏襲する。基本的には在庫も持つ物販の店舗だが、クーポンなど在庫のない商品も販売する。その場でスマートフォンなどからタイムセールで販売している飲食店のクーポンなどを購入して、その場で発券できるようにする。ECで販売している商品を店舗で受け取れるサービスも始める。「時計などの高級商材は配送業者に任せたくないという声もある」(村田氏)ためだ。こうして、ECと融合したオムニチャネル型の店舗を目指す。

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