冷凍食品メーカーのキンレイ(京都市伏見区)は、この春からネット直販を始めるなどデジタルマーケティングの強化に乗り出した。その背景には、商品の自主回収という会社の危機的状況を乗り切る上で、ソーシャルメディアがその一端を担ったことが経営層に評価されたことがある。
今年1月、キンレイのアルミ容器入りの冷凍調理麺の一部商品に、容器側面にわずかに損傷のある商品が混入している可能性があることが分かった。これにより、同社は商品80万個の自主回収を余儀なくされた。ある程度、対象となる生産ロットは絞れたものの、主要な販路であるコンビニエンスストアの大半の店舗から主力商品を一斉に回収した。また、周知徹底するために、新聞に社告を掲載して返品を呼びかけるなど、「この規模の自主回収は、倒産にもつながりかねない」(生産本部商品部商品企画チームの福田暢雄リーダー)状況に置かれていた。
しかし、それによってソーシャルメディア上に広がったのは、自主回収以上に「商品が買えなくて困っている」という消費者の意見だったという。早期に商品回収を終え、2月には代わりとなる商品が徐々に店頭に並び始めた。ところが、販売再開の社告を掲載するほどの予算は残されていない。「何とかして、販売再開を望んでいるファンに伝えたい」。そう考えた福田氏がとったのが、Facebook広告を出稿するという策だ。
Facebook利用者の声に経営層も関心
キンレイは昨年の秋からソーシャルメディア支援のアライドアーキテクツの協力を得て、Facebookページの運営を開始しており、約3万人のファンがついていた。そこで、Facebookページに自主回収の改めてのお詫びと販売再開のお知らせを投稿。それを広告として、ファンになっている約3万人とその友人を対象に2月12日から1週間、配信した。その結果、約3万人にリーチして、いいね!やシェアなどの行動を起こした割合を示すエンゲージメント率は11%となった。

社内で特に評価されたのが、消費者からのコメントだ。「半年間(ページを)運用してきたが、そもそもコメントが付くのが稀。39件のコメントは非常に多い」(福田氏)。しかも、コメントの大半を激励の声が占めた。これが経営層にとっても、大きな励みとなり、顧客と直接対話できるソーシャルメディアの重要性への理解が進むきっかけになったという。
4月には社内の経営方針として、「消費者と対話をしてそれをマーケティングにつなげていく」といった項目が盛り込まれた。当然、消費者と直接つながれるソーシャルメディアの活用も一層注力していくこととなる。「ソーシャルメディアにかける予算の配分は広告も含めてかなり増えた」(福田氏)。
ネット直販も試験的に始めた。4月から、冷凍ラーメン4種と冷凍鍋焼きうどん1種の計5種セット(通常価格2480円)を、お試し価格として980円で販売している。申し込みは1人1回のみ。「あくまでお試ししてもらって、気に入ってもらったら既存の販路であるコンビニエンスストアなどで買ってもらう」(福田氏)ことを目指しているためだ。初めての試みながら、販売開始から約1カ月で500セットが売れるなど、順調な滑りだしとなった。ネット通販の告知にもソーシャルメディアの広告を活用し始めている。今後、さらにデジタルマーケティングの強化を進めていく考えだ。