日経デジタルマーケティングは4月21日、22日、東京・港区の東京ミッドタウン・ホールで読者無料セミナー「デジタルマーケティングカンファレンス」を開催した。ここでは初日に登壇した全日本空輸(ANA)、そしてパルコの講演について報告する。

 「Web動画は、実は非常に見てもらえる。完全視聴率は想定以上だ」――。ANAマーケティング室マーケットコミュニケーション部部長の吉田亮一氏は、ANAが取り組んできたWeb動画企画の効果についてこう語る。同社は実験的な企画をWeb動画で展開したり、テレビCMとWeb動画を組み合わせたりするなどして、成果を上げてきた。

ANAマーケティング室マーケットコミュニケーション部部長の吉田亮一氏

 2014年10月には、割り引き航空券「旅割」のWeb動画を公開。著名人が出演する動画に加え、無名の俳優・女優を起用したサスペンス映画風の動画に挑戦した。その効果もあり、旅割の14年の売り上げは前年比112%を記録した。「Web動画はテレビCMではできないことにも挑戦できる。Webでテストマーケティングを行い、反応を確認しながら大きなプロモーションに育てていける」と吉田氏は手応えを語る。

 Web動画は、海外向けマーケティングにも活用している。12年から、日本の魅力を海外向けに動画で紹介する「IS JAPAN COOL?」シリーズを展開している。動画は15年3月末時点で累計250万回再生された。同企画の公式サイトからANA国内線チケット販売ページに誘導したところ、「かなりの流入」があったと吉田氏は言う。14年度、国内航空券の海外での売上高は前年比152%、約16億円に急伸した。

ウエアラブルカメラで「生のサービス」伝える

 14年末から15年春にかけて展開したウエアラブルカメラを活用した動画企画「YOUR ANA」も話題になった。ANAビジネスクラスの「生のサービス」を伝えるべく、実際のサービスの現場とWeb動画を組み合わせた企画だ。

 まず、ANAの格納庫に設置した航空機のビジネスクラスに、100人のエキストラを招待。通常のフライトと同様、機内食などのサービスをキャビンアテンダントが提供し、その様子をエキストラが装着したウエアラブルカメラで撮影してもらった。撮影した映像の一部はテレビCMとWeb動画で公開した。CM、Web出稿量ともに前回プロモーション比で半分だったにもかかわらず、公式サイトへの訪問者数は前回比で2倍以上だったという。

 さらに、国際線ビジネスクラスに搭乗し、その様子をウエアラブルカメラで撮影してくれるモニターを60人募集。なんと5万6000人もの応募があり、抽選倍率は1000倍近くになった。応募者の30%はANAマイレージクラブの非会員。「これまでANAと知り合えなかった方に非常に興味を持っていただいた」。当選者60人がウエアラブルカメラで撮影した映像は、Web動画、テレビCMに採用した。

 実際のサービスをウエアラブルカメラで撮影し、プロモーションにつなげる、という企画は、ANAのサービスの「現場」の魅力を知り尽くしているからこそ実現できた。「お客様とANAがどう価値観を共有できるか一生懸命考えた」(吉田氏)結果だ。プロモーションの潜在力は、企業の内部にこそあると吉田氏は指摘する。「広告代理店のコピーライターに考えてもらわなくても、知恵や素材は我々の中、社員の中に眠っている」。

 15年4月にはWebサイトをリニューアルした。モバイル版はレスポンシブデザインを採用し、アプリの機能も拡充した。さらに、デジタルマーケティングプラットフォームを新規に導入。人材面も強化している。今後の課題は、収益にはっきり見える形にすること。吉田氏は「コンテンツを上げるだけでは無駄や無理もでてくる。デジタルマーケティングの力を借り、うまく制御しながらやっていきたい」と語った。

 商業施設「PARCO」(パルコ)を運営するパルコは、オムニチャネル戦略を本格化し、売り上げアップにつなげている。戦略実現を担うのは、パルコに出店する3000のテナントとスタッフたちだ。「テナントに積極的に活用していただけるプラットフォームを作る」と、同社WEBマーケティング部部長の林直孝氏は狙いを語る。

パルコWEBマーケティング部部長の林直孝氏

 ここ数年で、ショップスタッフが更新するブログシステムの構築や、店舗の店頭在庫をネット販売できる「カエルパルコ」の公開、商品の提案から通販、来店時や買い物時のポイント付与までを実施できるスマートフォンアプリ「POCKET PARCO」リリースなどの施策を展開。オムニチャネル戦略を急ピッチで進めてきた。

 2013年に構築したブログシステムは、スタートトゥデイのファッションコーディネートアプリ「WEAR」と連携し、WEARに投稿した内容がブログにも転載される形にするなど、投稿しやすくした。現在、月間で1万2000もの記事が投稿されている。

 さらに、ブログ記事を直接購買につなげる施策を展開した。ブログで紹介している商品から各ブランドの公式EC(電子商取引)サイトにリンクし、ブログからショップECサイトの商品を直接購入できる仕組みを作った。そして、各ショップの店頭在庫をネット販売する「カエルパルコ」を14年5月にスタートした。

 カエルパルコは、ブログで紹介した商品を、実店舗の在庫から購入したり取り置き予約できたりするサービスである。売り上げは店頭に計上されるため、ショップスタッフのブログ更新モチベーションも上がる。地域や時間に縛られない販売も可能になる。カエルパルコ購入者の7~8割が、販売店舗のある都道府県の外からで、営業時間外の受注が3~4割程度に上るという。

ブログで紹介した商品がそのまま買える

 同社のオムニチャネル戦略の核は、14年10月に公開したスマートフォンアプリ「POCKET PARCO」だ。「あなただけのパルコが、ポケットに。」がコンセプトである。1人ひとりの顧客に最適な情報を、最適なタイミングで配信し、実店舗の売り上げアップにつなげることを目指している。

 メーンコンテンツはスタッフブログの記事だ。顧客が事前に登録した、よく利用するパルコ店舗の情報や、記事の閲覧履歴、お気に入り登録などから、その顧客に最適なブログ記事をカスタマイズして配信する。記事から「カエルパルコ」の商品の購入もできる。

 アプリを活用したり実店舗を訪れたりすると、「コイン」と呼ばれるポイントがもらえる。アプリで記事をクリップしたり、パルコ付近や館内でチェックインしたりするとコインを獲得でき、一定数たまるとパルコの商品券に交換できる。

 15年3月からは、実店舗での購買でコインを獲得できる仕組みを全店で導入した。普段使っているクレジットカードをPOCKET PARCOに登録しておくと、そのカードを使ってパルコで商品購入した場合にコインが付与される。

 この仕組みで客単価が目に見えて拡大した。3月の実績で、未登録のパルコカードと利用客と比べ、POCKET PARCO登録済みパルコカードの利用頻度は121%、1件当たりの単価は131%、顧客1人当たりの単価は159%だったという。

 アプリを通じ、顧客行動のトラッキングも可能になった。3月の実績で、商品への興味(記事クリップ)は12万件、うち45%が来店(チェックイン)し、うち67%が購入に至ったという。「この数字は非常に高い」と林氏は評価する。今後は、記事をクリップしたが来店しなかった人がなぜ来なかったのか、来店したが購入しなかった人はなぜ買わなかったかなどについて、ビッグデータ分析から仮説を導き出し、施策を実施していくことで、来店率・購買率を上げていきたいという。