「無印良品の『人をダメにするソファ』が快適すぎてヤバイらしい」

 2013年春に人気ブロガーの鳴海淳義氏が投稿したこの「NAVERまとめ」記事が広く拡散し、2002年に良品計画が発売した正式名称「体にフィットするソファ」がリバイバルヒットする現象があった。現在も忘れた頃に小規模の拡散が繰り返され、ヒット商品の座に返り咲いている。

 実はこのソファ、代表的な共創プロジェクト成功事例でもある。良品計画は、いち早く共創に取り組んでヒット商品を生み出し、今なお継続している国内唯一とも言える企業だ。消費者参加型の商品開発に取り組み始めたのは、「モノづくりコミュニティ」を開設した2000年。そこで無印ファンから寄せられた声や人気投票の結果を反映しながら半年以上かけて商品化し、「持ち運びできるあかり」「壁棚」といったコミュニティ発のヒット商品が誕生した。

MUJI.netメンバーへのアンケート結果やモニター調査の声から商品を刷新する「プロジェクト」の例

 2009年には、同社が考えるライフスタイルを発信する「コラム」や、欲しい商品、既存商品の改善希望などを募集する「IDEA PARK」、ファンの声を傾聴しながら商品ジャンル丸ごとの見直しを図る「プロジェクト」などから構成する「くらしの良品研究所」に刷新し、ファンの声を反映した商品づくりを進めている。

生活観察でブランド力を磨く

 IDEA PARKに寄せられるアイデアや改善要望は、週150件、年間8000件余り。毎週月曜日に研究所スタッフが全てに目を通し、実現可能性や無印らしさを考慮して各商品部に送るべき案件をピックアップする。この第一次審査をクリアした10%弱の要望には、「新着リクエスト」のタグを付ける。以降、各商品部で検討、開発と進むたびに「最終検討します」「開発はじめます」とタグを逐次表示して進捗状況を公開している。却下になったものは「見送ります」、類似商品がある場合はそれを紹介して「販売中」のタグを付ける徹底ぶりだ。同研究所課長の永澤芽ぶき氏は、「意見を投稿しても見てないのではないかと疑念を抱かれないよう、すべてに結果を返している。改善を含めると、研究所発の商品は2014年度下期で約70点、2015年度も約130点を予定している」と語る。

良品計画では、顧客からの有用なアイデアを商品化あるいは改良するサイクルを整えている

 もとより無印のコンセプトは、付加価値をつけて高く売ろうと競争に明け暮れる日本企業に対して、本質的価値を問い直してシンプルかつリーズナブルな商品を提供することにある。画期的な商品をゼロから開発するよりは、既存商品の見直しや新たな用途開発の探求が“無印らしさ”と言える。

 商品の見直しに当たっては消費者アンケートが欠かせないが、同社では400万人を超えるMUJI.netメンバーの一部にアンケートの依頼メールを送信すればすぐさま数百人単位の回答が集まる。商品モニターを募集して試作品を利用してもらい意見を求める取り組みも活発だ。無印での買い物経験者だけに、集まる声も納得性が高い。「外部の調査会社のモニターを活用する必要性がほとんどなくなっている」(永澤氏)。

 最近、同社が特に力を入れていることの一つに「生活観察」がある。同社スタッフが友人や関係者の自宅を訪れ、キッチン周りや収納での一挙手一投足を観察して改善ポイントを探るものだ。こうした観察が、用途外の活用法を見いだしたり、紹介の工夫で再販リクエストを集めて再販に至ったりと、リバイバルヒットをもたらすケースが出てきたという。オンライン・オフライン問わず継続して無印ファンの声を傾聴し、生活をウオッチする姿勢が、同社の強いブランド力の源泉になっている。

 共創プロジェクトに最近取り組み始めたキリン、森永乳業、毎年コンスタントに共創商品を世に出すカルビー、そして老舗の無印の取り組みを見てきた。では共創プロジェクトを成功に導く条件は何か?

「共創」を成功に導く3つの条件

(1)商品をこよなく愛するコアなファンを呼び込んで組織化すること

 Facebookページに数十万単位のファンを抱えている企業が多い一方で、無料投稿が届くリーチ率は低下している。マンネリ化したやりとりを続けてもファンとのエンゲージメントは漸減の一途だ。一声かければコアなファンが参画してくれる利点を生かして、共創に取り組むべきときが来ている。

(2)運営側が議論を適切にリードしてコミュニティを活性化し、意見、感想を言いやすい環境をつくること

 アイデア募集を丸投げしていては声が拡散して収集がつかなくなり、パッケージデザインを選ばせるだけの“なんちゃって共創”ならばファンはしらける。管理者のファシリテーション能力が問われている。

(3)共創商品単品で採算を見るのではなく、調査パネルや良質なクチコミ発信源としての価値を見いだす

 共創商品がヒットに至らなくても、自社ブランドのコアなファンが意見・要望を都度寄せてくれる環境は貴重だ。調査パネルとして、またPR大使として感謝して活用する。

 この条件を踏まえて取り組む企業が増えれば、共創企画は一過性のブームに終わらず、欠かせないマーケティングプラットフォームとして定着するはずだ。