「じゃがりこのモッツァレラチーズが激うま」――。3月中旬からカルビーが期間限定で発売しているスナック菓子「じゃがりこ」の新メニュー「モッツァレラチーズトマト味」を巡ってこんなツイートが飛び交っている。この新商品パッケージに印字されているのが、「じゃがりこファン人気No.1」というフレーズ。いわゆる消費者参加型の商品開発で、じゃがりこファンの意見を集約して完成した商品なのだ。

 昨今、この手の消費者参加型の取り組みがよく聞かれるようになった。本誌2015年2月号でも伊藤ハムの「ハム係長の商品開発室」を紹介したばかりだ(関連記事)。マーケティング界ではちょっとした共創ブームが起きている。

 こうしたオンラインを介した消費者参加型の企画は次ページの年表のように1990年代から多くの取り組み実績があるが、単発、一過性の企画で終わっているものも多い。消費者参加型に取り組む動機が「流通ウケがいい」だったり、また参加型開発といっても投票に参加させるだけだったりする“なんちゃって開発”だったことが原因として考えられる。

 では今回の共創トレンドは果たして本格的に飛躍するのか、それとも一時的な現象で終息してしまうのか。その判断をする前に、まずは頓挫する企画が多い中で長らく継続しているプロジェクトはどこが違うのかを把握しておきたい。

アイデア募り人気投票で商品化

 じゃがりこの参加型開発商品は今回で7作目=7年目を迎える。舞台は、同社が運営するじゃがりこファンサイト「それいけ!じゃがり校」。その名の通り学校をイメージしたコミュニティで、年末から翌春にかけて入学希望者を募り、“じゃがりこ愛”を綴るミニ作文を入試課題にして生徒を選考している。入試の告知はじゃがりこのパッケージに載せているため、コアなファンに響きやすい。

2007年春に開校したカルビー「じゃがりこ」のファンサイト「それいけ!じゃがり校」。今春、第9期生が入学した

 毎年3000人弱が入学し、在籍期間は3年間。入試というハードルを設定しながら1万人弱の生徒が集う、一菓子ブランドとしては大きなコミュニティだ。

 校内の企画は、毎月お題を出してじゃがりこ川柳を募集する「国語」、生徒が自身の一日一善を投稿して褒め合う「道徳」、先生役のカルビー側担当者のブログが読める「朝礼」、様々な話題について語り合える「ホームルーム」など学校らしい教科や行事で構成。来訪・投稿にポイントを付与して「購買部」で限定アイテムなどと交換できるようにすることで、アクセスする動機付けと活性化を図っている。

 開校は2007年春。1995年秋の発売から10年が過ぎて成熟期に入ったことをきっかけに戦略の見直しに取りかかった際、定番商品の組み替えや季節限定商品の導入など商品ラインアップの見直しと並んで、ロイヤルユーザーの育成が課題に挙がった。その対策としてじゃがり校の開設に至った。以来、2015年春で第9期生を迎え入れている。

 開始当初はファンが集ってじゃがりこをネタに世間話をするサイトだったが、やがて「こんなじゃがりこを食べたい」というアイデア投稿が盛り上がり、翌2008年からファン参加型の商品開発企画がスタート。2009年2月に第1弾の「カルボナーラ味」を発売し、以降「フライドチキン味」「チーズカレー味」などを期間限定で世に送り出した。

「それいけ!じゃがり校」新商品開発

 商品開発の流れはザッと次の通り。まず新入生が加わった4月に、食べてみたい新しい味のアイデアを募り、1000を超える応募案の中から学校側で商品化の現実味を勘案して40~50案をノミネート。これを生徒の人気投票でトップ10案に絞り込み、決選投票で商品化する味を決める。

 アンケート調査のほか、試作品を希望者500人ほどに発送して感想や改善点を投稿してもらい、改良を重ねる。同時にパッケージ案やキャッチフレーズ、販促物についてもそれぞれ募集し、意見を聞きながら投票で決めていく。

 こうした手順を経て発売に至る共創商品は、期間限定ながらレギュラー商品のお株を奪う好調な売れ行きをみせることも。同社マーケティング本部素材スナック部じゃがりこ課課長の松井淳氏は、「2014年春に発売した『アスパラベーコン』は、レギュラー商品の1.3~1.5倍ペースの売れ行きだった」と振り返る。

調査パネルとして価値あり

 面白い取り組みだが、「運営コストがかさむことから一時は閉鎖が検討されたこともあった」(松井氏)という。それでも継続しているのは、じゃがり校に集う1万人弱のじゃがりこファンが、調査パネルとして価値ある存在になっているためだ。

 例えば同社じゃがりこ開発陣が定期的に発売する期間限定商品は、生徒は開発には関与していないものの、全国発売に踏み切る前に生徒の意見を聞いて微調整をしている。今年2月にコンビニ限定で先行発売した「明太チーズもんじゃ」は、購入した生徒の8割が「おいしい」と回答し好評だったが、「明太子の風味をアップした方がいい」「ちょっと味が濃い」といった意見も寄せられた。そうした声も踏まえ、若干の調整をしてから全国発売に踏み切っている。

 松井氏は「ある程度の規模の調査だと100万円単位のリサーチコストがかかる。じゃがりこ愛好者向けのアンケートは調査会社に依頼する必要がなく、じゃがり校で質の高い回答を得ることができる」(松井氏)。そして生徒たちは、新商品が出れば改めて依頼するまでもなく、すぐに購入してTwitterなどで冒頭のように宣伝役を買って出てくれる。

 非売品のノベルティグッズの制作やその発送なども含めてコミュニティを盛況に運営するにはコストがかかる。それでも以前テレビCMを打っていたときと比べればお釣りが来る水準だという。生徒が戦力になるという、CMでは得がたい効果に価値を見いだしたことで、ロングセラーのじゃがりこらしく、じゃがり校も永続する伝統校になりそうだ。

主な「共創」プロジェクト

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