三越伊勢丹ホールディングスが、メディア事業を通じて取り組んだデジタルマーケティング人材の育成が成果として表れ始めた。同社は、ネットメディア事業のイードと共同出資で設立したファッションヘッドライン(東京都新宿区)を通じて、月間80万人が訪れるファッション情報サイト「FASHION HEADLINE」を運営してきた。ファッション特化型サイトとしてメディアの価値を高めて、単価の高いタイアップ広告や純広告を獲得。「2年で単月の黒字化を目指してきたが、昨年に達成」(田沼和俊氏、取材時社長)しており、事業として軌道に乗りつつある。

「FASHION HEADLINE」は、2014年に単月で黒字化

 さらに、同サイト運営で培ったノウハウを基に、三越伊勢丹はコンテンツマーケティングにも取り組み始めている。3月に食にまつわる情報を発信するサイト「WEB FOODIE」を開設。このサイトは三越伊勢丹で取り扱う商品にとどまらず、食に関係するライフスタイルを記事で提案することで、潜在顧客との接点を作り、来店や購入に繋げることが目的だ。このWEB FOODIEには、FASHION HEADLINEの運営を経験した社員が携わっている。

三越伊勢丹の冠を外したワケ

 実はファッションヘッドライン設立の狙いそのものが、「ネットメディアやデジタルマーケティングの技術を研究すること」だったと田沼氏は言う。消費者にスマートフォンの利用が広がるなど、接するメディアが変化する中、企業にとってマーケティングの“場”も手法も目まぐるしく変化している。「広告代理店やデジタルマーケティングの専門会社任せでは、知識が得られず、施策の評価ができなくなってしまう」(田沼氏)といった危機感を抱いていた。

 ただ、三越伊勢丹ブランドを冠したメディア事業では、そうした知識を十分に身に付けられないと判断した。その理由を田沼氏はこう説明する。「様々な広告サービスや仕組みを研究すべきと考えていたが、三越伊勢丹ブランドの下ではブランドイメージの観点から、『Google AdSense』ですら導入が難しい」。

 そこで、新会社を設立して、ネットメディアやデジタルマーケティングにまつわる技術を研究しつつ人材を育て、一方できちんと収益を上げる新規事業という位置付けでメディア事業への参入を検討し始めた。ただ、三越伊勢丹はネットメディアに関する知識が乏しい。そこで、ニュースサイト「RBB TODAY」などのメディアを運営しているイードと組んだ。運用方針は、あくまで中立。三越伊勢丹も取材先、広告主の1つとして見る。そのため、「例えば、競合する百貨店や商業施設の記事も掲載する」(田沼氏)。こうして、様々なコンテンツの制作から集客に取り組んで知見をためてきた。

 FASHION HEADLINEが黒字化という節目を迎え、そこで育った人材が、本業のデジタルマーケティングに取り組み始めた。その真価が今後問われる。

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