サザンオールスターズや福山雅治などが所属する芸能プロダクション大手のアミューズが、アーティストグッズなどを販売するサイト「A!SMART(アスマート)」、音楽配信サイト「A!MUSIC(エーミュージック)」、チケット販売などの「アミュモバ」という3つの自社EC(電子商取引)サイトそれぞれで発行していた会員IDを、今年3月から「A!-ID(エーアイディー)」という共通IDに統合した。

ECサイト「A!SMART」のトップ画面

 共通IDにすることで、各サイトで商品や楽曲、チケットなどを購入する顧客の動向を、サイトをまたいで詳細に把握し、販促・セールスや新しいイベントの企画立案などに生かす。データが蓄積された将来には、サイト側から会員に向けて、「アーティストAが好きなら、別のアーティストBのこの商品に興味はありませんか」という具合にレコメンドするシステムも導入。約40万人のA!-ID会員を増やしながら、各サイトのコンバージョン率をまずは現在の2倍にすることを目指す。

 Amazon.co.jpやレコチョクなど、他に有力なECサイトや音楽配信サイトが多数あるにもかかわらず、芸能プロダクション自らがECサイトや音楽配信サイトを運営しているのは、「所属するアーティストの意向を最大限に反映するため」(大野貴広・デジタルビジネス事業部長兼デジタルディストリビューション室長)だ。

 アミューズには、ミュージシャンや俳優、タレント、スポーツ選手など多様なアーティストが約290人・組も所属しており、それぞれの要望は必ずしも一致しない。例えばアーティストによっては、物販を積極的に展開したくなかったり、スマートフォン向けではなく携帯電話(ガラケー)向けに多くの情報を発信する必要があったりする。そこで所属するそれぞれのアーティストの要望を聞きながら、芸能プロダクションが、ECサイトなどを運営するほうが「アーティストの満足もファンの満足も上がる」(大野氏)と考えているのだ。

 今回、ID統合と同時に各サイトが持つ機能を分割して、その機能をAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を使って外部のサイトから利用できるようにした。例えば、所属アーティストのオフィシャルファンサイトがあり、その右上部にスペースがあったとしよう。この部分に、当該アーティストのA!SMARTの物販コーナーやアミュモバのチケット販売コーナーなどを、APIを使って簡単に置くことができるわけだ。

 「三浦春馬のオフィシャルファンサイトを訪れた会員が、サイト右上にあるアミュモバのチケット販売コーナーから観劇チケットをその場で買う」(大野氏)といったことが可能になる。今後はアーティストの要望を聞きながら、蓄積されたデータを生かし、3つのサイトの機能を、オフィシャルファンサイトなどとどのように組み合わせるのがコンバージョン率の向上につながるか、検証していく。

業界横断のインフラ目指す

 また、A!-IDと同時に、ポイントサービス「A!-POINT(エーポイント)」も導入した。現在は、A!-ID会員がA!SMARTで商品を購入した場合、商品代金(税込)の1%がポイントとなり、「1ポイント=1円」として次回以降のA!SMARTでの購入に利用できる。有効期限はポイント獲得月の1年後の月末になる。当面はA!-ID会員独自のポイントとして普及を図るが、将来は他の共通ポイントサービスとの相互乗り入れも検討する考えだ。

 アミューズでは最終的に、これらの統合IDやポイント、各サイトの機能を、同社だけでなく多くの芸能プロダクションにも利用してもらい、「アーティストにまつわるすべての商材を顧客に届けることができるインフラ」(大野氏)として、業界横断的に整えていくことを考えている。

 そのため、手数料率は他のECサイトなどより引き下げ、利用しやすくする予定。また、アミューズが提供する機能の全部を利用せず、一部を利用したいという要望があれば、それにも応える予定だ。既にランティス(東京都渋谷区)というレコード会社が、アニメフェスティバルなどで扱うグッズをA!SMARTで販売し始めている。

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