全日本空輸(ANA)が、ウエアラブルカメラで撮影した動画を使う「国際線ビジネスクラス」の動画広告プロモーションを昨年11月末から今年4月にかけて展開。テレビやネット動画広告を見た消費者のビジネスクラス利用意向やANAへの好感度を引き上げ、サイト訪問者が20倍になった。
ANAが展開した動画広告プロモーションは3つのステップからなる。
第1ステップとして、国際線ビジネスクラスのサービスを、格納庫内に駐機した実機を使ってエキストラ100人に体験してもらい、エキストラが装着するウエアラブルカメラでその模様を撮影し、テレビCMやネット動画広告で展開した。昨年11月29日から12月にかけて、テレビCMやネット動画に加え、メールマガジンやLINE、Facebook、Twitterといった自社メディアやソーシャルメディア、交通広告までも使って、国際線ビジネスクラスの疑似体験動画を、幅広い層に訴求したのだ。
次いで第2ステップとして、今年1月10日から29日までの約3週間に、実際に国際線ビジネスクラスを体験し、その模様をウエアラブルカメラで撮影するモニターの募集を、テレビCMやネット動画広告、自社メディアなどで告知。そして第3ステップとして、第2ステップで募った体験&撮影モニターが実際に撮影した動画を、3月末からテレビCMやネット動画広告として展開した。

ウエアラブルカメラで撮った動画を全面的に活用した理由を、ANAマーケティング室マーケットコミュニケーション部宣伝チームの深堀昂氏はこう語る。「昨年、消費者を対象にリサーチしたところ、『ANAの良さは乗ってみないと分からない』という声が多かった。その一方、客室担当者や食事担当者など現場スタッフのサービスの質へのこだわりも尋常でないと分かった。ならば、国際線ビジネスクラスのありのままを伝えるのが最も消費者を引き付けるのではと考え、ウエアラブルカメラの利用を思いついた」。
コストは抑え、効果は高く
結果は深堀氏の予想を上回った。CM DATABANKなどCM関連の調査を手がける東京企画(東京都港区)の調べによれば、「過去5年間のANAの広告プロモーションの中で好感度第1位を獲得した」(深堀氏)と言う。
第1ステップを前回の国際線ビジネスクラスのプロモーションと比較した場合、「開始後2週間のテレビCMとネット動画広告の出稿量は(前回の)半分以下なのに、自社サイトの訪問者数は2倍以上になった」(深堀氏)。また、モニターへの応募を呼び掛けた第2ステップを第1ステップと比べた場合、ネット動画広告はそのままにテレビCMの出稿量をさらに絞り込んだにもかかわらず、自社サイトの訪問者数は「20倍以上へと急増した」(深堀氏)。モニターへの応募者数も、定員60人に対して1000倍近い5万6391人に到達。しかもANAを利用したことのない人が30%、1年以内に国際線を利用したことのある人が75%と、「狙い通りの構成になった」(深堀氏)。著名なタレントを使った従来のプロモーションに比べても、費用を抑えながら高い効果を得られたという。
またANAは、今回のプロモーションで、テレビCMやネット動画といった手法が消費者にどのような効果をもたらすかも調べた。ある調査会社と組んで、第1ステップから第3ステップまでを通して、18~69歳の約1700人を対象にしたシングルソースパネル調査を実施した。
その結果、テレビCMを見た人と見ない人、ネット動画広告を見た人と見ない人を比べた場合、「動画を見た消費者のほうが国際線ビジネスクラスの利用動向が飛躍的に上がること、また消費者へのリーチは、20代を除き、WebよりもテレビCMのほうが圧倒的に高いことが、明確に分かった」(深堀氏)と言う。
同時に、今回のプロモーションを通じて、「広告の出稿量を単に増やすよりも、消費者自身に『自分も参加できる』と思ってもらう作りにすることが、消費者の興味を引き付ける」(深堀氏)と確信。今後の国際線ビジネスクラスの広告プロモーションも、今回と同じく、消費者が自分に引きつけて考えられる内容で推進していく考えだ。