東京・大手町の複合ビルに入居した「アマン東京」や、虎ノ門ヒルズ上階の「アンダーズ東京」といった外資系高級ホテルの進出が相次いでいること。このところの株高で高収入層の余裕資金が拡大していること。高級ホテル予約サイト「一休.com」を運営する一休にとっては、このいずれもが業績向上につながる追い風となる。

リアルタイムレコメンド機能を導入した「一休.com」

 この好機を生かそうと、一休は2014年4月に「一休プレミアサービス」というCRM(顧客関係管理)施策を導入し、1年間運用してきた。その結果、2015年3月期の「1室当たり平均単価」が前期比で2.9%アップする見込みになるなど、単価の高い商品を購入する会員の割合が、思惑通りに増えている。そこで同社は2月、トップページに設けている「おすすめホテル・旅館」というレコメンド枠の表示を、会員がホテルを検索した結果などに応じて、即時に変える「リアルタイムレコメンド」に変更。サイト訪問者のCVR(コンバージョン率)をより高めることを狙った、新たな試みを始めた。

優良顧客の心をくすぐる施策

 一休プレミアサービスは、4月~9月、10月~翌年3月という6カ月ごとの利用金額に応じて、会員を「レギュラー」「ゴールド」「プラチナ」「ダイヤモンド」という4つのランクに分類。それぞれのランクによって異なる優遇策を提供するものだ。

 半年間の利用金額が5万円未満のレギュラー会員の場合、宿泊代金をサイトで事前決済した際のポイント付与率は2%。これが10万円から30万円未満のプラチナ以上になると付与率は3%にアップする。そして30万円以上のダイヤモンド会員には、客室のアップグレードやレイトチェックアウトといったサービスが無料で受けられたり、海外の5つ星レストランのシェフが来日して提供するディナーが楽しめたり、といった特別な企画商品が購入できる専用ページを用意している。

 驚くような施策とは言えないものの、何かと特別扱いされたい高収入層の会員、それに準じるホテル好き会員などの気持ちは十分にくすぐった。リピート購入を促し、上位ランクへ移行する会員が増加したことで、2015年3月期の売上高は前期比10.7%増の61億円と、過去最高を更新する見込みである。

 2月から始めたリアルタイムレコメンドは、サイト訪問者のCVRをさらに高めることを狙ったもの。具体的な仕掛けは次のようなものである。

 まず会員がトップページの上部にある検索窓から、例えば「リッツカールトン京都」と入力して検索結果を表示。そこに並ぶプランの詳細ページを見た後にトップページへ戻ると、「おすすめホテル・旅館」に表示される20のホテルがすべて京都のものに変わる。

 「リッツカールトン」などと地名を入れずに検索した場合でも表示は変わる。検索した後に「ザ・リッツ・カールトン京都」を見た場合は京都のホテルが、「ザ・リッツ・カールトン東京」を見た場合は東京のホテルが表示される。情報を閲覧したホテルと同じ地域のホテルを、おすすめホテル・旅館欄に表示する。

 この仕組みを導入する前は、ホテルの過去の購入データなどに基づくレコメンドで、サイトでの検索や閲覧の結果は加味していなかった。

 こうした仕組みが有効だと考えたのは、同社の場合、ダイヤモンド会員などランクが高い会員ほど、目的のホテルの希望するタイプの部屋が希望日に満室だったりすると、別のホテルを探さずに、離脱してしまう人が少なくないためだ。

 そうした、ホテルを指名買いするような会員に「何とか第2、第3の購入候補となるホテルを訴求して、購入につなげられないか」(宿泊事業本部の渡辺舞営業部長)という仮説に基づいて導入したのが、リアルタイムレコメンドである。

 実は現時点では、おすすめホテル・旅館を表示するスペースがトップページにしかなく、詳細ページからトップページに戻らないとレコメンドを見てもらえない。表示する20のホテルを選ぶロジックが、情報を閲覧したホテルと同じ地域における「過去1日の予約数トップ20」などとシンプルなため、先の例で言えば、リッツカールトンとは価格帯が異なるホテルなども表示されてしまう課題がある。それでも「以前のレコメンドと比較すると、CVRはかなり高まっている」と渡辺氏は話す。

 今後はトップページだけでなく、ホテルの詳細ページなどにもおすすめホテル・旅館を表示するスペースを設けたり、表示するホテルを選ぶロジックを、購買や地域以外の閲覧データなどを加味したものに変更するなどして、レコメンド機能をさらに強化。CVRの一層の向上につなげていきたい考えだ。

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