兵庫県神戸市がビッグデータの活用に精力的に取り組んでいる。DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を活用した観光客向けサイト「Feel KOBE」のアクセスログや、5万人を対象としたアンケート調査による観光客の傾向分析を実施。その分析結果を基に、1月にはDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)を活用した広告配信に取り組んだ。取り組みで得た知見は、報告会などを通じて地元の旅行会社や宿泊施設に伝えて、旅行商品やサービスの開発に活用してもらう。こうして、官民一体となって観光客の増加を目指す。

 神戸市がデータを活用したマーケティング施策に乗り出したのは、観光客全体に占める宿泊客の比率の低下という課題を抱えているからだ。観光客の総数で見れば、「2015年度に年間で3500万人という目標を、2013年度に前倒しで達成した」(神戸市産業振興局観光コンベンション部観光コンベンション課の藤田修司インバウンド・観光プロモーション担当係長)と好調な一方、宿泊客が占める比率は、ピーク時と比較して5ポイント減の18%となっている。宿泊客が滞在中に使う金額は3万4000円で、日帰り客の4倍以上だ。「宿泊客を増やすことが、市としての基礎体力の増強につながる」(藤田氏)。

観光客向けサイト「Feel KOBE」にDMPを導入した

 神戸市にとって宿泊客を獲得する上で、攻めるべき最も有力な市場が関東圏だ。人口が多く、物理的な距離も離れているため、関東圏から集客できれば、宿泊客の増加が期待できる。では、関東圏の消費者に対して、どのように訴求すべきか。この仮説を立てる上で、これまでは十分なデータを得られているとはいえなかった。

 これまでも神戸市は観光客に対して、アンケート調査を実施してきたが、そこで分かるのは、あくまで既存客の意見にとどまる。また、広告配信の参考になるような、どのサイトを見ているのかといったデータも持たなかった。とくに知りたかったのが「神戸旅行を検討したが、断念した、あるいは検討候補に入らなかった人が神戸市にどのような印象を抱いているのか」(藤田氏)。それを知ることで、潜在的な見込み客を攻略する糸口をつかめると考えた。

神戸旅行はリピート意欲が高い結果

 データ分析では5万人へのアンケート調査やソーシャルメディア上のクチコミ分析、DMPを活用したFeel KOBEの訪問者の分析、位置情報ゲームを提供するコロプラとKDDIが持つ移動情報データの分析などを実施した。「旅行の検討段階から、実際の行動、そして旅行後のクチコミまで一貫して分析する」(藤田氏)ことを目指した。

 アンケート調査は関東圏の在住者2万人、その他の地域の在住者3万人に実施した。神戸市への旅行経験の有無や、神戸市に抱くイメージ、旅行で行きたい場所など約30項目について聞いた。その調査から、関西圏在住者が神戸市に、洗練されている、お洒落といった印象を抱いているのに対して、関東圏在住者は特別な印象を抱いていないなど、都市イメージの希薄化が浮き彫りになった。これにより、神戸市のブランドの再訴求が急務であることが明らかになった。

 一方で、神戸旅行の経験者はリピート意欲が非常に高いという優位点も見つかった。旅行経験がない場合、神戸への旅行意欲は36.8%にとどまるが、1年以内の旅行経験者は83.8%まで高まる。「一般的に、景勝地観光は訪れるごとに感動が薄れるが、神戸は旅行の回数によってお洒落やかっこいいから、親しみやすい、落ち着くといったイメージへと変化していくことが分かった」(藤田氏)。

 一度来てもらえればかなりの確率でリピートにつながるため、まずは神戸市に関心を持ってもらうことが最重要課題となった。そこで、調査データと、DMPで取得したFeel KOBEの来訪者のデータとを組み合わせて、関東圏からアクセスしている人が、どのような嗜好を抱いているのかを分析した。

 具体的には、DMPで分析した性年代別のFeel KOBEサイト内で閲覧したページ情報や、DMP事業者の持つ第三者データから割り出したほかのサイトの利用履歴に加えて、アンケート調査のデータ、コロプラとKDDIの移動情報データからどのような観光地を訪れているかといったデータを重ね合わせることで、趣味嗜好を分析した。

 様々な切り口で分析したものの「逆転ホームラン的な新しい切り口は見つからず、結果的には、年代と性別による分析が最も特徴的となった」(藤田氏)。期待したような意外な発見はなかったものの、「20~29歳」「30~49歳」「50~69歳」のそれぞれ男女、合計6分類で訴求すべきポイントが大きく異なることが分かったことは、成果としては十分だった。

 例えば、関東の20~29歳の男性であれば、目的地のブランドを重視する傾向があった。仮に神戸市の温泉「有馬温泉」を訴求するのであれば「日本三古湯の1つ」といったイメージを重視する。一方、50~69歳のシニア層の場合は、リウマチ疾患に適応するといった具体的な効能を謳う方が響く可能性が高いと考えられた。

18の広告クリエイティブを作り配信

 こうした分析結果を基に、年代と性別による6分類ごとに訴求するポイントを3つ選んだ。これで、合計18項目ができたことになる。ここまではあくまで分析のフェーズだ。次のフェーズでは、訴求するポイントが正しいかどうかを判断するために、実際にネット広告を配信して効果測定をした。

 具体的には、18種類のディスプレイ広告のクリエイティブを作り、DMPでセグメントを作って、DSPで配信した。配信期間は2週間ずつ、2回に分けて約2660万インプレッションを配信した。データ分析の結果から、Feel KOBEの訪問者は宿泊意欲が高まるという結果も出ていたため、広告の誘導先にはFeel KOBEを設定した。効果測定は単なるCTR(クリック率)だけではなく、サイトの滞在時間なども掛けあわせてスコア化して算出した。

20~29歳の女性に配信したグルメを訴求した広告

 その結果から、50~69歳の男性に配信した夫婦で楽しむ神戸を訴求した広告、20~29歳の女性に配信したグルメを訴求した広告、30~49歳の女性に配信した家族で楽しむ神戸を訴求した広告などの6つが、特に効果が高いことが分かった。

 そして上記のセグメントに、さらに深く神戸の魅力を伝えるために、神戸を夫婦で楽しむといった訴求ポイントを押さえた動画広告の配信にも取り組んだ。藤田氏は動画広告の配信に取り組んだ狙いをこう語る。「景勝地観光であれば、その観光地の写真1枚で魅力が伝えられる。一方、神戸は訪れることで魅力が伝わる旅行地だ。そのため、1枚の画像ではなく、情報量の多い動画の方が旅行意欲を掻き立てられると考えた」。制作した6つの動画は2月末~3月にかけて、「YouTube」「Facebook」「Yahoo!JAPAN」などに配信した。現在は、効果分析を進めている真っ最中だ。

 こうして分析したデータは民間企業にも提供する。神戸市は3月24日に、旅行会社や宿泊施設の関係者などを集めたデータ分析の報告会を実施した。「データから見込み顧客層を分析できても、訴求ポイントに見合った商品がなければ、顧客獲得にはつながらない。民間企業も巻き込んで、商品作りに生かしてもらう必要がある」(藤田氏)。

 仮説として設定した年齢や性別ごとの訴求ポイントと、実際の広告効果を伝えることで、民間企業が広告を出稿する際のクリエイティブ作りにも生かしてもらえる可能性がある。今後もこうした取り組みをさらに進めて、神戸市によるデータ分析と、民間企業による商品作りやマーケティング施策の両輪で、宿泊客の増加を目指す。