高島屋がバレンタイン施策で配布した商品カタログ。ECサイトへの送客ツールとして活用

 高島屋のEC(電子商取引)サイト「高島屋オンラインストア」などを統括するクロスメディア事業部は、あるキャンペーンの成功に沸いている。今年のバレンタインデー商戦で実施した「Amour du Chocolat!(アムール・ドュ・ショコラ)」というキャンペーン施策が事前の想定を大きく超える結果につながったのだ。高島屋オンラインストアでのキャンペーンによる売り上げは前年の同期間と比べて20%増になり、実店舗でも同10%ほどのプラスになったという。

 「何より購入者の70%が(高島屋での購買実績がない)新規客で、しかも20~30代という若い女性の比率が高かった。そうした新しいお客様が(バレンタイン施策を通じて)高島屋オンラインストアの会員になったことは、今後にもつながる成果だ」

 バレンタイン施策の旗振り役を務めたクロスメディア事業部ネット販売部の佐久間良枝部長は満足げに語る。

ソーシャルの話題の山を復数作る

 今や和菓子店どころかラーメン店なども参入し、混戦模様になっているバレンタイン商戦で高島屋が売上高を伸ばすことができた背景には、2つの取り組みがある。1つはバレンタイン向け商品のECサイトでの販売を、2月14日の2カ月以上も前から始めたことだ。

 通常、百貨店のバレンタイン商戦は1月下旬から2月初めにスタートする。高島屋も店頭は他社と同様だが、ECサイトではなんと昨年12月10日から専用コーナーを作ってチョコなどの販売を始め、1月9日に商品点数を増やすなどしてキャンペーンを本格化させている。

 もちろん、いたずらに期間を長く取ったわけではない。その裏にはしっかりと若い女性の心をつかむストーリーを描いている。それはソーシャルメディアで話題にしてもらうことを前提に企画した限定商品などを五月雨式に投入することで、ソーシャル上の話題の「山」を複数回作ること。それによって、ネットはよく見ているが、高島屋には足が向かなかったような20代などの若い女性の興味関心を引き、高島屋オンラインストアの認知向上につなげようとした。

 描いたストーリーに沿って1月上旬には、2014年が原作者トーベ・ヤンソンの生誕100周年に当たり、新作映画が公開されるなどして人気が再燃している「ムーミン」をあしらった同社限定チョコレートを投入。1月下旬には、LINEのキャラクター「ムーン」「コニー」「ブラウン」などを描いた限定マカロンを発売し、それらのタイミングでTwitterの公式アカウントなどでつぶやいたところ、思惑以上に拡散した。ムーミンのチョコはすぐに売り切れ、LINEマカロンも「1日に500個も売れた」(佐久間氏)と言うから、面白ネタで終わることなく、オンラインストアへの流入・商品購入を促す施策として十分に機能した。

自分チョコ需要で高単価に

 もう1つは、ここ数年で20~30代の若い女性に定着しつつある「自分チョコ」需要をしっかりと取り込んだことだ。会社の上司や同僚といった他人に贈る義理チョコでも、恋人や夫などに渡す本命チョコでもない。仕事に頑張る自分へのご褒美として普段は買わない高級ブランドのチョコ、バレンタインの時期しか買えないレアものなどを自ら買って楽しむ女性が急増している。

 今年は2月14日が土曜日で義理チョコ支出が減り、自分チョコ需要は一層増えると踏んでチョコレートばかりでなく高級スイーツなども充実させ、前年より11%多い約1300アイテムを取り揃えた。その上で「自分で食べたい! ランキング」というページをECサイト内に設けて、自分で買って、試してみたい気持ちをくすぐった。もとより客単価が約2000円と、義理チョコではなく自分用・本命用を探しに集まる女性たちの心をつかむことに成功した。もちろんECサイトを訪問しながらも離脱し、購入に至らなかった人へのリマーケティング施策や、チョコの有名ブランド名の検索連動型広告を出稿するといった定番のデジタル施策も実施している。

 今後は本施策で会員になった新規客に、5月10日の「母の日」など、さまざまな機会を捉えて同社ならではの商品やサービスを訴求。貴重な若年の優良顧客へとじっくり育てていきたい考えだ。

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