日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)は今夏にも全店にビーコンを設置する。設置当初は、スマートフォン向けアプリ「ケンタッキーフライドチキン 公式アプリ」への情報発信端末として活用するが、今後、単なる情報発信端末にとどまらず、決済の仕組みとの連携など、活用の幅が広がることを見越して1100店超のすべての店舗への導入を決めた。

KFCは3月25日にアプリを刷新した

 ビーコンの設置に先駆けて、KFCは3月25日にケンタッキーフライドチキン公式アプリを刷新した。「ダウンロード件数は約190万件に達しているにもかかわらず、情報発信の場としてほとんど活用できていない」(KFCのマーケティング部DIGITAL・CRM推進室の塩谷旬マネージャー)という課題を抱えていたためだ。

 KFCといえば、いち早く無料通話・メールアプリ「LINE」上に開設した公式アカウントで、登録した消費者に対してクーポンを配信して来店に結びつけるなど、モバイルマーケティング巧者という印象が強い。そのKFCがアプリを活用しきれていなかった理由を塩谷氏はこう説明する。「当社の基本的な情報はメニュー、店舗情報、そしてクーポンだが、いずれもスマートフォン向けサイトでも提供していた。サイトとアプリで明確な活用目的の違いを見いだせていなかった」。

 そのため、スマートフォン向けサイトやモバイル向けのサービスを活用したマーケティングには積極的に投資をしてきたものの、アプリは後手に回ってしまっていたという。

 ただ、ビーコンや位置情報と連動した情報発信といった手法の登場によって、プッシュ通知というアプリの持つ独自機能の活用の道筋が見え始めた。また、常に持ち歩くパーソナルなメディアであるスマートフォンに直接届けられるプッシュ通知は、個人に届くメールマガジンにも近い。

 そこで、アプリはスマートフォン利用者向けのCRM(顧客関係管理)ツールという位置付けで、万人向けのサイトと差異化して活用する方針を立てた。

位置情報に連動したクーポンで集客

 刷新したアプリでは店舗検索、メニュー、一律配信のクーポンといった基本機能を持つほか、顧客の過去の購買情報やよく利用する店舗、位置情報などを基にした、個別の情報発信を目指す。そのため、アプリの利用者にはKFCが加盟する共通ポイント「Ponta」のIDを登録してもらい、Ponta提示者の購買情報に基づいた情報発信の基盤作りを狙っている。

 とはいえ、購買情報などに基づいた1to1のマーケティングを展開するにはシステム面の連携なども含めて、もう少し実現まで時間がかかる。そこで、まずは実行のハードルが低い、GPS(全地球測位システム)の位置情報に連動した情報発信を4月から始める。アプリ利用者が、店舗を中心とした設定範囲内に入った時にだけ、一律配信のクーポンとは異なる、特別なクーポンを配信する。都市部の店舗と、ドライブスルーに対応した郊外の店舗などでは、消費者の利用の仕方が異なるため、後者では設定する範囲を広く取るなど、それぞれ個別に設定する。配信したクーポンの利用率を効果指標に据えて、ほかのクーポンの利用率と比較して効果測定をする。そうして、最適なクーポンの内容や設定範囲を探る。

 次のフェーズではビーコンを活用して、店内での情報発信をする。ビーコンは消費者がスマートフォンのBluetooth機能を利用していないと情報を届けられない。そのため、そうした機能の利用の有無に縛られづらいGPSに連動した情報発信を店舗外からの集客に活用する。そして店舗内では、情報発信の対象距離をより狭い範囲に設定可能なビーコンを使い、来店のお礼メッセージや、再来店につなげるために次回の来店で使えるクーポンなどの配信をする。

 こうして段階的に情報発信の施策を実施しながら、店舗でのアプリ利用を促進するなどして、来年3月までにアプリのダウンロード件数を300万件まで増やすことを狙う。利用者拡大に合わせて、機能の拡充も進め、将来的には、Ponta IDと連携した顧客ごとに合わせた情報やクーポンの配信の実現を目指す。

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