ブランディングを狙って、動画を活用したコンテンツマーケティングに力を入れるのがネスレ日本だ。同社は昨年9月から、「コンセプトシネマ」と称して、チョコレート菓子「キットカット」など、主要ブランドをテーマにしたドラマを制作して、会員制サイト「ネスレシアター」などで配信している。

「動画の狙いはエンゲージメント」

 こうした取り組みを始めた背景には、国内販売が始まってから40年が経ち、ほぼ100%に近いブランド認知を得ている老舗ブランドならではの課題がある。「新規のブランドであれば、テレビCMの放送で認知をとって、売り上げにつなげられる。一方、既にリピートまで到達しているブランドの場合、テレビCMを打ったところで、大きく市場が動くことはない。15秒や30秒のテレビCMでコミュニケーションをするのは限界がある」と石橋昌文CMO(最高マーケティング責任者)は言う。そこで、消費者とブランドのより深いコミュニケーションを目指す方法として、長尺の動画も配信できる、ネットの動画に目を付けた。

 「動画で狙うのはエンゲージメント」(石橋氏)。つまり、ブランドをより身近なものと感じてもらい、継続購買するような優良顧客を増やすことが、最終的なゴールとなる。キットカットといえば、「きっと勝つと」という語呂合わせから、受験のお守りとして学生に愛されている。このように、いち早く「モノ」の消費から、「コト」の消費へと価値を変え、消費者に浸透してきた。

ネスレ日本は、ネット動画でドラマを配信してブランディング

 昨年9月から展開した動画キャンペーン「オトナの甘さ ビター・スウィート ~オトナの交差点~」では、そうした情緒的な価値を訴える15~25分ほどのドラマの動画を4本配信した。

 ネット動画とはいえ、女優の本仮屋ユイカさんなどを起用する、本格的なドラマ作品となっている。単にプロダクトプレイスメントとして、キットカットを登場させるのではなく、監督と打ち合わせをしながら、キットカットが物語の重要な役割を担う存在となるようなストーリーに描かれている。

 例えば、「秋子編」では、すれ違う夫婦が、改めて絆を取り戻していく過程の中で、キットカットを2つに割って2人で食べるシーンが登場する。このような表現にすることによって、単なるチョコレート菓子ではなく、夫婦の仲を取り持つ存在として、情緒的な価値を訴えている。

 動画の制作に当たっては、制作会社や監督と打ち合わせを重ねながら、伝えるべきブランドメッセージがきちんと物語に取り入れられているかといった点を、何度もチェックしながら進めているという。

 とはいえ、単に動画を掲載しただけでは、なかなか再生回数は増えない。そのため、テレビCMも活用する。テレビCMでネット動画の物語の一部を見せながら、結末を見たい方はこちらと、ネスレシアターを案内。「ブランドコミュニケーションとネスレシアターへの誘導という、一石二鳥を狙ったコミュニケーションを実施している」(石橋氏)。また、2月からは岩井俊二監督のアニメ映画「花とアリス殺人事件」とキットカットを連動した動画コンテンツを公開するなど、今後も動画を継続して配信していく。

 効果は、定期的に実施しているブランド調査で測定していく計画だ。「こういったブランドコミュニケーションは、すぐに大きな成果につながるわけではない。定期的な調査をして、時系列で結果を見ながら、継続的な購買をする層が増加していくかを見ていく必要がある」と石橋氏は言う。そうして、コンテンツマーケティングがブランドに与える影響を分析していく。

まずは、目的・ペルソナの設定

 ここまで紹介してきた4つの事例からコンテンツマーケティングを成功に導くポイントを整理すると、3つにまとめられる。まずは「目的・ペルソナをしっかり定める」こと。例えばニキペディアでは、記事ごとにペルソナを定義していた。

 インフォバーンは、コンテンツマーケティングを支援する上で、まず、企業の顧客層のカスタマージャーニーの可視化から始める。そして、そのどこで、顧客と情報の接点を作りたいのかを決める。

 例えば、マーケティングファネルの初期段階であれば、見込み客が関心を持ちそうな周辺情報を中心にそろえてコンテンツマーケティングを実施することになる。

 BtoB企業の場合は、ペルソナの設計がより重要になる。広く知らせるよりも、成約に結びつきやすいリードを獲得することの方が重要になるからだ。そのためにも、販促したい製品を導入する企業が抱える課題やニーズを浮き彫りにして、その課題解決につながるようなコンテンツを用意する必要がある。

コンテンツマーケティングを成功に導く3つのポイント

 目的やペルソナをしっかり定めないと、効果測定指標も定まらず、ついついPVを成果指標に置きがちになる。すると、「PVを指標にしない」という2つ目の成功のポイントから大きく外れた、コンテンツマーケティングになってしまう恐れがある。事例の2つ目に取り上げたfreeeは、リード獲得件数を指標としていた。

 目の前にあるPVを指標にすると、とにかく話題になる記事を作ることに躍起になってしまう。それでは本当にアプローチしたい見込み客や消費者を集めることが難しくなる。

 最後のポイントは、「コンテンツの配信も併せて考える」ことだ。せっかく良質なコンテンツを作っても、人を呼びこむ手段がなければ、単に制作コストをかけただけの無用の長物になりかねない。昨年から、コンテンツを広告として配信できるネイティブ広告が注目を集めるなど、コンテンツに人を集める仕組みが整っている。インフォバーンの今田氏は「コンテンツ制作と配信の予算の割合をセットで設計することを推奨している」と説明する。

 ネイティブ広告市場は、アウトブレインなどのネットワーク配信事業者に加え、キュレーションなどのメディア運営企業がネイティブ広告の一種であるインフィード型広告のネットワーク事業を開始するなど活況を呈している。コンテンツを持っていれば、こうしたサービスを利用して、集客につなげることができる。

 もちろん、freeeのように検索ニーズの高いコンテンツを作ることで、検索サイトから人を呼び込むことも重要な集客手法の1つだろう。

 コンテンツマーケティングを成功に導く上では、これらのポイントを押さえるべきだろう。

DMPの活用もカギに

 その上で、今後、重要になるのがデータだ。ライオンは生活情報サイト「Lidea(リディア)」の開設に合わせて、プライベートDMPを導入した。同社はこのDMPにLideaのデータをためることで、消費者インサイトを導き出し、流通企業などのマーケティング支援に役立てることを目指す。ライオンのように、「コンテンツマーケティングの展開に合わせて、プライベートDMPを導入するケースは増えている」(今田氏)。

 データはコンテンツマーケティングをうまく回す上でも役立つ。電通iPR局iクリエーティブ部長の郡司晶子氏は「データをためながら、そのデータから見込み客のニーズやインサイトを探る。そこで得た学びをコンテンツ制作に生かすことで、より効果の高いコンテンツマーケティングの実施につながる」と説明する。

 見込み客にとって、価値のあるコンテンツを用意して、そこに人を呼びこむ。サイトの利用者が増えることで、データがたまり、新たなコンテンツが生まれる。こうした循環を作り出すことで、長期的にコンテンツを生み続けることにつながる。そうした積み重ねによってオウンドメディアの価値が高まり、ひいてはコンテンツマーケティングの効果向上に結びつくはずだ。

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