■【特集】コンテンツマーケティングを成功に導く3つの条件

 BtoB(企業間取引)企業であれば、コンテンツマーケティングは見込み客(リード)の獲得が目的になることが多いだろう。さらに、その見込み客のデータと閲覧した記事をひも付けて管理することで、1to1に近い形のマーケティングを実現できる可能性がある。BtoB事業では、導入までの検討期間が長くなる場合もある。この期間に、有益な情報を配信して、関心を引き続ける必要があるため、パーソナライズされた情報提供が重要になる。

 こうした手法に取り組もうとしているのが、クラウド型の会計ソフト「freee」を提供するベンチャー企業freee(東京都品川区)だ。同社は2013年から、ブログを通じて、顧客ターゲットである個人事業主や中小企業の経営者向けに、会計・経理や確定申告に関する情報を発信してきた。昨年、単純なブログからメディアサイト「経営ハッカー」へと刷新した。さらに同年11月には、マルケト(東京都渋谷区)のマーケティングオートメーションツール「Marketo」を導入。今後、獲得したリードが閲覧した記事もスコアリングの材料にするなどして、リードナーチャリングに取り組む。

freeeは、メディアサイト「経営ハッカー」を通じて、個人事業主や中小企業の経営者の見込み客を獲得する

 Marketoを活用した高度な施策はこれからだが、既にリードの獲得という面で経営ハッカーは大きな成果を上げている。「ディスプレイ広告やオーガニック検索でサービスサイトに訪れた人よりも、経営ハッカー経由で誘導した方が無料、有料含めて利用の登録率が2~3倍高い」とfreeeマーケティング担当の鈴木幸尚氏は明かす。

 運営に当たっては来訪者のニーズを鑑みながら記事を執筆している。経営ハッカーやfreeeのサービスサイトでのサイト内検索のキーワード、検索連動型広告経由の訪問者の検索キーワードなどからニーズを探る。そしてキーワードの検索量を調べ、一定の集客が見込めそうなら記事を執筆する。そのほか、昨年から新たに給与計算ソフトを提供し始めたことで、労務関連の記事も強化した。

 2人の専任に加え、外部ライターへの依頼も合わせて月に20本程度の記事を掲載している。その結果、UUは1年で6.7倍に増加。目標としていた月間100万UUも達成した。

 直接的にリード獲得につながったものとして、確定申告に向けた記事強化が挙げられる。昨年の2~3月にかけて、確定申告関連の記事にアクセスが殺到した。しかし、「圧倒的に記事が足りなかったと痛感した」と鈴木氏は振り返る。そこで今年は確定申告時期に向けて、関連記事を大幅に増やした。その結果、「2月は新規の訪問者が7割になるなど、新規見込み客の獲得に大きく寄与した」(鈴木氏)。

 直接的にリード獲得には結びつかなくても、サイト訪問者にはリマーケティングでディスプレイ広告を配信し、アプローチしている。「UUが増えれば、それだけ広告を配信できる母数が増える。アクセスを増やす意味は大きい」と鈴木氏は言う。現状はリマーケティングで配信するディスプレイ広告のクリエイティブは一律だが、今後は訪れた記事のカテゴリーに合わせて、広告クリエイティブの最適化も目指す考えだ。

話題の記事でFacebookから集客

 こうしたコンテンツマーケティングを活用したリード獲得に、BtoC(消費者向け)企業ながら挑もうとしているのが、楽器メーカーのヤマハだ。同社は、音楽教室やヤマハ製品の利用者などから獲得した40万人超の有料会員組織「フィーリングクラブ」を持つ。

 同組織は年会費を払うと、音楽教室への行き帰りに事故に遭った際の補償サービスや、楽器の盗難や破損時に損害を補償するサービスを受けられる。会員カードは、クレジット機能付きの有無の両方を用意しており、40万人超のうち約15万人がクレジットカード会員となっている。

 現状はオフラインでのサービスが主だが、これをオンラインの会員組織「ヤマハオンラインメンバー」と統合して、総合的な会員組織へと変える計画が進んでいる。新たな会員組織では、現状の有料会員のほか、無料会員も用意する方針だ。

ヤマハは会員獲得の一環として「Web音遊人」を活用する

 ただ、フィーリングクラブをオンラインの組織と統合するには、システムにも手を加える必要があり、すぐには困難。そこで、まずは会員向けに発行していた会報誌「音遊人(みゅーじん)」のWeb版「Web音遊人」をフィーリングクラブのサイトの一部として昨年5月に開設した。Web音遊人は、ヤマハの製品に限らず、ミュージシャンのインタビューなど音楽に関するコンテンツを幅広く取り扱うことで、「ヤマハファン以外にとどまらない、音楽に関心のある人全般を集客する」(事業企画部の鞍掛靖部長)役割を担う。更新頻度は1カ月で15本前後の記事を公開するペースだ。

 運用はCRM(顧客関係管理)などを担う事業企画部と、社内から情報を集めて配信先として最適なメディアを選定する情報センターが二人三脚で行う。情報センターは会報誌の制作の業務委託先や、ヤマハの各部門ごとに1人が所属する、特派員と呼ばれる所属部門の情報を集める担当者から、新製品やサービスに関する情報を集める。そうして集まった情報の中から、メールマガジン、Web音遊人、ソーシャルメディアなどの中から最適な出し先を選んでコンテンツを配信する。

 会報誌に載せた記事をWeb音遊人で展開する場合、載せられる情報に制限がないWebサイトの特長を生かして、会報誌では紹介しきれなかった製品の開発者インタビューを別途紹介するなど、情報を拡充することで、会報誌の読者にも楽しんでもらえるような作りとなっている。

 ただ、Web音遊人はヤマハの企業サイトの下層に存在するため、ヤマハのサイトからの集客は見込みにくい。そのため運営の開始当初は集客に悩んだ時期もあった。ここ最近は、インタビューを掲載したアーティストが自らソーシャルメディアで情報を発信してくれるなど、ソーシャルメディア経由でサイトを訪問してくれる人が増えつつあるという。

「ウィーンの至宝」の記事でFacebookからの流入8倍

 ソーシャルメディアで話題になった1つが、オーストリアのピアノメーカーのベーゼンドルファーについて書かれた記事だ。同社のピアノは1000万円以上の価格帯が中心。一般の消費者は、なかなか触れる機会のないピアノだ。そのベーゼンドルファーのピアノが弾ける東京・中野坂上のレンタルスタジオを紹介する記事を掲載したところ、Facebookで話題を呼び、閲覧数は4000を超えた。「1月はフィーリングクラブのサイトへのFacebookからの流入が前年同月比8倍になる成果につながった」(事業企画部FC推進課の森田涼子アシスタントマネジャー)。

 現状はWebの会員組織と連携していないため、PVが指標となっているが、今後、会員組織が整備されれば、会員限定の記事やキャンペーンなどの展開を視野に入れる。そうして、無料会員、有料のクレジットカード会員を増やす戦略の柱としてWeb音遊人を活用していく考えだ。

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