サイト運営の基本指標はページビュー(PV)だが、コンテンツマーケティングには向かない。見込み客のペルソナを描き、最終目標を見据えたコンテンツ設計が肝要だ。
アサヒビールやライオンが自社商品の情報にとどまらず、生活や仕事に役立つ情報サイトを開設するなど、企業が自社で持つメディア=オウンドメディアを強化する動きが続く。商品に関連した情報やノウハウを掲載したメディアを作り、消費者との接点を拡大する。こうした手法はコンテンツマーケティングと呼ばれ、注目度が高い。
ネットで潜在顧客にアプローチ
なぜ今、コンテンツマーケティングなのか。その理由をコンテンツマーケティング支援のインフォバーンの今田素子代表取締役CEO(最高経営責任者)はこう説明する。「デジタルマーケティングは従来パフォーマンス重視だった。マーケティングファネルで言えば、ニーズが顕在化した後の購買にかなり近い部分での活用が主だった。しかし、ネット上でも潜在的な顧客にアプローチする手段を求める広告主が増えた。そうした課題を解決する1つの手段として、コンテンツマーケティングに注目が集まっている」。
こうしたニーズの変化は、スマートフォンの普及とは無縁ではなさそうだ。様々な媒体から記事を集めて配信する「SmartNews」や「Antenna」などのスマートフォン向けのキュレーションメディアの利用が拡大している。コンテンツを広告として配信するネイティブ広告の市場も広がっている。その結果、スマートフォン上にコンテンツが流通する仕組みが整った。ここに企業がコンテンツを提供できれば、消費者との接点拡大が期待できる。
さらにオウンドメディアにDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を設定して、利用者データを蓄積すれば、顧客の分析やリターゲティング広告の配信など、データを活用した様々なマーケティング施策に展開できる。

重要なのは、誰に何の情報を提供して、何を達成したいのか。目的とペルソナを明確にし、それに合った成果指標を定めることが、コンテンツマーケティングを成功に導く条件となる。ページビュー(PV)はあくまで最終成果を生む前提となる中間指標である。PV最大化を目標に定めてしまうと、話題になることばかりを追い求め、目的意識を見失い、失敗につながってしまう。本特集ではコンテンツマーケティングを成功させる上でのポイントを事例を通じて導き出していく。
最初はEC(電子商取引)サイトの売り上げ拡大を実現している、化粧品メーカーのガシー・レンカー・ジャパン(東京都品川区)の事例だ。

ガシー・レンカー・ジャパンは、ニキビケア用品「プロアクティブ」を主力商品に通信販売事業を手掛ける。昨年2月に、ニキビの専門メディア「ニキペディア」の運営を開始。昨年12月には、記事レコメンド型のネイティブ広告ネットワークを展開する米アウトブレインの活用を始めた。同社サービスを利用し、ニキペディア内での回遊率の向上を目的とした記事レコメンドと、外部サイトからの集客を狙って記事見出しを広告原稿とした配信を実現した。その結果、上の図の通り、PVとユニークユーザー(UU)がともに急増。一時、サーバーがパンクする事態になった。2月のUUは40万に達している。
CVRはディスプレイ広告の10倍
それまでもニキペディアに掲載する記事の最後に、自社ECサイトへの誘導枠を掲載して集客し、大きな効果を上げていた。今年からはニキペディアの訪問者限定で初回購入時に68%割引で購入できるお試しキャンペーンの告知を始め、本格的に売り上げにつなげ始めた。その結果、開始から1年で、「ニキペディア経由の訪問者のCVR(成約率)が1.2%になり、ディスプレイ広告より、10倍近く高くなった」とデジタルマーケティング部の藤原尚也シニアマネージャーは胸を張る。こうした成果から今後、リターゲティング広告以外のディスプレイ広告をやめることも検討し始めているほど。
コンテンツマーケティングに取り組む以前、ガシー・レンカー・ジャパンは、ブランド名での検索ボリュームの低下という課題を抱えていた。同社はタレントの眞鍋かをりさんを起用したテレビCMで市場を開拓してきたが、薬事法の関係で、広告表現に制約がかかった。こうした状況の変化などが影響して、ブランド名での検索数が伸び悩んだ。
一方で、急増したのが「ニキビ」での検索だ。2012年ごろから増加し始めて、検索ボリュームは大きく膨れ上がった。ブランド指名買いではなく、ニキビに悩むニーズを捉えるためのマーケティング施策が急務となった。そこで目を付けたのがコンテンツマーケティングだ。
「ニキビというキーワードで検索すると、アフィリエイトサイトなどが多く表示され、商品や肌ケアの方法についての正しい情報が探しにくい印象を持った。きちんとニキビの情報を発信すれば、訪問してもらえると考えた」と藤原氏は振り返る。
また、ディスプレイ広告の効果が思うように上がらなかったことも、新たな施策への投資を後押しした。ガシー・レンカー・ジャパンは、DSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)を活用したターゲティング広告の配信に取り組んできたが、「年齢や性別でターゲティングしても、そもそもニキビがあるかどうかは分からない。そのため、CPA(顧客獲得単価)が非常に高かった」(藤原氏)。そこで藤原氏は、「広告にコストを投じるより、ニキビに悩む人が集まる“場”を作り、そこで刈り取った方が効率が良い。コンテンツも自社の資産として残る」と考え方を変えた。
こうして生まれたのがニキペディアだ。記事は、すべて自社内で制作する。デジタルマーケティング部の担当者が「編集長」のような立場に就き、ブランドマーケティングやカスタマーサポートなどの社員のうち、普段からFacebookなどで情報発信をしている人などに、兼務で執筆してもらっている。
記事を作る際は「誰に届けたいか」を特に重視。まず、執筆したいキーワードを決める。例えば「ニキビ チョコレート」なら、そのキーワードの検索ボリュームを調べて、それなりの集客が見込めれば、記事を求めている層のペルソナを作る。これがかなり具体的だ。
20歳の大学生で、カラオケ店でバイトをしている。大学の授業、交友関係とも充実しているがニキビができやすいのが悩み。昨日、チョコレートを一箱食べたら、ニキビができてしまった──と、こんな具合だ。これを担当チームで回覧して、精査をしてから、記事を書き始める。「きちんとペルソナを描かないと、ニーズにマッチした記事にならない」と藤原氏はこだわる理由を説明する。こうして、対象をはっきりさせることで、より効果の高いコンテンツマーケティングを実現している。