パナソニックがネット動画の活用を積極化している。FacebookやYouTubeなどのメディアを使い分け、消費者のメディア接触の変化や商品の広告宣伝予算の制約などに対応している。

 活用法の一つが、オリンピックのワールドワイド公式パートナーである同社が力を注ぐ、東京オリンピックに向けた「Beautiful JAPAN towards 2020」キャンペーンである。このキャンペーンは、テレビやビデオカメラなど4Kに対応した製品群のブランディングを目指したもので、動画が肝となる。

 オリンピックの開催に向けて、47都道府県の学校で、オリンピックを目指してスポーツに取り組む子供たちを取材して回り、都道府県ごとに独自のテレビCMや動画を制作していく企画だ。

 キャンペーンのテレビCMの放送に先駆けて、Facebookのプレミアム動画広告を活用した。同広告は、大手企業など一定量の予算を確保できる広告主を対象に、短期間で大量のリーチを獲得できる広告商品だ。

都道府県別にCM動画を制作するBeautiful JAPAN towards 2020キャンペーン

 4K製品の購入可能性が高い層に絞って配信するため、35歳以上という年齢でターゲティングして、スマートフォンを対象に配信した。そして、配信後にアンケートを実施して、動画広告の閲覧の有無で、Beautiful JAPAN towards 2020やパナソニックがオリンピックのスポンサーであることの認知率に差が出るかの比較調査をした。

 その結果、広告でのリーチ数は明かせないとしながらも、Beautiful JAPAN towards 2020の認知率は広告の閲覧者が5.5ポイント高く、同社がオリンピックのスポンサーであることの認知は9.5ポイント高い結果となった。

セグメント配信を強化へ

 Facebook動画活用の背景となったのは、消費者のメディア接触の変化だ。

 「当社のWebサイトでもスマートフォンからのアクセスが急増している。テレビの視聴時間が減る一方で、利用が急拡大するスマートフォンで、どのようにアプローチするかが大きな課題だった」。パナソニックコンシューマーマーケティングジャパン本部コミュニケーショングループWebチームの鐵祐子主事はこう明かす。

 この課題の打開策を探る中で目を付けたのが、Facebookの動画広告だった。Facebookは国内においても、スマートフォンからのアクセスが大半を占める。それゆえ、Facebookの動画広告商品は鐵氏の目にも魅力的に映った。

 ただ、どの程度の成果が見込めるかは未知数だった。そこで、まずは消費者へのアンケートと組み合わせて、Facebookの動画広告のブランドリフトの効果を測定して、その可能性を探ることにした。

 調査結果を受けて継続を決めてからは、プレミアム動画広告ではなく、Facebook広告の管理ページから、自社で予算をコントロールして出稿できる動画広告を活用している。Beautiful JAPAN towards 2020では現時点で福島や滋賀、奈良など6県の子供たちを取材して動画を制作した。4月にはさらに2県の動画が加わる。この都道府県別の動画を居住地でターゲティングして配信するなど、様々なセグメントでターゲティングを切って、効果を測定している。

 動画広告の効果測定は、リーチや再生数、再生維持率などを指標に設定している。ところが、「再生維持率は、広告のクリエイティブでばらつきが見られる」。

 例えば、編集を加えていない動画の方が、作りこんだ動画より高いケースもある。再生維持率を高めるには、まだ分析が必要だ」と鐵氏は言う。研究を重ねながら、PDCAを回して、動画広告の効果の向上を目指す考えだ。

動画で売れた衣類スチーマー

 パナソニックの動画活用といえば、本誌2月号「データは語る」で掲載したYouTube動画視聴ランキング(2014年10~12月)の「60代以上」の属性で同社製衣類スチーマーの動画がトップ10に3本も入っていた。

 これは昨年11~12月、衣類スチーマーの紹介動画を視聴した人に、会員サイト「CLUB Panasonic」のポイント進呈、ならびに動画内容からクイズを出題して旅行券などをプレゼントするキャンペーンを実施していたため。

【60代以上】YouTube閲覧コンテンツランキング(2014年10~12月)

 シニア層で上位になったのは、CLUB Panasonicの会員、訪問者に中高年が多いことや、シニア層が他の年代層でランクインするようなエンタメ系動画をあまり見ないために相対的に浮上したと考えられる。

 実はこの衣類スチーマーは、動画発のヒット商品である。アイロンより小型軽量で本格的な蒸気の噴射機能を持つ同製品は、ハンガーにつるした衣類に当てるだけで簡単にしわをのばせて脱臭も可能とあって、2013年秋の発売から約30万台を売り上げた。

 小型家電は広告宣伝が難しい商品だ。テレビCMを放映するほどの予算はなく、家電量販店での実演販売もアイロン売り場は目立ちにくくスペースも狭い。アイロン台ではかけにくいフリルやドレープ形状の女性用衣類でも手軽に扱えることを訴求するために選んだのが動画だった。

 使い方動画のほか、ミニコント仕立ての「男だってシワ取れビアン」など特長を盛り込んだ動画も用意。衣類スチーマーだけで30本以上の動画を公開している。女性は外出前、男性は帰宅後の利用が多いという調査結果から、利用シーンを動画に盛り込むなど工夫を凝らしている。

 同社コンシューマーマーケティングジャパン本部スモールアプライアンスグループビューティー・ヘルスケアチーム主事の巽敦子氏は、「お客様アンケートで、購入のきっかけとして動画が挙がっている」と配信の成果を実感している。この3月からは、YouTuberの体験動画も各自のYouTubeチャンネルで公開し、情報接触者の裾野を広げていく。