衣料品SPA(製造小売り)大手のクロスカンパニー(岡山市北区)は、Webマーケティングの強化を狙って、2月1日に組織を再編した。
会員約100万人を抱える自社EC(電子商取引)サイト「クロスコレクション」を運営し、ECサイトの収益責任も負っていたIT・通販事業部を解散し、9つあるブランドそれぞれに、「クロスコレクション」内のブランドページの運営と収益責任を負わせる体制に切り替えた。
規模の大きな5ブランドについては、旧IT・通販事業部のスタッフ5人が1人ずつ異動して引き続きWebマーケティングを担当し、残りのブランドについては、新たにスタッフを外部から採用して新設したウェブマーケティング部がサポートする。同部は収益責任を負わず、同社EC全体の戦略策定や技術的支援を担当する。
多数のリアル店を抱える各ブランドからすると、自分のブランド商品を使って独自に売り上げを稼ぐIT・通販事業部は、これまで“敵”だった。このため、「IT・通販事業部がWebマーケティングでリアル店を巻き込む提案をしても、なかなか前へ進まなかった」(旧IT・通販事業部主事で現ウェブマーケティング統括マネージャーの澤田昌紀氏)。今回の組織再編は、ECサイトの収益も各ブランドの責任にすることで、EC単独はもちろん、ECとリアル店を組み合わせたオムニチャネルへの積極的な取り組みも促す狙いがある。
組織再編の効果は早くも出てきている。今年1月までは、経営陣が目を通す販売レポートにEC単独の収支が記載されるのみで、どのブランドがどれだけ稼いでいるかは分からなかった。2月以降は、各ブランドが抱える個店ごとの収支の最後に、ECでの収支も記載されるように変わった。どのブランドがECで収益を上げているかが一目瞭然になったため、「ブランド責任者のECに対する意識が大きく変わり、積極的な取り組みを考えるようになった」(澤田氏)という。
クロスカンパニーが今回、このような組織再編を断行したのは、「Webマーケティングのためのツールがひと通り揃ったから」(澤田氏)だ。昨年夏に、デジタルマーケティング支援のデジミホ(東京都千代田区)が開発したキャンペーンマネジメントツール「R∞(アール・エイト)」を導入。同じ内容のメールを会員に一斉配信する従来手法を改め、会員個別の状況に応じたメールを配信し始めたところ、「購買に結びつく効果が得られると分かった」(澤田氏)。R∞はユーザーインタフェースが分かりやすく、一般社員でもキャンペーンのシナリオを考えて実行に移しやすい。このため、「各ブランドにECサイトの運営責任を持たせても大丈夫」(澤田氏)と考え、組織再編に踏み切った。
R∞導入後に、クロスカンパニーが打った実際の施策の成果を見てみよう。まず昨年9月以降、新規に会員登録したけれどECを利用しない顧客や、ECで商品を購入した後、一定期間が経過した顧客などを抽出し、それぞれメールを送り始めた。
個別リマインドメールで配信対象の3.2%が商品を購入
例えば前者の場合、登録後20日経過したら使用期限付きの10%割引クーポンメール、26日経過したらクーポンの有効期限が4日後に迫っていることを知らせるリマインドメールを送った。すると、3カ月間で6000人近くが、新たにECで商品を購入。メールを配信した顧客に対する実際に購入した顧客の割合は3.2%に達したという。
また、これらの施策を展開した結果、新規購入する顧客だけでなく、購入頻度も購入金額も多い「A1」にランク分けされる顧客が、「昨年9月末の2万113人から今年1月末には2万1652人へ、7.7%増えた」(澤田氏)(ランク分けは下図参照)。

A1ランクの顧客は、過去1年間にEC購買履歴のあるアクティブ会員のうち14.7%しか占めないのに、売り上げは47.6%を占める優良顧客(2月25日時点)。A1ランクの顧客の増加はクロスカンパニーにとって大きな意味がある。
今後は、各ブランドでR∞などを使ったWebマーケティングに取り組む一方、ウェブマーケティング部で新しいツールの開発・導入を進める予定だ。まずは、クロスカンパニーが既に導入している、ネット上に広がるクチコミ情報を拾い上げ、顧客のECサイトに掲載するプラットフォーム「バザーボイス」とR∞を接続し、バザーボイスで集めたクチコミ情報を使ってレコメンドメールを作成し、ターゲットとする顧客に配信していく考え。その後も「ECの機能強化に取り組み続ける」(澤田氏)腹づもりだ。