ヨーグルトなどの製造・販売を手がけるダノンジャパン(東京都目黒区)はクラウドソーシングで制作したWeb動画を基に、テレビCMにリメイクして出稿する取り組みを始めた。テレビCMをWeb動画として配信するケースは多いが、先にWeb用の動画を制作し、それを基にテレビCMを作って出稿する試みは珍しい。

 きっかけとなったのは、ダノンジャパンが昨年秋に、動画制作に特化したViibar(ビーバー、東京都品川区)のクラウドソーシングサービスを利用して、看板商品であるヨーグルト「BIO」を紹介するWeb用の動画を制作したことだ。

 Viibarに登録している約1800人の動画クリエイターに対して、「このようなイメージのWeb動画を制作したい」と条件を提示。応募してきた約40人のクリエイターの中から1人を選び、プロデューサーの立場で動画を制作するように発注した。その結果、「完成した動画のクオリティーが思いの外、高かった」とマーケティング部コミュニケーション&デザインの水島有恵シニアマネージャーは振り返る。

 そこで同社は同じクリエイターに、その動画をテレビCMとしてリメイクすることをViibarを通じて依頼した。これまでのCMと同等のクオリティーを保ちつつ、コミュニケーションを効率化して制作期間を短縮し、制作コストを低減することを狙ったのだ。

1週間かかった修正が3時間に

 それまでは、広告主であるダノンジャパンとクリエイターの間に広告会社が入るため、「当社の希望がクリエイターに伝わりにくく、時間もかかっていた」(水島氏)。だが今回、Viibarが提供する、広告主とクリエイターを直接結ぶチャットサービスを使ってダイレクトにやり取りできたため、「これまでだと1週間かかっていた修正がわずか3時間でできるなど、コミュニケーションが劇的に効率化された」(水島氏)という。

 また、Viibarに支払う手数料こそ加わったが、広告会社に支払う手数料などが不要になった。加えて、クリエイターと直接やり取りするため、「これまでブラックボックスだったテレビCMの制作コストの内訳についても詳しく把握し、意見を言うことができた」(水島氏)。この結果、コミュニケーションの改善による制作期間の短縮化と併せ、CMの制作コストを「従来に比べ、約4分の1」(水島氏)に抑えることができた。

Webマーケティング用動画を基にリメイクされたヨーグルト「BIO」のテレビCM

 こうして制作したテレビCMは1月19日から流れ始めた。商品購買への貢献度合いはまだ確認できていないが、「テレビCMの内容や質に対する視聴者からの評判は上々」(水島氏)。ダノンジャパンは今回の試みを「成功」と位置づけ、Web動画をまず制作し、それをテレビCMにリメイクする取り組みを今後も続けていく考えだ。

 もっとも、こうした取り組みを進めるには、乗り越えなければならない課題がいくつかある。

 まず広告主側に、「何のためにどんな動画を作るのか」という確固たる方針と、動画コンテンツを見て、それが方針に合致しているかを判断する“目”が必要になる。ダノンジャパンの場合、水島氏がテレビCMからWebマーケティング、商品パッケージ、店頭POPまで、デザインのクリエイティブに関して幅広く担当する立場にあり、責任を持って決断できたことが大きかった。

 また、これまで広告会社に任せていた書類の整備や資材の手配、広告会社や媒体社への納品手続きなども自社で進めなければならないため、広告主側の仕事量が急増する。ダノンジャパンでは、新たに水島氏の下に部下を1人付けることで、この課題をクリアした。

 今後はダノンジャパン同様、これらの課題をクリアした広告主企業の間で、Web用の動画を使ってネット上の限られた範囲でマーケティング活動を進め、そこで得られた知見を加味して、より到達範囲の広いテレビCMを、クラウドソーシングのプラットホームを利用しながら制作する──という流れが一般的になってもおかしくない。ダノンジャパンとViibarの取り組みは、テレビCMの作り方を変えるきっかけになるのかもしれない。

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