キリンから業界首位の座を奪い業績好調なサントリー。デジタルマーケティング分野ではいち早く専門部署を作るなどして業界をけん引してきたが、その積極性はグループ全体に浸透している。「カンパリ」や「カルーア」「ビーフィーター」といったリキュール・スピリッツ商品のマーケティングでは、スマートフォン向けアプリを活用。昨年7月から今年3月まで5回に分けて実施したキャンペーンで20~30代の若い女性を中心に画像のインプレッション(閲覧)数は1900万回弱に達した。

家庭需要の拡大が成長のカギ

 同キャンペーンは、リキュールやスピリッツ商品を統括するサントリースピリッツが実施した。カルーアやカンパリに合いそうな手作りの料理と同社商品のボトルを一緒に写した写真を、スマホ向けアプリから投稿してもらうという企画だ。そうしたおいしそうで、楽しそうな写真で興味関心を引き、投稿者の友だち(フォロワー)に写真を閲覧してもらったり、アプリ内でシェアしてもらったりすることで拡散させた。狙いは、カルーアなどの認知を高め、自宅でもカクテルを作って飲んでもらう機会を増やすことである。

 カンパリやカルーアなどはカクテルの素材としてよく使われる。バーやレストランなどで飲用した経験がある人も少なくないだろう。そのため、ブランド認知は一定程度はある。

 だが欧米とは異なり、日本には自宅でリキュールなどからカクテルを作って楽しむような習慣があまりない。リキュールなどの販売先は現状、60%が飲食店向け。家庭向け需要はなかなか広がらないという課題を抱えていた。

スマートフォン向けアプリ「SnapDish」上で5つの商品のキャンペーンを連続して実施

 「当社商品の販売量をさらに増やすには、家庭向け需要の拡大が欠かせない。それには、カクテルをおしゃれな飲み物と感じて、楽しんで飲んでくれるであろう若い女性の認知を、今以上に高める施策が必要だった」(マーケティング部の堀田麻依子氏)。

 そんな狙いから本キャンペーンでは、アプリ開発のヴァズ(東京都武蔵野市)が展開する「SnapDish」という料理写真アプリを活用した。同アプリはダウンロード数が155万と、際立って多いわけではないが、利用者の80%が女性で、その3分の2を20~30代が占める。何より集まっているのは、料理やアルコールなどへの興味関心が高い人たちだ。投稿される写真は外食ではなく、手料理の写真が中心だ。サントリースピリッツがカルーアなどの家庭内需要のけん引役と期待するターゲット層と、同アプリの利用者属性が一致していることなどを評価した。

過去のマス型施策で苦い経験

 では、本施策の成果はどれほどか。

 例えば、カンパリをテーマにしたキャンペーンでは、約2カ月の期間中に473枚の写真が投稿され、3600のコメントが付いた。投稿者への賞品としては、10人に商品やノベルティを用意した程度。それでも、写真を投稿した人やそのフォロワーなどがアプリ内でシェアするなどして、380万回ほど閲覧された。他の商品のキャンペーンもほぼ同様の結果になっている。都合5回のキャンペーンでの投稿写真の閲覧数は、1900万回近くになる計算だ。

 閲覧数が1900万ほどといっても、ダウンロード数155万のアプリ内での露出であり、1人で何回も見た人がいて、その合計値である。だが、同社はその点を含めて施策の結果を評価している。

 同社は2011年に、タレントのベッキーさんを起用したテレビCMを制作。「サントリーRickeyプロモーション」と銘打ったマス型キャンペーンを大規模に展開したことがある。しかし肝心のブランド認知にはさほどつながらなかったという苦い経験をしている。そんな事情から、多額の予算を投じなくても狙ったターゲット層にリーチし、実際に認知や好感の向上につながる手法を模索していた。

 実はこのキャンペーンは当初、カンパリのみの1回で終了する予定だった。だがふたを開けてみると、写真の投稿数や閲覧数などが事前の想定を上回ったことなどから、同社では異例の5ブランド横断型で実施することになった。初回のキャンペーンを企画した堀田氏が、ビーフィーターなどを担当するほかのブランドマネジャーに働きかけて実現した。

 今回の施策で良い結果が出たことで、同社は自社商品の訴求にデジタルが向いているとの思いを強めたようだ。今後、投稿写真でカクテルの作り方を説明するミニパンフを作り、ボトルに掛ける「くびかけ」として使用するほか、商品ページのコンテンツの1つとして利用することも検討している。

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