投稿内容とタイミングの工夫で成果を上げたミニストップに対し、Facebook広告の活用で結果を出したのが女性向け下着メーカーのピーチ・ジョン(東京都渋谷区)だ。駅近の商業施設やアウトレットモールに実店舗を出店しているが、売り上げの過半を通販が占める。F1層が中心なだけにカタログ注文からEC(電子商取引)に大きくシフトした。ゆえにECサイトに誘導できるネット広告の重要性が増し、中でも配信属性を絞れるFacebook広告への期待が高まった。

出稿したのは2013年の夏、「夢のような着け心地」「PJ史上最高」と銘打った同年秋の新作「ドリームブラ」のプロモーションだった。より多くの人へのリーチを目的に、テレビCM放映のタイミングで「モバイルターゲットブロック」を利用した。スマホのFacebookアプリ利用者のニュースフィードに広告が配信される。同社販売本部通販部通販課課長の宮澤雅行氏は、「(2014年の実績では)20代以上の女性を対象にしたところ3日間で約200万人にリーチし、クリック率(CTR)も20%に達した」と成果を語る。30代以上女性やネットをスマートフォンのみで利用する層の消費行動スコアでは1位を獲得している(上表)。
看板商品のプロモーション時期だけでなく、通常時もFacebook広告は効力を発揮する。
既存顧客に対して活用したのが「カスタムオーディエンス」機能。企業が持つ顧客情報とFacebookのデータベースを突き合わせて広告配信対象を設定できる機能だ。同社のPJメルマガを購読していて、同じメールアドレスでFacebookにログインしている人を配信対象とすることで、CTRを高められたという。
新規顧客へのアプローチもFacebook広告の活用で精度を高めることができる。利用しているのは「類似オーディエンス機能」。PJの既存顧客は、例えば雑誌A、ブランドB、店舗Cが好きな人が多い傾向があるとすれば、Facebookユーザーの中からそれらをファン登録している人をリストアップして配信対象にできる。同社Facebookページのファン数は約6万人。通常投稿では1万人に表示できるかどうかの規模だ。Facebook広告ならば女性ユーザーの大半が対象になりえる。
もちろん、同社がカタログ制作で培ってきた魅惑的な写真コンテンツがCTRを高めている面も大きい。Facebook広告を活用する企業が増えて以前ほど成果を上げにくくなっているため、広告コンテンツそのものの魅力も不可欠だ。
目を引く写真で期待煽る
消費行動スコアを昨年の44から今年53へと引き上げ、順位も71位から36位へとジャンプアップしたのがJTB。昨年は後塵を拝したエイチ・アイ・エスや近畿日本ツーリストなどを抑え、同業で首位に躍り出た。

原動力の1つがFacebook。実は同社ではFacebook公式ページを、「商品をアピールする場でなく、顧客の共感を得る場」(JTBグループ本社ブランド戦略推進室の原禎芳グループリーダー)と位置付けており、商品をアピールして売り上げに直接結びつけるような投稿はあえて控え、ECサイトへの誘導もしていない。
代わりに力を入れているのが、「投稿のクオリティーの高さとタイムリーさの追求」(JTBグループ本社旅行事業本部の本橋俊一・個人事業推進担当マネージャー)。すなわち、ハワイのきれいな海や東北独特の勇壮な祭りなど、思わず旅をしたくなるような観光地の魅力的な写真や、JTBが企画したキャンプや親子体験の模様を写した写真などを、世の中で注目されるような時期に投稿し、リーチを上げることを重視してきた。KPI(重要業績評価指標)は、今もファンの数とリーチの高さだ。

「投稿1つでユーザーが拡散し、顧客とのコミュニケーションを深めることができる。こうした取り組みが、結果として売り上げにつながるようになってきたのでは」と、Facebookページの運営などを担うJTBコミュニケーションズのソリューションデザイン局の坪井雄弘プロデューサーは言う。実際、JTBでは投稿のクオリティーを高める仕組みを、2011年7月の公式ページ開設以来、3年かけて磨き上げてきた。
同社は旅行事業について、Twitterは各支店などで原則、自由に開設できる代わり、FacebookやGoogle+、LINEはグループ本社が運営する公式ページに原則1本化し、一部の例外を除き、国内各支店ではアカウントを勝手に運営させない方針を採っている。そして、原氏など14人のメンバーが集まって毎月1回開催されるFacebook事務局の編集会議で、1日何回投稿すべきか、どんな内容の投稿をどの時間帯に投稿すべきかなどを議論し、向こう1カ月の方針を決めるのだ。

JTBはこの会議の場に、グループ全体から、写真などFacebookの投稿に向くリソースを集めるようにした。すると一昨年頃から、「この会議の場に、グループ内から様々なアイデアが持ち込まれるようになった」(本橋氏)のだ。
JTBは、FacebookはもちろんGoogle+やTwitter、YouTube、LINEといった調査した複数のソーシャルメディアのすべてで、今回の接触率(そのメディアにアクセスしたことのある人の比率)が前回のそれを上回った。Facebookは15.8%から17.6%へ、YouTubeは2.6%が5.1%へという具合だ。顧客の目に見えるコンテンツの質を重視してリーチを増やす考えが、奏功した。
Facebookのリーチ率低下という事態を経て、新たなフェーズに入った企業のソーシャル活用。だがこれで終わりではない。変化はこれからも続く。変わる兆しをいち早く捉えて、ソーシャル活用をさらに深化させる不断の努力が、マーケターには求められている。
マクドナルド「好感」スコア最下位の衝撃
各社のソーシャル接触者のうち「好感を持った、共感した」と回答した人の割合を偏差値化した「好感スコア」で、マクドナルドがワースト1位に転落した。本調査は昨年12月実施のため異物混入騒動の影響はない。
仕入れ先だった中国の食品加工会社が期限切れの鶏肉を使用していた問題が急落の要因だが、好感スコアは以前から年々下がっていた。2012年47.9、2013年44.8、2014年41.1、そして今回29.2。カウンターからメニュー表を排除、注文から60秒以内に用意できなければ無料券を配るといった、ピント外れの効率化に対する疑問が鬱積していたところに不祥事が直撃し、愛着が失われた格好だ。
消費行動スコアは今回も上位だが、異物混入後は目に見えて来客が減っているだけに、信頼回復の取り組みが不十分であれば来季、消費スコアも転落の可能性は十分にある。

ソーシャル活用売上ランキング調査概要
2014年11月に、上場企業とそれに準じる有力企業(ネット専業企業などは除く)のFacebookページのファン数、Twitterアカウントのフォロワー数、LINEの友だち数、YouTubeチャンネルの再生回数を調査(調査協力:ユーザーローカル)。Facebookページのファン数とTwitterアカウントのフォロワー数上位の企業・ブランドを対象にアンケートを実施した。
アンケート調査:ネット調査を実施して、各企業のソーシャルメディア上の情報を見聞きしたことによる意識の変化や行動を調査。各項目の回答比率を合計して、その値を偏差値化し、「好感スコア」「興味関心スコア」「消費行動スコア」の3つのスコアにした。企業の収益に直接的に貢献する「消費行動スコア」を重視し、ランキングを掲載している。調査期間:2014年12月9日~12月22日。1万5880人の有効回答を、回答者が性・年代で均等割付になるように集計。調査協力:日経BPコンサルティング