資生堂がDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を活用した広告配信を積極化している。昨年7月に自社サイト「ワタシプラス」の顧客情報やアクセスログに基づいた広告配信を始めた。さらに、11月には新規顧客の効率的な獲得を目指して、「Yahoo!DMP」の活用を開始。ヤフーの持つオーディエンスデータを組み合わせた広告配信を実施した。その結果、データに基づいて配信した広告は、単純なデモグラフィックによるターゲティング広告と比較して、クリック率(CTR)が5倍、成約率(CVR)は3倍高くなる成果につながった。

ワタシプラスはブランドサイト、EC(電子商取引)サイト、店舗情報など、資生堂の持つ情報を総合的に扱うサイトだ。開設時からプライベートDMPを構築して、過去の購買データやアクセスログなどのデータなどを蓄積していたものの、これまでは顧客に合わせたサイト上のコンテンツの出し分けや、メール配信など、CRM(顧客関係管理)施策への活用にとどまっていた。
そのデータを外部の広告に活用しようと考えたのは、多くの顧客を抱える大手企業ならではの悩みが背景にある。ワタシプラスは、新規顧客を送客する役割を既存の店舗網から期待されている。ところが、「レスポンス型の広告配信は、効果が高くても、既存顧客が多く含まれていることが多い。そもそも顧客の母数が大きいため、新規顧客に絞った広告配信がしづらかった」(国内化粧品事業部デジタル事業推進部の徳丸健太郎課長)。
自社データだけでは量に課題
こうした課題に直面する中で、目を付けたのが、自社でDMPに集めていたデータだ。ECサイトでの購買情報はもちろん、ワタシプラスと契約する実店舗の購買情報、オンラインカウンセリングの利用履歴などのデータも持つ。このデータを使って、既存顧客を広告配信の対象から排除することで、新規顧客に効率的にアプローチできると考えた。
早速、7月にブレインパッドが提供する「Rtoaster Ads」を導入した。プライベートDMPに蓄積したデータを活用して、広告配信を最適化できるツールだ。資生堂は元々ブレインパッドのDMPを活用していたため、導入はスムーズだった。
広告を配信する上では、対象者を「購買履歴のない会員」「サイト訪問履歴のある非会員」「非ターゲティング」という3つに分けた。非ターゲティングで広告を配信したのは、あくまでデータに基づくターゲティングと成果を比較するためだ。さらに、設定したグループを過去のアクセスログなどから、スキンケア商品に関心が高い人や、カートページで離脱した人などに細分化してセグメントを作り、DSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)でトライアルセットの購入を促す広告を配信した。その結果、購買履歴のない会員への配信は非ターゲティングと比較してCVRが5倍、サイト訪問履歴のある非会員は3倍となる成果につながった。

その一方で、新たな課題が浮上した。Rtoaster Adsの活用ではあくまで、自社で所有するデータに基づいて配信した。1社で持てるデータ量には限りがある上に、新規顧客に絞るため、配信対象者のボリュームが取れなかった。そこで第三者のデータも組み合わせることで、広くリーチを取る施策に挑んだ。活用したのが、Yahoo!DMPだ。
オーディエンス拡張でCVR3倍
Yahoo! DMPは、Yahoo! JAPANの検索履歴や行動履歴などから広告主がセグメントを作って広告を配信できる。また、資生堂はタグ管理サービス「Yahoo!タグマネージャー」を活用することでYahoo!DMPにワタシプラスのデータも統合。ヤフーの持つデータと自社のデータを組み合わせたターゲティング広告の配信を実現した。
Yahoo!DMPは昨年11月に活用を始めた。10月に化粧品「エリクシール」のブランド刷新に合わせて、抽選で400万人にサンプルキットが当たるキャンペーンを実施し、同時にトライアルセットをネット販売。新規顧客の獲得を狙った。ターゲットを主に2つのグループに分けて、それぞれに異なるアプローチを試みた。
まず、1つ目のグループは資生堂との関与度が低い人。例えば、ワタシプラスへの訪問経験がないような人の場合は最初から購入につなげるのはハードルが高いと考えて、サンプルキットが当たるキャンペーンを案内した。一方、「Yahoo!ショッピング」で資生堂の商品を検索したことがある人など、比較的資生堂との関与度が高い人にはトライアルセットを告知して、購買を狙った。
ワタシプラスで過去にエリクシールの商品を購入したことがある人と近しい人を類推する、オーディエンス拡張にも取り組んだ。配信方法は下記の4つ。
(1)ヤフーとグーグルのディスプレイ広告ネットワークへデモグラフィックでターゲティングして配信
(2)デモグラフィックでターゲティングしてYahoo!JAPANの純広告を配信
(3)Yahoo!ショッピングなどの閲覧データを活用してYahoo!プレミアムDSP経由で広告配信
(4)オーディエンス拡張を活用してYahoo!プレミアムDSPで広告配信
結果は、(4)は(1)と比較して、CTRが5倍、CVRは3倍高い成果につながった。「課題だった量も十分取れた」(国内化粧品事業部デジタル事業推進部の山崎智史氏)。
組織連携でも大きな一歩を踏み出せた。資生堂は販促とブランディングで、ネット広告を出稿する部門が分かれている。「コスト面からも改善の余地があると考えていた」(山崎氏)。そこで本施策ではYahoo!JAPANへの出稿をデジタル事業推進部に一本化した。ブランディング広告の担当部門であるコミュニケーション統括部と連携し、共通のCookie(クッキー)を使い、プランニングや配信を実行した。
こうした取り組みは同社初。限られた範囲だが、ブランディングと販促を統合的に実施する道筋が作れた。「いずれ他のブランドにも展開していきたい」と徳丸氏は語る。DMPをさらに効果的に活用した広告配信を目指す。