カタログ通販事業の「ディノス」は、EC(電子商取引)サイトのマーケティングにおいて検索連動型広告の成約率(CVR)の低下という課題を抱えていた。「キーワードの追加や変更、入札価格の最適化など、さまざまな手を打ってきたものの、限界が近づいていた」とディノス・セシールのディノス事業ディビジョン営業推進本部マーケティング部WEB推進ユニットの井筒秀樹ユニットマネージャーは振り返る。

購買意欲が高まり、あと一押しで買いそうな人に絞ってクーポンを表示

 そこで視点を変え、広告の誘導先ページでのアプローチに切り替え、広告経由のサイト来訪者に一律で1000円割引になるクーポンを表示した。これにより、CVRは8%向上する成果を得られた。ディノスの取り組みはこれにとどまらない。さらに、クーポンの無駄打ちを減らすことで、効率的な顧客獲得を実現している。

 実は一律のクーポン表示では、購買意欲の低い人や、そもそも割引をしなくても購買につながるような人にもクーポンを提供していた可能性がある。前者ではクーポンの無駄打ちになり、乱発することでブランド価値の低下にもつながりかねない。後者は利益率の低下につながってしまう。ディノスは、より効率的に顧客を獲得するために、一律のクーポンを減らして、あと一押しで購入が見込めそうな来訪者に絞ってクーポンを表示することを目指した。

マウスの動きで購買意欲を分析

 訪問者の購買意欲の高さは、サイト上の行動を記録するシステムが自動的に判断している。例えば、アパレル商品であれば、マウスの動きやブラウザーのスクロール動作などから商品写真の切り替えや、サイズの確認、クチコミの閲覧といった行動を把握して購買意欲を算出する。そうして購買意欲が高まり、もう少しで買いそうだ判断した場合に自動的にクーポンが表示され、購買を後押しする。

 また、クーポンの表示方法もさまざまなテストを実施して、効果の向上を目指した。ポップアップ型やページ上にクーポン画像を表示するといった表現手法や、「30分位内にカートのページに進むとクーポンが取得できる」といったメッセージ内容を工夫した。その結果、30分以内にカートのページに進んだ訪問者にクーポンを提供する方法では、一律でクーポンを提供した場合と比較して、CVRが30%増加する成果につながった。

 こうした成果を受けて、クーポンを表示する訪問者を広げた。広告経由だけでなく、自然検索などで訪れた人にも、クーポンを表示し始めている。ただ、自然流入してくる訪問者には、既存の顧客が含まれている可能性が広告経由よりも高い。そこで、なるべく新規の顧客に絞ってアプローチして、クーポン配信数を減らすための最適化を進めている。

 Cookie(クッキー)で過去の行動履歴を参照しているほか、例えば、サイト訪問後にすぐにセールのコーナーに行くような人や、すぐにキーワード検索するようなサイトの構造をよく理解した行動を取る人は既存客の可能性が高いという。こうした仮説から、既存客と思われる人にはクーポンを表示しないようにしている。完全に区別できているわけではないが、「クーポン経由で獲得する顧客の約6割が新規顧客」(井筒氏)になっている。

 また、クーポンの有効期限を、60分以内や90分以内に変えるテストを実施するなど、さまざまな最適化に取り組んだ。結果、クーポンのCVRは、一律配信した場合と比較して64%高くなった。

 クーポンを表示する仕組みは、EC支援会社のDoBoken(東京都港区)が提供するECサイト向け販促支援サービス「ZenClerk」を導入することで実現した。ディノスは今後、同社のサービスを活用して、在庫処分品の販促にも取り組む。在庫数が多い商品をセールにかける前に、購買につながる可能性の高い訪問者に訴求する手法だ。大幅な値引きをせずに販売できる可能性があるため、利益率の低下を抑えることが期待できる。そうして、顧客獲得効率のさらなる向上を目指す。