スイスホテル南海大阪(大阪府大阪市)が、オンライン旅行サイト「エクスペディア」や旅行情報サイト「トリップアドバイザー」などに書き込まれた顧客の声を利用して、ホテルサービスの質を向上させ、顧客満足度アップと売り上げ増を達成している。施策開始前に宿泊客に占める外国人観光客の比率は半数以下だったが、昨年には85%にまで達している。
同ホテルは、シンガポールのラッフルズホテルと同じホテルグループに属する「スイスホテル」ブランドを日本で唯一、冠するシティホテルだ。そのため、外国人宿泊客は元々多く、エクスペディアやトリップアドバイザーなどに書き込まれた利用客の英語と日本語のコメントを編集した「ボイス・オブ・カスタマー(VOC)」を2009年から制作していた。ホテルに対してポジティブなもの、ネガティブなものに分類し、紙で一覧できるようにして、ホテルのゼネラルマネジャーはもちろん、宿泊部門や料飲部門など各部門の責任者にVOCを毎月届け、改善を促すようにした。
集めた顧客の声は「朝食のジュースの味がよくない」「様々な頼み事をするコンシェルジュの対応が他のホテルと比べて今ひとつ」など多岐にわたる。ホテルの現場スタッフは、サービスクオリティーの責任者からの同様の指摘を受けても、それまでは聞き流す向きがあったが、「『具体的に●人の顧客がこういう指摘をしているのだから直してほしい』と話すことで急速に改善が進んだ」(同ホテルサービスクオリティー担当部長のクリストフ・アーツ氏)と言う。
書き込みがあればスマホへアラート
サイトへの書き込みに対しては可能な限り当日中に返信することをルール化。さらに、トリップアドバイザーなど指定サイトにスイスホテル南海大阪に関わる書き込みがあった場合、各部門の責任者や管理職のスマートフォンに即時にアラートが届き、内容をチェックしてその場で返信できる管理システムも導入した。「顧客の声に対してすぐ適切な返信をすれば、多くの顧客は『このホテルは私たちの声を聞いてくれる』と受け止め、好感度が確実に上がる」(アーツ氏)からだ。
2012年には、サービスクオリティーの向上と従業員のインセンティブを結びつける取り組みも始めた。トリップアドバイザーが定める「大阪にあるホテル・旅館ランキング」の順位が上がったら、部門で働く従業員の人事評価を引き上げるようにしたのだ。サービスクオリティー引き上げに対する従業員のモチベーションが上がったのは想像に難くない。
これらの施策の結果、スイスホテル南海大阪は2012年8月、それまで単独ホテルではほとんど取得できなかった品質マネジメントに関する国際規格「ISO 9001:2008」の取得に成功。2013年12月には、トリップアドバイザーの「大阪にあるホテル・旅館ランキング」で4位を獲得するまでになった。2010年には同ランキングで20位以下をうろうろしていた同ホテルが、2年でランキングを急上昇させたことになる。
現在は、利用客が宿泊する部屋やレストランにサービスの品質についてコメントを書けるカードを置き、リアルな声も集めている。集まってくる声は現在、サイトとリアルを合わせ、「平均で毎月800件ほどになる」(アーツ氏)という。
また、外国人観光客は文化圏ごとに考え方が異なるため、顧客ごとに対応を変えなければいけないことを従業員に考えさせるトレーニングプログラムも本格導入した。例えば、「チェックイン直後の宿泊客を従業員が部屋まで案内する時、電気スイッチの使い方を教えることは、日本人観光客ならば余計な口出しになるが、中国人観光客には必須のサービス」(アーツ氏)といったことを教えている。
サービスクオリティーが向上し、トリップアドバイザーのランキングも4位まで上がったことで、宿泊客に占める外国人観光客の比率が顕著に上がった。このため、「周囲の競合ホテルに比べて宿泊料金を割高に設定しても、ランキングやサイトでの受け答えを見た外国人観光客から予約が入るので、ここ数年、宿泊部門の売り上げは確実に伸びている」(深尾大地セールス&マーケティング部長)と言う。検索エンジン最適化(SEO)ならぬ、“トリップアドバイザー最適化”が功を奏した。
中国語のサイトに書かれた顧客の声にも対応するため、昨年4月には中国語を流ちょうに操るスタッフも採用した。今後も利用客の声に基づいてサービスクオリティーを引き上げ、トリップアドバイザーのランキングアップを目指していく考えだ。