ローソンのソーシャルメディアアカウントでお馴染みのキャラクター「ローソンクルー♪あきこちゃん」が誕生してから、早5年が経とうとしている。ソーシャルメディア活用の成功事例として、様々なメディアでも取り上げられた。キャラクターを生み出した担当者の白井明子氏の名はソーシャルメディアのスペシャリストとして、瞬く間にデジタルマーケティング業界に知れ渡った。

ローソン 白井明子氏
「デジタルマーケティングが関わる領域の広がりとともに、全社を巻き込むケースが増える。そうしたときに、施策を実行に移しやすくするための社内人脈を持つこともマーケターにとって欠かせない」

 その白井氏の現在の立場は、マーケティング統括本部デジタルコミュニケーションプロジェクトのリーダーだ。このデジタルコミュニケーションプロジェクトは昨年9月に設置されたデジタルマーケティングの専門組織で、「各部門でバラバラにデジタルマーケティング施策が走らないように統括する役割を担う組織だ」と白井氏は説明する。

 「以前はソーシャルメディアの専任でもよかったが、ネットがマーケティングの主戦場へと移り変わる中、より広い領域に関わることを求められるようになった」(白井氏)。こうして、ソーシャルメディアのスペシャリストから、デジタルマーケティングの責任者へと役割が変わった。

 白井氏も、元々はマーケターではない。店舗の店長、ポイントカード事業の立ち上げを担った金融サービス部を経て、広告販促部で初めてマーケティングに携わるようになった。複数の部署を渡り歩いたことで、「各部門に、一緒に机を並べて働いた人がいる。デジタルマーケティングは、1つのチームだけで完結するケースは少なくなった。だから、自分がハブになって、様々な部署と連携していける環境を作っていく必要がある」と白井氏は言う。白井氏は、ゼネラリスト志向と考えられそうだ。

 ここまで、スペシャリスト志向とゼネラリスト志向に分けて、6人のマーケターのキャリアパスを紹介してきた。この6人を通して分かるのは、たとえゼネラリスト志向だったとしても、皆、コアスキルを持ち、スペシャリストの一面も見られるということだ。
 JALの渋谷氏は「データドリブンマーケティング」、東急ハンズの緒方氏は「オムニチャネル」、そしてローソンの白井氏は「ソーシャルメディア」を強みに持ちながら、仕事の幅を広げてきた。マーケターはスペシャリストであり、ゼネラリストでもあるべきなのだろう。

数字を見る習慣が重要

 翻って、マネジメント層から見て、これからのマーケターにはどのようなスキルや素養を求めているのだろうか。良品計画の奥谷孝司WEB事業部長は、「数字を見ることが好きである」人材であれば、デジタルマーケティングは参入障壁が低いという。

良品計画 奥谷孝司氏
「すべてのマーケティング施策において、数字で物事を考えるクセを身に付けること。ただ、数字にとらわれ過ぎず、クリエイティブや来店者の目に魅力的に映る売り場作りなど、右脳的な視点も持つことが求められる」

 その上で、「デジタルマーケティングはその成果がデータとして明確に表れる。それが、会社にとってどの程度の影響があるのかを理解できなければならない。そのため、マーケターは企業のビジネス領域の全体を把握していることが望ましい」と続ける。

 とはいえ、いきなり会社のビジネス領域全体を数字でつかむことは難しい。そこで奥谷氏は、「まずは自分の身の回りなど小さなところからで構わないので、数字を見るくせをつけるべきだ」とアドバイスする。分析ツールが使えれば、あとは「その数字がどういった意味を持つのかを理解しさえすればいい」(奥谷氏)というわけだ。

 ただし、「数字にとらわれ過ぎるのも危険だ」と奥谷氏は指摘する。デジタルマーケティングは、ある事象を数字でひも解いていくことは得意だが、そこでどんな結果が得られても、具体的に施策を作り出すことは難しい。

 具体的には、店舗の顧客分析から、取り扱うべき商品は導き出せたとしても、それをどう陳列すると来店者の目により魅力的に映るかは、数字だけでは分からない。「データだけでは、どうしても温もりのないマーケティング施策になってしまう」と奥谷氏は表現する。

 だからこそ、データに基づき論理的に思考する左脳と、イメージやクリエイティブを生み出す右脳の両方で考えられるマーケターこそが、理想だという。

CMOへの2つの道

 とはいえ、「そうした“スーパーマン”は非常に少ない」。

 こう指摘するのは、グーグル日本法人の前代表で、デジタルマーケティングのコンサルティング会社を営む有馬誠氏だ。そこで有馬氏は、まずマーケティングをコアスキルにしたいかどうかを、自分自身に問う。それが「Yes」であれば、身に付けたいスキルや専門性から、2つの道のいずれかを歩むことを提案する。

 その2つを下の図にまとめた。まず1つ目が、コミュニケーション設計や、メッセージを届けたい対象に合わせたクリエイティブ設計などで会社の経営課題を解決する「文系CMO」だ。

有馬誠氏が進めるCMOへの2つの道

 この文系CMOを目指す上で、事業会社にとどまる場合には、「会社の課題解決につながる実践をとにかく多く積むことだ」と有馬氏は言う。全世界のありとあらゆる事例を研究して、それを自社の課題解決施策に落としこむ。こうして、「成功体験を身につけることが重要になる」(有馬氏)。もし、事業会社にとどまることにこだわらない場合は、有馬氏は「経営コンサルティング会社や総合広告代理店の営業職」への転職も勧める。

 一方の、「理系CMO」は、社内外を問わず、あらゆるデータに精通し、データを駆使して経営課題を解決する。こちらを目指すには、「通信制の大学などでも構わないので、データサイエンスをきちんと学ぶべきだ」(有馬氏)と言う。実践で活用するツールは、マーケティングであればDMPとなる。まず、プライベートDMPを構築し、次にオーディエンスデータを活用したマーケティング施策に踏み込んでいくことになる。

 こう聞くと、ハードルが高く感じるが、まず覚えるべき分析手法は5つでいいという、JALの渋谷氏の言葉を思い出すといいだろう。最低限の手法ではあるが、これで成功体験を積むと、「より高度な手法を自ら学び始めることが多い」(渋谷氏)。理系CMOを目指す場合にも、成功体験を積み重ねることが早道となる。

 理系CMOを目指す上で、現在の会社にこだわらない場合はDMPの開発会社などが候補になるだろう。ただ、文系CMOと理系CMO、いずれを目指す場合でも、有馬氏が最もお勧めするのは、「マーケティングからブランディングまで、幅広く任せてくれるような中堅企業」だ。様々な分野で責任を持ち、成果をあげる方が急速な成長が見込め、人材としての価値も高まるとの考えだ。

 そうして、地道に成果を上げておけば、「あと5年もすれば、マーケティングにおけるデジタル活用は当たり前になり、わざわざデジタルと切り離すことがナンセンスな時代になるはずだ。そのときに、デジタルマーケティングの経験を持っていれば、相対的に価値が高まることは間違いない」(有馬氏)と断言する。

 5年後といえば、東京オリンピックが開催される。開催に向け、テレビとネットの連携もさらに深まることが予想される。デバイスの多様化を含め、あらゆる分野にデジタル技術が活用されるだろう。その時代が訪れるころには、デジタルマーケティング出身のCMOが国内にも数多く誕生することになるはずだ。